相続財産の評価を大幅に減額できるのが「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(小規模宅地等の特例)」です。この特例の適用を受けることで、相続税がゼロになることもありますが、適用にあたっては相続人全員の同意が必要になるので注意が必要です。
~目次~
1.小規模宅地等の特例の選択同意書(相続税申告書11・11の2表の付表1)が必要となる理由
>>無料会員に入会すると、実務で使えるオリジナル書式をプレゼント!!1-1.小規模宅地等の特例とは?
小規模宅地等の特例は、被相続人が事業の用に供していた土地や居住の用に供していた土地などを相続した場合、相続税が高額で支払えないため、遺族が事業を続けられなくなったり、自宅を売却することになってしまうのを防ぐために設けられている特例です。小規模宅地等の特例の適用の対象となる宅地等と減額割合、減額対象地積は以下のようになります。
減額対象となる宅地等 | 減額割合 | 減額対象地積 |
---|---|---|
特定居住用宅地等 | 80% | 330㎡ |
特定事業用宅地等 | 80% | 400㎡ |
特定同族会社事業用宅地等 | 80% | 400㎡ |
国営事業用宅地等 | 80% | 400㎡ |
不動産貸付用宅地等 | 50% | 200㎡ |
1-2.相続財産の中に複数の土地がある場合
日本の相続税は、まず被相続人の遺産の額に着目して相続税総額を算出した後、各相続人が取得した遺産の額から相続人ごとの相続税額を算出します。
小規模宅地等の特例の適用において、相続財産に複数の土地があり相続人が異なる場合はどうなるでしょうか。
例えば、相続人が長男と次男で、被相続人が遺した遺産に特定事業用宅地に該当する土地A(500㎡)と、特定居住用宅地に該当する土地B(350㎡)があり、土地Aは長男が、土地Bは次男が相続したとします。小規模宅地等の特例では、最大限適用を受けられる地積が400㎡までと決まっているので、複数の土地がある場合は適用できる土地とできない土地が出てきます。
相続税の総額で考えると、相続税評価額が高い土地に適用を受けた方が有利になりますが、相続税は相続人が取得した財産に対して各相続人が相続税を支払う方式になっているため、適用が受けられなかった土地を取得した相続人に不満が出てしまいます。
このような場合は、どちらの適用を受けるかを話し合いにより決めますが、決着がつかず平行線になってしまう場合も多いのです。
1-3.小規模宅地等の特例の適用を受けるには選択同意書が必要
そこで、小規模宅地等の特例に適用を受けるためには、相続人全員の同意が必要という規定が定められています。
具体的には、小規模宅地等の特例の適用を受ける際に提出する「小規模宅地等についての課税価格の計算明細書(第11・11の2表の付表1)」に「特例にあたっての同意」の欄が設けられおり相続人全員の氏名を記すことになっています。「小規模宅地等の特例の対象となりえる宅地等を取得した全ての人の同意がなければ、この特例の適用を受けることはできません」とはっきりと明文化されています。
・小規模宅地等についての課税価格の計算明細書(第11・11の2表の付表1)
2-3.遺言書がある場合も選択同意書の提出が必要
選択同意書の提出は租税特別措置法で定められているため、その解釈は厳密になされます。
例えば、長男Aが相続により特定事業用宅地に該当する土地を取得し特例の適用を受けようとしたが、不動産貸付用宅地を取得した長女Aが、他の相続人全員に対し遺言無効確認等請求訴訟を起こしているような場合、長男Aは自分が取得した特定事業用宅地等について特例の適用を受けようと思っても、相続人全員の同意を得ることはできません。
国税不服審判所の裁決では、仮に長女Bに特定事業用宅地に特例の適用を受けること自体に反対しているわけではないいう個別の事情があっても、租特法の解釈は厳密にすべきということで、適用は受けられないとの判断が示されました。
2.まとめ
小規模宅地等の特例は、相続税の額が大きく変わってくる特例だけに、相続財産に複数の土地があった場合、どの土地に適用を受けるかが問題になります。相続人間の争いに発展しないように、あらかじめ話し合いの機会を設ける必要もあるでしょう。