取引相場のない株式の相続税法上の評価方法は、財産評価基本通達で細かく定められています。ここでは、株式の割当てを受ける権利等の発生している特定の評価会社の株式の評価方法と、その株式を同族株主以外の株主等が取得した場合の例外について説明します。
1.特定の評価会社とは
特定の評価会社とは、次のような会社をいいます。
・ 比準要素(1株当たりの配当金額、利益金額、純資産価額)の数が1つまたは0の会社
・ 株式保有特定会社
・ 土地保有特定会社
・ 開業後3年未満の会社
・ 開業前または休業中の会社
・ 清算中の会社
これらの会社は、会社の資産や営業の状態が一般の会社とは異なるため、一般の会社と同じ方法では適正に評価することができません。したがって、特定の評価会社の株式の評価方法は、財産評価基本通達によって別途定められており、「清算中の会社」は清算分配見込金額で評価し、それ以外の会社は原則として純資産価額で評価することとされています。
2.株式の割当てや配当を受ける権利が発生する場合
財産評価基本通達では、上記の特定の評価会社のうち「清算中の会社」以外の会社について、株式の割当てを受ける権利や配当を受ける権利が発生したときは、評価額を修正することと定めています。しかし、例外として、「開業前または休業中の会社」と「清算中の会社」以外の会社について、同族株主以外の株主等が取得した株式は、修正の必要はないものとしています。
特定の評価会社の株式は、原則として純資産価額で評価します。株式の割当てを受ける権利や配当を受ける権利が発生したとき、純資産価額はこれらの権利を含んだものとなります。なお、これらの権利は株式とは別々に評価するので、株式の価額にこれらの権利が含まれていると、二重に評価することになります。したがって、課税時期における株式の価額を適正に評価するために、評価額を修正する必要があります。
一方、特定の評価会社の株式のうち同族株主以外の株主等が取得したものは、配当還元価額で評価します。配当還元価額は、直近2年間の配当金額によって価値を算定するものであり、その配当金額は企業の業績に基づいた安定的なものを使用します。また、株式の割当てや配当金の支払いがあったとしても、1株当たりの配当金額は維持されるのが通常です。
したがって、配当還元価額で評価した株式は、純資産価額で評価した株式と同様に考えるのは妥当ではなく、配当を受ける権利や株式の割当てを受ける権利が発生しても、評価額を修正する必要はありません。
なお、特定の評価会社のうち「開業前または休業中の会社」と「清算中の会社」については、配当を支払うことがないため、同族株主以外の株主等が取得したものであっても配当還元価額では評価しません。
【照会要旨】
課税時期において株式の割当てを受ける権利等が発生している場合には、配当還元方式で計算した株式の価額について修正を要するのでしょうか。【回答要旨】
配当還元方式により計算した株式の価額の修正は行いません。(理由)
1 課税時期が株式の割当基準日の翌日からその株式の割当ての日までの間にある場合には、増資による株式の増加は実現していませんが、株式の割当てを受ける権利が発生していることになり、株式とは別に独立したものとして評価することとしています(評基通190)。この場合、株式が上場株式であれば、その株式の割当てを受ける権利の発生と同時に株式の価額は権利落のものとなり、取引相場のない株式については、評価する株式の価額はその株式の割当てを受ける権利を含んだものとなります。
そこで、1株当たりの純資産価額や類似業種比準価額などの原則的評価方式による方法で評価した取引相場のない株式の価額については、その価額を修正することとしています(評基通184、187、189-7)。
2 一方、配当還元方式による配当還元価額は、課税時期の直前期末以前2年間の配当金額だけを株価の価値算定の要素としているものであり、かつ、その配当金額は企業の実績からみた安定配当によることとしていることに基づくものです。
増資は、一般的に企業効率の向上を図るためそれぞれの目的のもとに行われるものであり、増資による払込資金は、通常事業活動に投下され相応の収益を生むこととなります。一般に、増資によって株式数が増加しただけ1株当たりの配当金が減少するとは限らず、むしろ維持されるのが通常です。
このようなことから、安定配当の金額を基礎として評価した株式の価額は、株式の割当てを受ける権利等の権利が発生している場合であっても、1株当たりの純資産価額や類似業種比準価額などの原則的評価方式による方法で評価する株式の場合と同一に考えることは適当ではありませんので、配当還元方式により計算した株式について課税時期において株式の割当てを受ける権利等が発生していても、その株式の価額の修正は行いません。【関係法令通達】
財産評価基本通達187、188、188-2、189-7、190~193
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