相続税は財産の価値に応じて課税されるものですが、財産の特徴によっては非課税とされるものも存在します。
このページでは、非課税財産のひとつである「庭内神し」の概要や、庭内神しのある敷地の相続税評価についてご紹介しましょう。
~目次~
1.庭内神し(ていないしんし)とは?
>>無料会員に入会すると、実務で使えるオリジナル書式をプレゼント!!庭内神しとは、屋敷の中にある「日常礼拝の対象」のことです。具体的には、不動尊(不動明王)、地蔵尊(お地蔵さん)、道祖神(塞の神)といった、人々に広く信仰されている御神体を祀ったものを指します。
1-1.庭内神しの相続税評価について
相続税の非課税財産について定められた相続税法第12条では、「墓所、霊びよう及び祭具並びにこれらに準ずるもの」を非課税財産としています。さらに相続税法基本通達では、「これらに準ずるもの」に該当するものとして、庭内神しや神体、仏像などを挙げています。霊びょう等に準ずる庭内神しは、相続税の非課税財産として法的に認められているといえるでしょう。
1-2.非課税財産として認められない物もある
なお相続税法基本通達では、「墓所、霊びよう及び祭具並びにこれらに準ずるもの」として認められない物についても触れています。
(祭具等の範囲)
12-2 法第12条第1項第2号に規定する「これらに準ずるもの」とは、庭内神し、神たな、神体、神具、仏壇、位はい、仏像、仏具、古墳等で日常礼拝の用に供しているものをいうのであるが、商品、骨とう品又は投資の対象として所有するものはこれに含まれないものとする。
つまり投資の対象や骨とう品としてコレクションしているものは、日常礼拝の対象物であっても相続税の課税対象となりますので注意しましょう。
では次に、庭内神しのある「敷地」の相続税評価について見てみましょう。
2.庭内神し(ていないしんし)の敷地の相続税評価方法
従来の相続税法では、非課税財産とされたのは「庭内神し」そのもののみであり、庭内神しのある敷地については課税の対象となっていました。
しかし2012年、「庭内神しの敷地を課税対象とする」という税務当局の決定を不服とする訴訟が起こります。
結果、東京地裁が出した判決は、「庭内神しの敷地も一定の条件下であれば非課税財産であると認める」というものでした。この判決にともない、国税庁は同年7月、庭内神しの敷地等に関する相続税法の変更を行います。
2-1.庭内神しの敷地として認められる条件とは?
国税庁の「『庭内神し』の敷地等に係る相続税法第12条第1項第2号の相続税の非課税規定の取扱いの変更について」では、庭内神しの敷地として認める条件として以下の3つのポイントを挙げています。
1.庭内神しの設備が信仰の場として敷地に定着しており、外形も境内地等の様相を成していること
2.庭内神し及びその附属設備が建てられた経緯や目的が日常礼拝に沿っていること
3.庭内神し及びその附属設備が、礼拝の場として機能していること
以上の3つのポイントを満たしている場合は、庭内神しのある敷地も「墓所、霊びよう及び祭具並びにこれらに準ずるもの」として認められ、非課税財産となります。
もちろん相続税の節税にもなりますが、節税目的でお地蔵様等を敷地に置いた場合は上記の条件にそぐわないため、庭内神しの敷地として認められません。
3.庭内神しのある敷地の相続税評価にあたっての留意点
3-1.非課税となった経緯
従来、「庭内神し」の敷地の取り扱いについて、相続税法上の非課税財産である「庭内神し」そのものと、その敷地部分は別個のものであるため、相続税法第12条第1項第2号の相続税の非課税規定の適用対象とはならないものとして取り扱われてきました。
しかし、平成24年6月21日の東京地裁判決を受けて、以下に掲げる①~③の項目を考慮した上で、「庭内神し」の設備と社会通念上一体の物として日常礼拝の対象とされているといってよい程度に密接不可分の関係にある相当範囲の敷地や附属設備である場合には、その敷地及び附属設備は、その設備と一体の物として相続税法第12条第1項第2号の相続税の非課税規定の適用対象となるものとして取り扱うことに改められました。
「庭内神し」の設備とその敷地、附属設備との位置関係やその設備の敷地への定着性その他それらの現況等といった外形
その設備及びその附属設備等の建立の経緯や目的
現在の礼拝の態様等も踏まえた上でのその設備及び附属設備等の機能面
3-2.庭内神しは節税対策になり得るか?
上述のように、庭内神しの敷地については非課税となるため、相続税の節税を意識して、自宅の庭に神棚等を設けることで節税対策は可能になるのでしょうか。
この点、上述のように、「敷地への定着性」や「建立の経緯」、「日常礼拝の対象か否か」といった点を総合的に勘案して判断するため、これまでなかった「庭内神し」を形式上のみで設置したとしても、相続税を非課税にすることは難しいと考えられます。
なお、既に相続税の申告をしており、かつ、法定申告期限から5年を経過していない年分の相続税申告であれば、相続財産のなかに庭内神しの敷地を含む土地が存在していた場合に、この非課税規定の適用を受けることができます。
庭内神しの敷地の規模によっては、更正の請求を検討してみてはいかがでしょうか。
3-3.現地調査で見落とさないように
庭内神しの敷地については、相続税が非課税となるため、たとえ小さな面積であっても、現地調査での確認、相続人へのヒアリングにより、非課税評価の可否を検討する必要があります。
敷地によっては、参道等を設けた立派な庭内神しもあるため、非課税額が大きくなるケースもあり得ます。