生命保険契約の転換の際に、生命保険会社が保険契約者に貸している貸付金と、保険契約者が積み立てた剰余金などを相殺することがあります。この場合、相続税法上、相殺された金額の贈与があったものと見做します。以下では、このことを意味する相続税法上の「生命保険契約の転換があった場合」の取扱いについて解説します。
生命保険契約の転換とは
まず、最初に、生命保険契約の転換の意味を説明します。生命保険契約の転換とは、現在契約している保険契約を解約し、それにより支払われる解約返戻金を利用して、新しい生命保険契約を締結することをいいます。
生命保険契約の転換は、生命保険の下取りとも呼ばれ、現在の契約を活用しながら新しい契約を締結するため、費用を抑えつつ、保険料や保障額、保険期間などの保険契約の変更が可能となります。
生命保険の転換により契約者貸付金と責任準備金を相殺すれば、贈与と見做される
さて、相続税法第5条第2項においては、生命保険契約又は損害保険契約に係る返還金やこれに準ずるものは、返還金等の受取人以外の者がその保険契約の保険料を負担していた場合には、保険料の負担者から返還金等の受取人に対して贈与したものと見做す、という規定があります。
そして、相続税基本通達5-7においては、生命保険の契約転換制度を利用した場合において、
転換と同時に、転換前の契約に係る保険者から保険契約者に対する貸付金等と、転換前の保険契約の責任準備金(積立金、剰余金、割戻金等)を相殺した場合についての規定があります。
それによると、上記の例により相殺を行なった場合、その相殺した貸付金等の金額は、相続税法第5条第2項の「返還金その他これに準ずるもの」に該当します。よって、転換制度の利用に際して契約者貸付金と責任準備金を相殺した場合には、その相殺額は、保険料負担者から還付金等受取人に贈与されたものと見做されます。
契約者貸付金と責任準備金の相殺が何故贈与になるのか
なぜ、保険契約の転換の際に、契約者貸付金と責任準備金の相殺を行った場合、その価額が贈与財産と見做されるかというと、契約者貸付金は、被保険者が死亡した場合には保険金から、解約した場合には解約返戻金により清算(相殺)が行われます。
保険契約の転換時に、契約者貸付金と責任準備金の相殺が行われた場合、契約者貸付金が少なくなることによって、保険金(解約返戻金)の受取人は、相殺額が減るので受取額が増額するというメリットを受けます。しかし、貸付金との相殺の対象となる責任準備金の負担者は、保険契約者で、保険金等受取人ではありません。
その結果、保険金等受取人は、保険契約者から保険契約の転換に際して、責任準備金と相殺された貸付金の金額分の贈与を受けたと同じメリットを受けます。それで、税法上、これを贈与と見做すという結論になります。