相続税の算出の際は、相続財産から被相続人の残した債務を差し引く「債務控除」が可能です。そのため、債務控除の対象となるものとならないものを判別することが大切です。ここでは、遺言執行費用は債務控除の対象になるか否かについて解説します。
1.遺言執行費用とは?
>>無料会員に入会すると、実務で使えるオリジナル書式をプレゼント!!遺言執行費用とは、被相続人が残した遺言書を正しく執行するためにかかる費用を指します。具体的には、次のようなものが挙げられます。
- 遺言書の検認手続きの費用
- 相続財産の管理にかかる費用
- 相続財産目録の作成費用
- 相続財産の売却手数料
- 相続財産の名義変更(相続登記)の費用
- 遺言執行者への報酬
民法1021条では、遺言執行費用について「遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする」と定められています。そのため、相続の際は、まず相続財産から遺言執行費用を控除した後、相続財産を各相続人に分配していくのが一般的です。
また、同条文では「ただし、これによって遺留分を減ずることができない」とも定められています。これによって、遺言執行費用は遺留分には影響を与えず、例えば相続財産が不足し、遺言執行費用によって遺留分が侵されそうな場合、その部分の遺言執行費用は受遺者が負担することになるとされます。
2.遺言執行費用は相続財産から債務控除できない
前項で述べたように、遺言執行費用は、原則的に相続財産から控除されるものです。しかし、過去の裁判事例によると、遺言執行費用は債務控除の対象とはなりません。
根拠として、まず、債務控除で控除できる債務は「被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む)」であると、相続税法の第13条で定められています。
そして、民法985条では「遺言は被相続人が死亡した時点で初めて効力を生じる」ということが定められています。この条文により、遺言執行費用が発生する遺言執行についての委任契約が生じるのも、被相続人が死亡した時点です。しかし、すでに死者である被相続人とは、委任契約の生じる余地がありません。そのため、遺言執行についての委任契約は「遺言執行人と被相続人の間」ではなく「遺言執行人と相続人の間」に生じるものと考えられます。
したがって、遺言執行費用は被相続人にかかる負担ではなく、相続人にかかる負担であると考えられます。被相続人の負担でないものを、被相続人の債務として扱うことはできません。結論として、債務控除の要件である「被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの」の「被相続人の債務」という部分を、遺言執行費用は満たしておらず、債務控除ができません。