貸付信託とは、受託者が多数の委託者から信託契約によって受け入れた信託財産を、主に貸付や手形割引によって運用する貯蓄型の金融商品です。貸付信託受益証券とは、貸付信託によって得られた利益を受け取る権利を示した有価証券をいいます。
貸付信託の最長預入期間は5年で、2009年を最後に新規募集が停止されていることから、2014年までにすべて満期償還が終わっています。しかし、相続税の課税価格の算定では、修正申告や更正など過去にさかのぼって評価をすることもあり、さらに、財産評価基本通達にも規定が残っていることから、貸付信託受益証券の評価方法について、貸付信託の商品性も含めて説明します。
1.貸付信託の商品性
貸付信託は1万円以上、1万円単位で預け入れができる元本保証型の金融商品でした。預入期間は2年または5年となっていました。金利は変動金利とされていましたが、実際には予定配当率が示され、そのとおりの収益配当金が支払われました。利払いは半年ごとの利払い(収益分配型)や半年複利で満期一括払い(収益満期受取型)がありました。最初の1年間は解約することができませんでしたが、それ以降は解約手数料を支払うことで解約することができました。
貸付信託の中でも、収益満期受取型で運用益が元本と同率で運用されるものは「ヒット」の愛称で親しまれていました。バブル経済の頃には利率が年8%に及び人気を集めました。
このように貸付信託は、信託銀行のかつての主力商品でしたが、金利の低下によって資金調達方法が多様化したことや、顧客の資産運用ニーズも多様化したことなどから、2009年9月を最後に新規募集が停止されました。
2.貸付信託受益証券の相続税評価
貸付信託受益証券は、株式のような流通性がなく、取引市場もないので、市場価格はありません。評価額は、その証券を発行した信託銀行などが被相続人の死亡の日または贈与を受けた日現在、すなわち課税時期現在で買い取るとした場合の買取り価格となり、次の算式で算定されます。
元本の額+既経過収益の額-源泉所得税相当額-買取割引料=貸付信託受益証券の価額
上記の算式の「既経過収益の額」は、課税時期の属する収益計算期間の開始日から課税時期の前日までの期間における収益の分配金の額をいいます。具体的には、元本の価額に予想配当率を掛け、日割り計算することによって求めることができます。
「買取割引料」については、その証券を発行した信託銀行によって金額が異なり、信託銀行で確認することができます。
【財産評価基本通達】(公社債)
(貸付信託受益証券の評価)
198 貸付信託の受益証券の価額は、次に掲げるところにより評価する。(昭55直評20外改正)
(1) 課税時期において貸付信託設定日(その貸付信託 の信託契約取扱期間終了の日をいう。)から1年以上を経過している貸付信託の受益証券
その証券の受託者が課税時期においてその証券を買い取るとした場合における次の算式により計算した金額
(2) (1)に掲げる貸付信託の受益証券以外の貸付信託の受益証券
(1)の算式に準じて計算した金額