地下に地下鉄のトンネルが走っている雑種地に地役権を設定して高圧電線の鉄塔を設けている場合には、1筆の雑種地上に2つの使用収益権が設定されることになります。では、このような雑種地の相続税評価はどのようにして行うのでしょうか。以下で解説します。
~目次~
土地(雑種地)の上に権利が競合する場合とはどういう場合か
土地(雑種地)の上に権利が競合するとは、例えば、同じ土地に賃借権と地上権が同時に設定されている等、同じ土地の上に、2つの使用収益権が設定されている場合をいいます。
具体的には、地下に地下鉄のトンネルが通っているため、トンネル所有を目的として区分地上権が設定されている雑種地に、高圧電線用の鉄塔を設置するための地役権が設定されているような場合をいいます。
上記のような同時に2つの使用収益権が設定されている雑種地を相続によって取得した場合には、当該土地の相続税評価が必要になります。
土地の上に存する権利が競合する場合の雑種地の相続税評価の方法
さて、同一の雑種地に、賃借権、地上権、区分地上権、地上権に準ずる地役権のうちのいずれか2つの使用収益権が同時に設置されている場合の当該土地の相続税評価の方法は、相続税基本通達第2章第10節(86-2)において規定されています。
この規定は、以下の3つの項目から構成されます。
(1)賃借権又は地上権及び区分地上権の目的となっている雑種地の価額
(2)区分地上権及び区分地上権に準ずる地役権の目的となっている承役地である雑種地の価額
(3)賃借権又は地上権及び区分地上権に準ずる地役権の目的となっている承役地である雑種地の価額
以下では、各項目ごとに、その内容を解説いたします。
賃借権等及び区分地上権の目的となっている雑種地の価額について
賃借権又は地上権及び区分地上権が設定されている雑種地の評価額は、その雑種地の自用地としての価額から、区分地上権の価額と区分地上権が設定されている土地に設定されている賃借権又は地上権の価額の和を控除した価額となります。
まず、自用地としての価額とは、当該雑種地にいかなる使用収益権も設定されていないとした場合に成立する価額です。
次に、区分地上権の価額とは、区分地上権が設定されている土地の自用地としての価額に、
区分地上権の設定内容において定められた土地利用制限率を基とした割合(区分地上権割合)を乗じて計算した価額となります。
一方、区分地上権が設定されている土地に設定されている賃借権又は地上権の価額とは、
賃借権の評価額又は地上権の評価額に、1から当該権利が設定されている雑種地の自用地としての評価額に占める上記で計算した区分地上権の価額が占める割合を控除した率を乗じて計算される価額となります。
ここで雑種地に係る賃借権の評価額とは、評価の対象となる賃借権が地上権に準ずる(堅固な建物所有等を目的とする)場合には、当該権利の目的である雑種地の自用地としての評価額に、借地権割合又は賃借権の存続期間に対応する相続税法第23条の規定による法定地上権割合のいずれか低い割合を乗じて計算される価額です。
一方、評価の対象となる雑種地に係る賃借権が地上権に準じない場合には、当該賃借権の評価額は、当該権利の目的となっている雑種地の自用地としての評価額に、賃借権の存続期間に対応する相続税法第23条の法定地上権割合の1/2を乗じた価額となります。
地上権の評価額は、当該権利の目的となっている雑種地の自用地としての評価額に、評価対象地上権の存続期間に応じて定められる相続税法第23条の法定地上権割合を乗じて計算される価額となります。
例えば、評価対象雑種地の自用地としての評価額を1,000万円、当該土地に設定されている区分地上権の区分地上権割合が30/100、当該土地に設定されている区分地上権以外の権利が地上権に準ずる賃借権で、相続開始時点での残存期間が35年(法定地上権割合50/100)、当該地が属する区域の借地権割合が70%だとします。
すると、当該雑種地の相続税評価額は、1,000万円-({1,000万円×30/100=300万円}+{1,000万円×50/100×[1-300万円/1,000万円]})=1,000万円-(300万円+350万円)=350万円となります。
区分地上権及び地役権の目的となっている雑種地の価額について
区分地上権及び区分地上権に準ずる地役権の目的となっている承役地である雑種地の価額
は、その雑種地の自用地としての価額から、区分地上権の評価額と、区分地上権に準ずる
地役権の評価額の和を控除した価額とします。
ここで、区分地上権に準ずる地役権の評価額とは、区分地上権の目的となっている承役地(評価対象雑種地のこと)の自用地としての評価額に、その区分地上権に準じる地役権の設定契約の内容に応じた土地利用制限率を基とした割合を乗じて計算した金額となります。
上記の土地利用制限率を基とした割合とは、当該地役権の設定によって、承役地に家屋の建築が不可能になる場合には、50/100又は当該承役地が属ずる区域の借地権割合のいずれか高い方の割合となります。
一方、当該地役権を設定しても承役地に家屋の建築は可能であるが、建築できる家屋の構造、用途等に制限が係る場合には、上記の土地利用制限率を基とした割合は30/100となります。
例えば、評価対象雑種地の自用地としての評価額を1,000万円、当該土地に設定されている区分地上権の区分地上権割合が30/100、当該土地に設定されている区分地上権に準ずる地役権が、承役地の建物の建築を不可能とするものではないが、その建築に制限を加える必要があり、また当該地の所属地域の借地権割合が70%だとします。
そうすると、上記の区分地上権と区分地上権に準ずる地役権が同時に存在する雑種地の相続税評価額は、1,000万円-(300万円+1,000万円×30/100)=400万円となります。
賃借権等及び地役権の目的となっている雑種地の価額について
賃借権又は地上権及び区分地上権に準ずる地役権の目的となっている承役地である雑種地の価額は、その雑種地の自用地としての価額から、区分地上権に準ずる地役権の評価額と、区分地上権に準ずる地役権が設定されている承役地に賃借権又は地上権が設定されている場合の賃借権又は地上権の価額の和を控除した価額となります。
ここで、区分地上権に準ずる地役権が設定されている承役地に賃借権又は地上権が設定されている場合の賃借権等の価額は、雑種地に係る賃借権の評価方法に基づいた賃借権の評価額又は相続税法第23条の規定による地上権の評価額に、1から当該権利の目的である雑種地の自用地価額に対する区分地上権に準ずる地役権の評価額の割合を控除した割合を乗じた価額となります。
例えば、評価対象雑種地の自用地としての評価額を1,000万円、当該土地に設定されている区分地上権に準ずる地役権が、承役地の建物の建築を不可能とするものではないが、その建築に制限を加える必要があるとします。
また、当該雑種地には、地上権も設定されており、相続開始時点でその残存年数が35年だとします。すると、当該雑種地の相続税評価額は、1,000万円-({1,000万円×30/100=300万円)+1,000万円×50/100×{1-300万円/1,000万円}}=350万円となります。
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