農業を営む被相続人から相続人が農地を相続し、相続人が相続した農地で農業を営む場合等には、相続税等の納税猶予特例の適用を受けることができます。では、被相続人が農地のすべてを農業協同組合が行う受託事業に提供している状態で、相続が開始した場合、当該特例の適用はできるのでしょうか。以下で解説します。
農地の納税猶予の特例とは
本題に入る前に、農地の納税猶予特例について説明します。
この特例は、農業を営んでいた被相続人から一定の相続人(推定相続人)が相続(贈与)によって農地を取得した場合には、当該農地の相続税評価額から農業投資価額を控除した価額に対応する相続(贈与)税額について、農地を相続した相続人が農業を継続する等の要件を満たす限り、その納税が猶予されるというものです。
なお、農業投資額とは、農地等が恒久的に農業に使用される場合に通常の取引が成立する
とされる価額として公示される価格のことです。
この農業投資額は、10アール単位で表示され、通常の宅地評価額の数十分の一から数百分の一の水準になるとされています。
農業協同組合の受託経営に係る農地について
農業を営む方々の中には、自分で農作業を行わず、保有する農地のすべてを農業協同組合が施行する受託事業用地として提供される方もいらっしゃいます。
その場合、当該農地には農業協同組合のために使用収益権が設定さるわけですが、その使用収益権の対価として農地保有者が受け取る収益は、農業所得として所得税が課税されます。
さて、ある照会者から国税庁に対して、次のような質問がなされました。
それは、当該農地に相続又は贈与があり、相続人又は譲受人が相続(贈与)税の納税猶予特例の適用を受ける要件を満たす場合には、当該農地からは農業所得が生じているので、相続(贈与)税の納税猶予の対象となるのか、それとも、その対象とはならないのかというものです。
これに対して、国税庁は、以下のように回答しました。
相続(贈与)税の納税猶予特例の適用要件の1つに、被相続人又は譲渡人が自ら農業経営を行う農地ということがありますが、当該農地は、被相続人又は譲渡人が自ら農業を行っているわけではないので、当該農地から農業所得が生み出されているとしても、当該農地に相続(贈与)税の納税猶予特例は適用されないと回答しました。
この質問及び照会が、国税庁の質疑応答「農業協同組合の受託経営に係る農地」となります。