相続税の課税対象額の計算では、相続された土地や家屋はまず自用地(自分が住宅として使用する土地)として評価額を計算します。
そして、もしその不動産が貸家として使われていた場合は、貸家建付地として、自用地としての評価額から、借地権割合、借家権割合相当の金額が控除されます。
貸家建付地の評価額 = A -(A × 借地権割合 × 借家権割合)
A:自用地としての評価額
貸家建付地等の評価における一時的な空室
上記のように、貸家建付地の評価については、実際に賃貸借契約を行っている限り、その借家権や借地権の割合分が相続税課税対象額から控除されます。そのため、相続開始時にたまたまその貸家が空き家(空き室)だった場合について、相続税の評価をどうするのかが問題となることがあるでしょう。
実は、この空き家(空き室)の扱いについては、アパートやマンションのような集合住宅と、戸建ての一軒家を賃貸する貸家とで大きく異なっているのです。
(1)アパート等の一部が課税時期に一時的に空き室になっている場合
以下の条件に当てはまる場合は、空き室についても賃貸されているとみなすことができます。そのため、多くの場合は満室の場合と同等の相続税評価額となり、相続税は大きく減額されるでしょう。
1.各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきた
2.賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われた
3.空室の期間、他の用途に供されていない
4.空室の期間が課税時期の前後の例えば1ケ月程度であるなど一時的な期間であった
5.課税時期後の賃貸が一時的なものではないという事実がある
なお、集合住宅の場合の貸家建付地の評価額については、以下の式で算出することになります。
集合住宅の貸家建付地の評価額 = A -(A × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
A:自用地としての評価額
賃貸割合 = 課税時期に賃貸されている独立部分の床面積の合計 ÷ すべての独立部分の床面積の合計
(2)1棟の貸家が課税時期に一時的に空き家になっている場合
集合住宅の場合は、条件を満たせば、空き室も賃貸されているとみなすことができました。しかし、一軒家の貸家の場合は、それが認められません。
つまり、課税時期に空き家だった場合、そこは貸家建付地ではなく、自用地として評価しなければいけないのです。
もしその貸家がそもそも賃貸物件として建てられたという明確な証拠がある場合や、過去に賃貸借契約を行った事実があり、課税時期にたまたま空き室になって入居者を募集していたとしても、貸家建付地としては認められません。なぜなら、課税時期に貸し付けられていないからです。
もちろん、これでは上記の集合住宅の場合と矛盾すると思うかもしれません。しかし、課税時期に空き室のある貸家建付地の財産評価について規定している「財産評価基本通達26」がそれを明確にしています。
財産評価基本通達26では、「独立部分」が存在していることを前提とした規定になっているのです。
そのため、独立部分がない戸建て物件の借家については、この財産評価基本通達26が該当しないことになり、自用地として扱われることになるわけです。
【参考】
国税庁 質疑応答事例 貸家建付地等の評価における一時的な空室の範囲
国税庁 財産評価基本通達26(貸家建付地の評価)