相続税の評価において、路線価がない道路のみに接する宅地の評価は特殊な対応が必要です。
具体的には、「特定路線価」の設定を税務署に申請する方法などがあります。
本記事では、「特定路線価」の設定の手続き・留意点や、路線価なしの地域の相続税評価方法などについて解説します。
~目次~
1.路線価がない道路のみに接している宅地の評価方法の概要
>>無料会員に入会すると、実務で使えるオリジナル書式をプレゼント!!路線価地域内において、相続税、贈与税の課税上、路線価の設定されていない道路のみに接している宅地を評価する必要がある場合には、当該道路を路線とみなして当該宅地を評価するための路線価(以下「特定路線価」といいます。) を納税義務者からの申出等に基づき設定することができます。
特定路線価は、その特定路線価を設定しようとする道路に接続する路線及び当該道路の付近の路線に設定されている路線価を基に、当該道路の状況、財産評価基本通達14-2に定める地区区分等を考慮して税務署長が評定した1㎡当たりの価額とするとされています。
参考:国税庁「評基通14-3」
>>特定路線価とは?特定路線価設定の条件とその手続き方法
>>路線価の高い道路の影響が僅少である土地の宅地について
1-2.【注意】特定路線価が設定できないケース
財産評価基本通達において、路線価は宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している路線ごとに設定するものとされています。
その路線とは、「不特定多数の者の通行の用に供されている道路をいう」と明記されています。(評基通14)
つまり、特定の者のみが使用する道路(いわゆる専用通路)には特定路線価は設定できず宅地の一部として一体で評価することになります。

2.税務署に特定路線価の設定を申請する方法
特定路線価は、『特定路線価設定申出書』及び『別紙 特定路線価により評価する土地等及び特定路線価を設定する道路の所在地、状況等の明細書』に必要事項を記載し、一定の添付書類(※1)とともに納税地の所轄税務署に提出して申請します。
(※1)添付書類
- 物件案内図(住宅地図等)
- 地形図(公図、地積測量図等)
- 現況写真等
3.特定路線価を使って評価する際の留意点
路線価の設定されていない道路に接している宅地を評価するにあたっては、次のような点に留意する必要があります。
3-1.建築基準法上の道路に設定されているか
特定路線価は、原則として建築基準法上の道路等(※1)に設定することとされているため、路線価が設定されていない道路がもし建築基準法に規定されている道路に該当しなかった場合には、特定路線価の設定申請はせずに路地状敷地として評価することになります。
(※1)『建築基準法上の道路等』とは、以下の道路をいいます。
- 「建築基準法42条1項1号~5号又は42条2項」に規定する道路
- 「建築基準法第43条1項ただし書」の許可を受けた道路
3-2.路線価が設定されている道路にのみ接しているか
特定路線価の設定申請をして特定路線価が付された場合においても、設例の宅地Aの評価については側方路線を加味せず、正面路線300千円のみで評価することになります。
特定路線価はあくまで路線価が設定されていない道路にのみ接している宅地を評価ための路線価であり、宅地Aのようにすでに路線価に接道している宅地には何ら影響を及ぼさないからです。
なお、二方路線についても側方と同じく加味する必要はありません。
3-3.特定路線価を設定しないことが不合理ではないか
特定路線価の申請はいわゆる「できる規定」であるため適用に対する強制力はありませんが、特定路線価を設定せずに路地状敷地として評価した場合にその評価額が現況等から判断して不合理とされる可能性もありますので、『特定路線価設定申出書の提出チェックシート』を活用しましょう。
4.相続税はどう変わる?具体的な計算例
これまでの内容を踏まえて、具体的な評価計算をしてみましょう。
【設例】
被相続人は評価対象地Bを所有し居住の用に供していますが、評価対象地Bは下図のように路線価が設定されていない道路のみに接道しています。

4-1.特定路線価を申請した場合
① 評価対象地Bの価額
270千円×1.00(*1)×300㎡=81,000千円
(*1)奥行20mに対する奥行価格補正率
(参考)宅地A
300千円×1.00 (*2)×300㎡=90,000千円
(*2)奥行15mに対する奥行価格補正率
(なお、特定路線価を設定したことに伴う側方路線影響加算は加味しません)
4-2.路地状敷地として評価した場合
①宅地Aと評価対象地Bを合わせた価額
300千円×0.98(*3)×600㎡=176,400千円
(*3)奥行30mに対する奥行価格補正率
②宅地Aの価額
300千円×1.00(*4)× 300㎡ = 90,000千円
(*4)奥行15mに対する奥行価格補正率
③評価対象地Bの価額
①-②= 86,400千円
④不整形地補正後の評価対象地Bの価額
86,400千円 × 0.7(*5) = 60,480千円
(*5)不整形地補正率
| 陰地割合の計算(通路部分も含んで計算) | ||
| 720㎡(※1)-300㎡ | = 58.33% ⇒ 0.75 | |
| 720㎡(※1) | ||
| (※1) (20m+4m)×(15m+15m)=720㎡ | ||
| 不整形地補正率(小数点2位未満切捨) | |
| 0.75×0.94(※2)=0.70 <0.94(※2)×0.90(※3)=0.84 | |
| ∴小さい方 0.70 | |
| (※2)間口4mに対する間口狭小補正率 | |
| (※3)「奥行30m/間口4m=7.5」に対する奥行長大補正率 | |
5.地域全体で路線価がない場合は「倍率方式」で相続税評価をする
道路に路線価がない場合の評価方法(特定路線価など)について解説しましたが、都市部を離れた郊外や農村部など、地域全体で路線価が設定されていない地域も存在します。
これらの地域は「倍率地域」と呼ばれ、路線価方式とは異なり、固定資産税評価額に特定の倍率をかけて評価額を算出する「倍率方式」を用いて、相続税の土地評価を行います。
5-1.倍率方式による宅地の評価方法
倍率方式では、評価対象となる宅地の固定資産税評価額を基にして、国税庁が地域や地目(宅地、田、畑など)ごとに定めた倍率を乗じて評価額を算出します。
相続税評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率
固定資産税評価額は、毎年送付される課税明細書などで確認できます。
固定資産税評価額にかける倍率は、国税庁の「財産評価基準書」で確認することが可能です。
倍率地域や、倍率方式での相続税評価について、詳しくは「倍率地域の土地の相続税評価方法│計算式・減額方法も解説」も参考にしてください。
6.まとめ
路線価が設定されていない宅地の評価や、路線価地域外の倍率方式による評価は、適用要件や計算方法が非常に複雑です。
相続税の納付額が大きく変動する可能性もあるため、不安がある方は、相続に強い税理士に相談することをおすすめします。
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