明渡猶予期間中の土地の貸家建付地評価及び小規模宅地の特例適用

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家屋、土地評価

明渡猶予期間中の土地の評価が問題となった東京地裁における税務訴訟では、貸家建付地としての評価減は認められず、小規模宅地の特例による評価減は認めるという判決が出されました(平成13年1月13日判決)。明渡猶予期間中の貸家が建つ土地を相続する場合、どのように評価されるのかについて判例を基に解説します。

1.明渡猶予と貸家建付地の評価

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明渡猶予期間中の貸家とその敷地の評価について理解するには、まず「明渡猶予」と「貸家建付地」のポイントをおさえておきしょう。

1-1.明渡猶予とは?

明渡猶予は、建物明渡訴訟などの場合に和解契約として比較的よくみられるものです。たとえば、アパートなどの建物の明渡訴訟では、賃貸借契約の解除を含め一定の明渡猶予期間を設けて和解することが少なくありません。

また、明渡猶予には明渡猶予制度(民法395条)によるものもあります。一般に、住んでいる建物が競売にかけられ裁判所から「引渡命令」が出されると入居者は直ちに立ち退かなければなりません。しかし、明渡猶予制度によって、買受人が代金を納めた日から6か月間は建物の明け渡しが猶予されます。

1-2.貸家建付地は評価が下がる

国税庁が定める財産評価基準では、借家権(しゃっかけん)が生じる貸家が建つ敷地を貸家建付地(かしやたてつけち)と呼んでいます。たとえば、自己所有の土地にアパートを建てると、その土地は貸家建付地になります。

貸家建付地は、他の人が住んでいるため土地の所有者であっても自由に使うことができません。そのため、評価額は借地権(しゃくちけん)割合や借家権割合などの他人が借りていることで生じる権利分を差し引くことができるので、相続で取得した場合は相続税が安くなります。

2.明渡猶予期間中の土地に貸家建付地評価は適用できない

明け渡しが猶予された建物とその敷地を相続する場合、税務上どのように評価されるのかをみていきましょう。

2-1.明渡猶予期間中の土地は貸家建付地に該当するか?

貸家建付地は評価額が下がり、相続税が安くなるので自己所有の土地にアパートなどの借家を建てることは相続税対策として役立ちます。しかし、明渡猶予期間中の貸家とその敷地を相続する場合には注意が必要です。

明渡猶予期間中の建物と土地を相続財産としてどのように評価するかが問題となった税務訴訟(東京地裁:平成13年1月13日判決)では、貸家建付地としての評価減を認めないという判決が出されました。

2-2.明渡猶予期間中の不動産に関する税務訴訟

この事案で相続した不動産は、被相続人が賃借人を相手方として提訴した建物明渡訴訟の結果、訴訟上の和解で一定期間、明け渡しを猶予していた建物と土地でした。また、明渡猶予期間中、相手方は無償で建物を使用できるとされました。ところが、被相続人が明渡猶予期間中に死亡したことにより、相続人が建物と土地を取得したのです。

相続財産である明渡猶予期間中の土地は貸家建付地に該当しないとした根拠は、どのようなものでしょうか。裁判官は貸家建付地として評価額の減額(評価減)が認められるのは「交換価値を下げるような事情」があるときに限定されると解釈しています。

そもそも貸家建付地としての評価減は、貸家が建つ土地は自宅の土地のように自由に使えないことを考慮して認められたものです。そのため、裁判では課税の時期における建物の使用関係が一時使用の賃貸借ではなく、使用関係が継続していることによって土地の価値が下がるような事情があるかが問われました。その結果、相続の開始直前の建物の使用関係が比較的短期であったため一時使用の賃貸借とみなされ、土地の価値を下げるような事情があるとはいえないとして評価減を否認したのです。

3.明渡猶予期間中の土地に小規模宅地の特例は適用できる

前述の東京地裁の判決では、明渡猶予期間中の土地は小規模宅地の特例による評価減を認めています。小規模宅地の特例は租税特別措置法によって定められたもので、特例による評価減が適用されるのはその土地が事業用、または居住用の宅地のときです。

そのため、明渡猶予期間中の貸家が建つ敷地の場合も、小規模宅地の特例を適用するには事業用宅地であることが必要になります。東京地裁での判決も相続の開始直前に「事業の用に供されていたか」という事業性が問題になりました。

和解条項では建物の明け渡しを猶予し、相手方は無償で使えるという内容でした。しかし、実質的には立ち退き料と賃料に相当する額が相殺された関係であり、相手方は一時使用の賃貸借契約に基づき有償で占有していたものと判断され、事業性が認められたのです。事業性の判断に際しては事業が形式的なものではなく、事業の性質や事業主の経営判断などから総合的に判断することの重要性が示唆されました。


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