現金、預金、不動産などの被相続人の財産は、相続開始、つまり被相続人の死亡と同時に相続人に承継されます。相続財産が被相続人のものであることが確認できれば大きな問題にはなりませんが、相続財産が被相続人のものなのか、あるいは他人のものなのかについて、争いになることもあります。このような場合は民事訴訟で解決を図ることになりますが、訴訟中の権利についても、相続開始の時点で相続人に承継されることになります。
1.訴訟中の権利の評価方法
訴訟中の権利の価額については、財産評価基本通達で「課税時期の現況により係争関係の真相を調査し、訴訟進行の状況をも参酌して原告と被告との主張を公平に判断して適正に評価する。」と定められています。つまり、一律の評価基準や計算式といったものはなく、被相続人が亡くなったときの状況等に応じた個別の判断が求められています。
2.交通事故に遭った場合の損害賠償請求権
被相続人が交通事故に遭って、損害賠償について加害者と争っている途中で死亡した場合、その損害賠償請求権は相続財産となり、損害賠償請求権の評価額が相続税の課税価格に算入されます。
損害賠償金の支払額が相続開始の時点で確定していれば、その金額を相続税の課税価格に算入します。係争中に相続が開始して損害賠償金の金額が確定していない場合には、損害賠償請求権の価額を財産評価基本通達の訴訟中の権利の評価方法の定めによって評価して、相続税の課税価格に算入することとなります。しかし、実務上は、相続開始後に確定した損害賠償金の金額で損害賠償請求権を評価するものと考えられます。
これとは別に、民法第711条では、不法行為によって生命の侵害を受けた者の父母、配偶者、子は、固有の損害賠償請求権を取得するものとされています。この規定に基づいて受け取った損害賠償金は相続財産とはならず、相続人が加害者から受け取ったものとして所得税法上の非課税所得となります。
つまり、相続人が受け取った損害賠償金は、被相続人が受け取ることになっていたものか、相続人が自ら請求したものかによって、次のように税務上の取り扱いが異なるので注意が必要です。
● 被相続人が受け取ることになっていた損害賠償金…相続財産として相続税の課税価格に算入
● 相続人が自ら請求した損害賠償金…所得税法上の非課税所得
前者は被相続人が受け取った損害賠償金を相続人が相続したという考えによるため、相続税が課されます。一方、後者は相続人自身に対する損害賠償金であるため、非課税となります。
【財産評価基本通達】(その他の財産)
(訴訟中の権利)
208 訴訟中の権利の価額は、課税時期の現況により係争関係の真相を調査し、訴訟進行の状況をも参酌して原告と被告との主張を公平に判断して適正に評価する。
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