やってしまいがちな相続税申告実務のミス10選

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相続税の申告実務でやってしまいがちなミスをご紹介します。相続税法をしっかり勉強して、市販のチェックリストを頑張って潰しても、やはり経験値が少ないとミスをしてしまうことがあります。
その一度のミスが、事務所の存亡にかかわるような致命傷になることもないとは言えません。そういったリスクを最小限にとどめるためにも、こちらでぜひ学んでいってください。

1.障害者控除の適用対象者が遺産を取得しなければ控除が一切使えなくなる

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相続人が障害者であれば、その相続人が85歳になるまで1年につき10万円(特別障害者の場合は20万円)まで相続税の税額控除が受けられます。仮にその障害者本人の相続税から控除しきれないときは扶養義務者の相続税からも控除することが可能です。

ここで注意すべき点は、障害者である相続人本人が財産を一切相続しなければ、この障害者控除の枠のすべてが無駄になってしまうということです。ほんの少し、形式的でもよいので財産を相続すれば、引ききれない部分の控除額は他の相続人で使用することができますので注意が必要です。

ここでさらにありがちな勘違いが、扶養義務者の定義です。この扶養義務者は、“実際に扶養しているかどうか”は関係ありません。法律上扶養義務があるかどうかですので、配偶者、親子や兄弟間であれば当然に扶養義務者になり、この控除の枠を障害者の相続人からもらうことができます。

ですので、遺産分割の際に、税理士として、障害者である相続人が何か財産を取得するようなアドバイスを必ずしなければならないのは言うまでもありません。

2.直前の養子縁組でその養子が遺産を一切取得しなかったら租税回避とみなされる

過去の判例で次のようなものがあります。

相続開始直前に養子縁組を行い、かつその養子が財産を一切取得しなかった場合に、養子縁組自体が租税回避行為とみなされ養子縁組による相続税の節税分が認められない可能性があります。養子縁組自体の効力が否定されるわけではありません。

もちろん、養子縁組には、財産取得以外にも理由がある場合もありますので財産を取得しなかったらイコール、それが節税目的であるととらえられるわけではありません。

ただ、相続人の中にこのような養子がいる場合には、税務署に租税回避行為と疑われないために、財産を少しでもいいので取得しておきましょうと税理士としてはアドバイスする必要があるでしょう。

3.判定が微妙な広大地を当初申告で適用せずにそのまま放置してしまった

広大地が使えそうな土地があり、不動産鑑定士に判定依頼をお願いした。広大地の可能性はA~Dランクで、Cランクと言われた。可能性が低いので、当初の申告では広大地を適用せずに申告した。

確かに、当初申告で広大地を適用し、仮に否認された場合には過少申告加算税などのペナルティがついてしまいますのでなかなか納税者にお勧めすることはできません。

しかし、広大地適用の可能性が1%でもある限り、当初申告で適用せずに放置しておくのも、税理士にとってはリスクと考える必要があるでしょう。

例えば、あとになって申告書を他の税理士が見て、この相続人にこのようにアドバイスしたらいかがでしょう。
「この土地は広大地が使えます。ただ、税務署から税金を取り戻す時効はすでに経過しているので、当初に申告をした税理士を訴えましょう!」と。

恐ろしいことですが、このようなことをビジネスにしている弁護士兼税理士が実際にいるようです。

そんなことがないように、当初申告の段階で以下の対応をしっかりとるべきです。

・相続人に広大地適用の可能性が低いこと、当初申告ではリスクが高いので申告しない旨を説明し、その説明した旨の確認書に一筆サインをもらう

もしくは

・当初申告で申告せずに、申告後すぐに更正の請求で還付を試みる

4.配偶者がいる場合の小規模宅地の特例の有利判定は慎重に!!

小規模宅地の特例を適用できる土地が複数ある場合には、その有利判定を行います。
通常は、平米当たりの単価が高いものから順番に適用すると、トータルの相続税がもっとも低くおさえられます。

もちろん、居住用(80%、330㎡)と貸付用(50%、200㎡)がある場合には、この上限面積と%の調整計算も必要となります。

ただ、ここまでは誰しもが行うと思いますが、忘れがちなのが配偶者の税額軽減の効果です。
小規模宅地の特例を適用する土地を相続するのが、“だれか”というのにも着目する必要があります。
ここで、せっかく評価を下げた小規模宅地の特例の適用対象地を相続するのが配偶者であった場合、もともとその配偶者の税額は配偶者控除でゼロになるといったケースもあります。

その場合には、単価計算でもっとも高い土地に小規模を適用したとしても、トータルの相続税が低くならないケースも十分にありえます。

ですので、配偶者がいる場合の小規模宅地の有利判定には十分注意する必要があります。不安であれば、実際に申告書ソフトに数パターン入力してみて最終納税額の合計をチェックするようにしましょう。

ちなみに、一度選択した小規模宅地の特例は更正の請求などで選択の変更ができません。この選択アドバイスを誤ると損害賠償請求をされても文句が言えません。

5.非上場株の純資産評価で“税務上の簿価”に修正していますか!?

取引相場のない株式の相続税評価を行う際、純資産評価で決算書の簿価を相続税評価に焼き直しをする必要があります。ひとつひとつの資産を相続税評価に置きなおしていく作業は骨がおれます。

ここで、やりがちなミスが、決算書上“簿外”になっている“税務上の資産”がある場合です。
分りやすい例で、減価償却の償却超過があります。会計上は減価償却資産として100計上されていたとします。ただ実際は税務上、減価償却が20否認されていて実際の税務上の簿価は120だったとします。この場合には差額の20が決算書上、簿外になっていますので、相続税評価を行う際には反映させる必要があります。

これは、法人税申告書の別表5を見て確認をする必要があります。
別表5の記載内容だけではその内容がわからない場合がありますので、その申告書を作成した税理士に確認をする必要がでてくる可能性もあります。

6.名義預金の計上、保守的という名目で過大納税になっていませんか!?

・被相続人の父名義の預金:1,000万円
・ずっと専業主婦の妻名義の預金:5,000万円
・直近5年の通帳を見たが預金の移動は一切なし

こんなときに、税理士としてどのように処理をしますか?

A.名義通りに妻名義の預金はすべて相続財産から除外
B,保守的に妻名義の預金5,000万円をすべて相続財産に計上

正解は・・・・

この前提条件だけでは正解はわかりません。
妻名義の預金口座を開設したのは?署名は?印鑑は?まただれが管理していた?
さらに結婚前の持参金は?親の相続で得たものは?金融機関で見れる過去10年の預金移動は?

こういったことをすべて調査した上で総合的に判断する必要があります。

ただ、ここで言えるのは、安易にBを選択しないことです。税金を過大納付すれば税務署からは文句は言われませんが、当初申告でBを選択して申告した場合に更正の請求で税金を取り戻すのは困難を極めます。

7.倍率地域の雑種地の評価、固定資産税評価×倍率としてはいけない

倍率地域の相続税評価は、固定資産税評価額に倍率をかけて終わりと思っていませんか?

固定資産税評価証明書の課税地目に“雑種地”と書かれている場合。課税地目が“宅地”であれば、宅地に対応する倍率をかけて相続税評価を求めることができます。ただ、課税地目が雑種地の場合には、その雑種地に対応する倍率は通常用意されていません。

では、どうすればよいのか?

市区町村へ電話し、”近傍宅地の評価額“を聞き、その較差割合を調整した上で、その評価額に倍率をかけて相続税評価を計算することとなります。

“雑種地としての固定資産税評価額”ד宅地の倍率”

というありがちな計算ミスに気を付けましょう。

8.入院給付金は生前の受取人次第で相続税も非課税になります

入院給付金で、生前の受取人が配偶者になっている場合、それが死後にはらわれても、配偶者固有の財産ととなり、所得税および相続税についても非課税という扱いになります。

ただ、ここで注意すべきは、“生前から”受取人が配偶者になっているということです。保険の支払い通知書だけを見ると、生前の受取人は被相続人だったが死亡したので配偶者の名前に受取人がなっているケースもあるので、その部分をよく確認する必要があります。

9.相続人の言葉どこまで信じますか?確認書はしっかりとろう!

相続税の税務調査は申告後、1年、2年たって行われることが大半です。
あの時、私は税理士の先生にこう言いました。と、言った言わないの論争が繰り広げられることを回避するために、かならず重要事項の説明には確認書に一筆もらうようにしまそう。

・生前贈与はない
・小規模宅地の特例はだれが受ける
・広大地は否認される可能性がある

など、税務上の判断が微妙な事項については確認書という形で文書で証拠を残しておくようにしましょう。

10.未分割で申告後、知らないうちに分割が完了し手遅れにならないように

遺産分割がまとまらずに、未分割で申告。その際、分割がまとまったら小規模宅地の特例を適用できるように「3年内分割見込み書」を提出。ここまでは忘れずにできていたとしてもいざ分割がまとまった後に、肝心の“更正の請求”を忘れないようにしましょう。

分割がまとまってから、“4か月以内”に、申告を行う必要があります。

手遅れにならないように、未分割案件の相続人にはこまめに(少なくとも4か月に一度)連絡を取る必要があります。

11.【まとめ】

このように相続税申告の実務においては、やってしまいがちなミスや落とし穴が数多く潜んでいます。
少しの油断が、納税者からの損害賠償という最悪のケースを招きかねません。
自己防衛のために日頃からしっかりと相続税の知識を身に着けておくようにしましょう。


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