財産には現金や貯金、不動産のようにすぐに金額を出すことができるものだけではなく、商売の権利や借金を回収する権利など、すべてが含まれます。
基本的にはその所在地がどこであろうと、すべてが相続税の課税対象になるのですが、相続人が「制限納税義務者」だった場合、所在が日本国外にある財産は課税対象外となるのです。
先ほど例を挙げたもののほとんどは、その所在がどこなのかは感覚的に分かりやすく、おおむねその通りの所在地になるので問題ありませんが、権利関係については少し複雑なものがあります。
ここでは、そんな相続する財産の所在のうち、「主たる債務者が2以上ある場合の債権の所在」について詳しく解説します。
財産の所在
財産を相続した場合、すべての財産が課税対象になる場合がほとんどですが、相続人の住所が日本国外にある「制限納税義務者」だった場合、所在が日本国外の財産については課税対象でなくなります。そのため、何らかの財産を相続した場合は、その財産の所在を確認しておかなければいけません。
ほとんどの財産の所在については、それほど悩むことはありません。しかし、お金を返してもらう権利はどうでしょうか?これも立派な相続財産ですので、この権利の所在地もはっきりとさせておかなければいけません。
(1)債権と債務に関する言葉の解説
もちろん、「お金を返してもらう権利」の所在についても、相続税法に規定されています。その内容を解説する前に、まずは幾つかの言葉の説明をしておきましょう。
債務 …… 借りたお金を返す義務のこと。この義務がある人のことを債務者といいます。
債権 …… 貸したお金を返してもらう権利のこと。この権利がある人のことを債権者といいます。
連帯保証 …… お金を実際に借りた人が返せなくなった場合に、代わりにお金を返す人(保証人)がいる借金のこと。保証人が必要な借金がこれにあたります。
連帯債務 …… お金を実際に借りた人と別の人(1人以上)が一緒にお金を返す借金のこと。住宅ローンなどで夫だけではなく妻も含めた夫婦名義で組んだローンがこれにあたります。
主たる債務者 …… 連帯保証でお金を借りた場合の、実際にお金を借りた人のこと。借金の請求が送られる人と考えれば分かりやすいでしょう。連帯債務の場合は全員が主たる債務者となり、全員に請求書が送られます。
(2)財産の所在
相続税法10条には、財産の所在についてが以下のように定められています。これらの規定に従って、各財産の所在を、相続が発生した時点での状況から判断することになるのです。
1.動産、不動産 …… その動産、または不動産などの所在
2.船舶、航空機 …… 登録した機関の所在
3.鉱業県、租鉱件、採石権 …… 鉱区、採石場の所在
4.漁業権、入漁権 …… 漁場にもっとも近い沿岸が属している市町村区
5.預金や積立金、預託金 …… 預け入れている金融機関の営業所の所在
6.保険金 …… 保険会社などの本店の所在
7.退職手当金や功労金 …… 支払った者の住所、本店や事務所の住所
8.債権 …… 主たる債務者の住所
9.有価証券(社債や株式など) …… 発行法人などの本店の所在
10.投資信託など …… 引き受けた営業所の所在
11.特許権、実用新案件、意匠権など …… 登録した機関の所在
12.著作権、出版権など …… 発行する営業所の所在
13.国債、地方債 …… 施行地
(3)主たる債務者が2以上ある場合の債権の所在
上記の8.にある通り、債権は「主たる債務者の住所」が所在になります。しかし、債権の中には、連帯債権(主たる債務者が2以上ある債権)というものもあり、この場合は主たる債務者が2名以上いることになります。その場合はどの住所が再建の所在になるのでしょうか?
そんな場合についてが、相続税基本通達10-4および相続税法施行令第1条14で規定されています。
相続税法施行令第1条14によると、主たる債務者が2以上ある場合は、日本国内に住所(会社であれば本店や営業所)がある債務者の住所が、債権の所在になることになっています。このとき、日本国内に住所がある債務者が複数いた場合は、いずれでもよいことになっています。
また、もしすべての債務者の住所が日本国外にあった場合は、債権の所在は国外となり、どの債務者の住所でもよいと規定されています。
【参考】
国税庁 相続税法基本通達10-4 (主たる債務者が2以上ある場合の債権の所在)
相続税法施行令