土地の賃貸借契約である借地権契約の中に、一定期間の賃貸契約満了後、必ず契約が終了することが定められている定期借地権というものがあります。その契約では、支払う権利金の一部を賃料の前払い分としている場合が少なくありません。
定期借地権契約では、借地人から地主へ保証金と権利金が受け渡されるのが一般的です。保証金は一時的な預かり金ですので、契約満了時に返却されます。そのため保証金は課税対象にはなりません。
しかし、権利金については返還する必要がありませんので課税されます。その課税内容については、次のように取り扱われることになっています。
借地人 …… 借地権の取得価額に組み入れる
地主 ……… 不動産所得として組み入れる
権利金が権利金として扱われているだけの場合はこれで問題ありません。しかしこの時、権利金の一部を前払賃料とする契約がなされていた場合、課税関係はどうなるのでしょうか?
1.前払賃料方式の定期借地権の課税関係
定期借地権契約で支払われる権利金の一部を、一定の契約に基づいて「前払賃料」として一括で受け取る場合、上記のような単純な価額への組み入れができません。なぜなら、前払賃料は一時金となり、借地人にとっては債権、地主にとっては債務として扱われるからです。
しかし、平成17年の国税庁の回答により、前払賃料については以下のように取り扱うことができるようになりました。
借地人 …… 「前払費用」として取り扱い、期間の経過に応じて、損金または必要経費に算入する
地主 ……… 「前受収益」として取り扱い、期間の経過に応じて、益金または収入金額に算入する
これによって、借地人は一括で支払った賃料を期間に応じて費用化でき、地主は長期間にわたって債務を負うことなく、期間に応じて収益化できることになりました。
もちろん、これらの取り扱いについては、借地人と地主が相応の賃貸借契約を取り交わし、契約期間中保管して、契約に沿った実態である必要があるのは、言うまでもありません。
2.前払賃料方式の定期借地権の相続税評価
権利金の一部を前払賃料としている定期借地権について、相続が発生した場合の財産評価について考えてみましょう。
この場合、前払賃料が「期間に応じて損金または必要経費に計上する」ものですので、相続開始時にはまだ計上されていない未経過分に相当する金額があるということになります。この未経過分に相当する金額の取り扱いがポイントです。
前払賃料方式の定期借地権の相続税評価については、財産評価基本通達27-2にて、次の式で評価額を計算することになっています。
評価額 = 定期借地権の対象となる土地の相続開始時の価格 ×(A ÷ B)×(X ÷ Y)
A:定期借地権の契約時に借地人に帰属する「経済的利益の総額」
B:定期借地権の対象となる土地の「契約時の価格」
X:定期借地権の「残存期間」に前払賃料を複利で積み立てた時の「賃料の合計金額の現在価値」
Y:定期借地権の「契約期間」に前払賃料を複利で積み立てた時の「賃料の合計金額の現在価値」
ここで、(A ÷ B)は、土地の価格のうち相続人が得る経済的利益の占める割合を表しています。
また、(X ÷ Y)は、前払賃料全体のうち、相続開始後に支払われる賃料の割合です。
つまり、前払賃料方式の定期借地権の相続税評価額は、定期借地権の対象となる土地の現在価格のうち、「土地の価格の中で相続人が得る利益が占める割合」かつ「前払賃料総額の中の将来の賃料が占める割合」の価額になるわけです。
(1)定期借地権の契約時に借地人に帰属する「経済的利益の総額」
ここで、上記の式のA、「借地人に帰属する経済的利益の総額」という部分を説明しましょう。
この経済的利益は、定期借地権の契約時に借地人から地主へ支払われた前払賃料の未経過分のことです。
未経過分は相続開始時には既に支払われているものですので、相続人にとっては支払うべき賃料を支払わなくて済むことになります。そのため、(借地人(被相続人)が支払っているので利益とは逆に感じますが)相続人にとっては利益という扱いになるのです。
(2)前払賃料は、定期借地権の評価額に含まれる
上記のように、定期借地権の評価を行うにあたっては、前払賃料がどの程度残っているかが勘案されています。そのため、本来は借地人にとって債務になる前払賃料を別途財産計上する必要がないのです。
また同様に、仮に地主として相続が開始されたとしても、こちらも定期借地権の目的となっている土地の評価額から定期借地権の評価額が控除されますので、前払賃料を債権として控除することはできません。
【参考】
国税庁 文書回答事例 定期借地権の賃料の一部又は全部を前払いとして一括して授受した場合における相続税の財産評価及び所得税の経済的利益に係る課税等の取扱いについて(照会)
国税庁 財産評価基本通達27-2(定期借地権等の評価)