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「書面によらない贈与」は履行前に限りいつでも撤回が可能

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書面によらない贈与は履行前なら撤回が可能

贈与とは、ある人が別の人に無償で自分の財産をあげる行為であり、民法第549条では「贈与契約」として定められています。

贈与契約なので書面で行う必要があると思われるかもしれませんが、口頭であっても「あげる」、「もらう」の意思が成立すれば贈与契約が結ばれたことになります。

書面によらない贈与とは何か、また、履行が撤回できるケースとはどういったものか解説していきます。

1.「書面によらない贈与」と「書面による贈与」の違い

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1-1.そもそも「贈与」とは?

贈与は当事者の合意だけで成立する諾成契約といわれるものであり、贈与者が自己の財産を無償で与える意思表示をし、相手方が受贈者として受諾の意思表示をすると成立します。贈与契約は、贈与者にのみ債務が発生する片務契約であり、受贈者は目的物引渡請求権を有しますが、無償契約ですので債務は発生しません。

贈与者側の「あげる」という意思と、受贈者側の「もらう」という意思が成立することで、贈与契約が成立となります。贈与契約なので書面にする必要があると思われるかもしれませんが、口頭での意思表示でも贈与契約は成立します。贈与契約において書面にすることは要件ではないのです。

日常生活の中で、何かをあげる・もらうということは、割合、頻繁に行われるのではないかと思います。例えば、ペン1本であっても、あげる・もらうという口頭でのお互いの意思が成立することで、贈与契約となります。もちろん、贈与契約を書面にすることもできます。ペンなどのように安価なものであれば、後日、問題になることは少ないと思われますが、例えば不動産を贈与するということであれば、その贈与契約を書面にすることが多いのではないでしょうか。

1-2.「書面によらない贈与」と「書面による贈与」の違い

書面によらない贈与として、先ほどの例のような口約束が挙げられます。

書面による贈与の場合、書面に厳格な規定はなく、贈与の意思が明確にされているものであれば認められます。過去の判例から第三者宛の手紙や内容証明郵便であっても、贈与の事実が確認できる内容の記載があれば、書面に該当するのです。一方、メールの文面の場合には、書面と認められるか明確な判例が出ていないため、判断が分かれています。

このように、贈与には「書面によらない贈与」と「書面による贈与」があります。

2.「書面によらない贈与」は履行前に限りいつでも撤回が可能

「書面によらない贈与」と「書面による贈与」では、何か違いがあるのでしょうか。

民法第550条では、「書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。」と定められています。

つまり、贈与契約を書面にしていない場合、たとえあげる・もらうの意思表示が成立しても、それぞれの当事者が後でその意思を撤回することができるのです。「このペンをあげるね」と言ったとしても、気が変わって「やっぱりやめた」ということも可能になります。

ただし、すでに贈与の履行が終わった部分に関しては、後で気が変わったとしても、それを取り返すことはできません。

つまり、「贈与が実際に行われたのか」という点が撤回における焦点になるのです。

実際に、贈与の撤回が有効かどうか裁判にまで発展したケースもあります。基本的には受け渡した時点で贈与が履行されたと考えられますが、当事者間で受け渡しが終わった後でも、農地の贈与で知事の許可がまだ下りていなかったということから撤回が認められたケースもあります。贈与の履行の焦点は、当事者間の受け渡しの事実だけに限らないという点にも十分注意する必要があるでしょう。

一方、「書面による贈与」では、履行前であってもその贈与契約を撤回することはできません。撤回には、双方の合意が必要です。

2-1.「書面によらない贈与」の対象が不動産の場合

不動産の贈与契約では、贈与の対象となった不動産の所有権移転登記がなされたときに、贈与契約の履行が終わったとみなされます。「書面によらない贈与」の場合、登記によって贈与契約が終わると撤回することはできなくなります。

2-2.「書面によらない贈与」の対象が住んでいる家の場合

仮に男性が内縁の妻に、共に住んでいる家の所有権を贈与するとしましょう。この場合も贈与の対象は不動産ですが、その家に住んでいるということで占有権の贈与と考えられます。この場合は、登記の履行ではなく、男性がその家の売買契約書と実印を内縁の妻に対して交付することによって贈与契約が終了したとみなされ、撤回はできなくなります。

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