セットバックとは?費用や購入時に注意すべきポイントを解説

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事例で解説!セットバック(SB)を必要とする宅地の評価

不動産広告に「要セットバック」と書かれた物件を購入する場合、建物を建て替えるときに土地を後退して道路と一定の距離を確保しなければなりません。

セットバックが必要な物件は、通常の物件と比較して価格が割安です。しかし、その一方で防災性や利便性に劣る点や将来的に売却しにくい点などには注意が必要です。

本記事では、セットバックが必要となる理由や、要セットバック物件を購入するときに注意すべき点などをわかりやすく解説します。

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1.セットバックとは

セットバックとは、建物を建て替えるときに土地を後退させることです。土地と面している道路の幅が狭いときは、セットバックをして一定の間隔を開けなければ、建物を建て替えできないことがあります。

では、どのようなケースでセットバックが必要になるのでしょうか。後退させる敷地面積の計算方法とあわせてご紹介します。

1-1.セットバックは接道義務を果たすために必要

建築基準法では「都市計画区域で建物が建っている土地は、道路に2m以上接していなければならない」という規程があります。この規程を「接道義務」といいます。

また、接道義務を果たすためには、原則として幅員4m(区域によっては6m)以上である、建築基準法の正式な道路に接していなければなりません。そのため、建物がある土地と接している道路の幅が4m未満であれば、接道義務を果たしていないことになります。

接道義務があるのは、主に緊急車両が通行するスペースを確保するためです。道路の幅が4mに満たないと、消防車や救急車などが通行しにくくなり、火災の消火活動や病人の救急搬送などに支障が出てしまいかねません

しかし2023年8月現在でも、日本には幅が4m未満の道路やそれと接する土地に建てられた建物が数多く残っています。自動車がまだ普及していなかった時代では、幅4m未満の道路が一般的であったためです。

防災などの観点から接道義務を果たす必要があるとはいえ、すでに建物が建っている土地の所有者に「道路の幅を4m確保したいから建物を建て直して欲しい」と要求するのは困難です。

そこで、幅が4m未満であっても、特定行政庁の指定したものは「2項道路(みなし道路)」として正式な道路と同様であるとみなされています。代わりに、2項道路と接している土地で建物を建て替えるときは、セットバックをして、一定のスペースを確保することが義務づけられています

1-2.セットバックはいつから必要になったのか

セットバックが必要になったのは、建築基準法が施行された日である1950年(昭和25年)11月23日以降です。

建築基準法が施行された日以降に、2項道路と接している土地で建物を建て替えるときは、セットバックが必要となります。

なお、道路と接している部分が2m未満の土地や、そもそも建築基準法が定める道路に接していない土地では、建物を取り壊すと再び建物を建てることはできません。これを「再建築不可物件」といいます。

1-3.セットバックする幅の計算方法

セットバックする幅の計算方法は、道路の向かい側が宅地である場合と、崖地や川、線路などである場合とで異なります。

道路の向かい側が宅地である場合、建物の新築や建て替えをするときは道路の中心線との距離が2m以上空くようにセットバックをしなければなりません

道路の片側が崖地、川、線路等である場合には、それらの側の道路境界線から水平距離4mの範囲を確保する必要があります。

道路の向かい側が宅地である場合と比較して、水平距離の長さが2倍になっているのは、反対側をセットバックして土地の境界線を下げることができないためです。

【例】土地と接する2項道路の幅が2m、道路に接する長さが8m、奥行き8mの正方形の土地でセットバックをするときの例で考えてみましょう。道路の向かい側は宅地であるとします。

セットバック前の敷地面積は「8m×8m=64㎡」です。前面の道路の幅が2mであるため、セットバック前の道路の中心線と敷地の境界線の距離は1mとなります。

建て替えの際に、道路の中心線から敷地の境界線まで2mの距離を確保するためには、土地の境界線から1m後退(セットバック)しなければなりません。

そのため、セットバックした後の奥行きは7m、敷地面積は「8m×7m=56㎡」となり、セットバック前と比較して土地は8㎡狭くなります。

2.セットバックが必要な物件を購入するときの注意点

セットバックが必要な物件は、通常の物件よりも安価な傾向にあります。とはいえ、価格が安いという理由だけで要セットバックの物件を購入するのはおすすめできません。

要セットバックの物件には、さまざまな注意点があるためです。主な注意点は、以下の通りです。

  • 前面の道路が狭く防災性や利便性が低い
  • セットバックすると建てられる建物が小さくなる
  • セットバックした部分には門や塀、駐車場の設置ができない
  • セットバック不要な物件と比較して売却しにくい

1つずつ解説していきます。

2-1.前面の道路が狭く防災性や利便性が低い

セットバックが必要な物件は、幅員が4m未満である2項道路と接しています。2項道路は、消防車や救急車などの通行が困難です。

そのため、要セットバック物件は通常の物件と比較して火事の被害が拡大しやすいだけでなく、病気やケガになったときの救急搬送が遅れてしまう可能性もあります。

また、緊急車両だけでなく一般の車両も通行しにくいため、通常の住宅と比較して買い物や通勤などに不便といえるでしょう。

2-2.セットバックすると建てられる建物が小さくなる

セットバックをすると、建てられる建物の面積が小さくなります。セットバックした部分は、建ぺい率や容積率を計算する際の敷地面積から除外されるためです。建ぺい率と容積率については、以下の通りです。

  • 建ぺい率:敷地面積に対する建築面積の比率。「建築面積÷敷地面積」
  • 容積率:敷地面積に対する 延べ床面積の比率。「延べ床面積÷敷地面積」で算出する

土地のうえに建物を建てるときは、建ぺい率や容積率が都市計画によって定められた制限の範囲内でなければなりません。

セットバックをすると、建ぺい率や容積率を計算するときの分母である敷地面積が小さくなります。そのため、要セットバックの土地では、既存の建物よりも小さいサイズの建物にしか建て替えできないケースがほとんどです。

セットバックは拒否できないため、建て替えを前提に要セットバックの物件を購入するときは、希望する広さや形状の建物が建築できるかどうかを不動産会社や建築士に確認することが大切です。

2-3.セットバックした部分には門や塀、駐車場の設置ができない

セットバックした部分については、建物が建築できないだけでなく、門や塀、駐車場を新たに設置することもできません。セットバックした部分は公道の一部となり、私的な利用が禁止されるためです。

セットバックした部分を私的利用すると、建築基準法違反となります。

要セットバックの土地で建て替えをしたあとに、門や塀、駐車場などを設置するときは、後退後の土地の広さや形状を確認して配置場所を検討しましょう。

2-4.セットバック不要な物件と比較して売却しにくい

建物を建て替えないのであれば、セットバックをする必要はありません。ただし、将来的に再び要セットバック物件として売りに出す場合は、買い手探しに苦労する可能性があります。

セットバックが必要な物件は、敷地を後退させなければ建て替えができず、敷地面積が減ることで建物のサイズも小規模となるため、通常の物件と比較して売却しにくいのです。

そのため、将来的に要セットバック物件を売却するときは「建物を解体してから売却する」「セットバックにかかる費用を売却価格から差し引く」といったひと工夫が必要となります。

また、セットバックが必要な物件を購入しても、亡くなったあとに家族が相続を希望しないかもしれません。将来的に物件を家族に引き継ぎたいと考えている方は、購入前に家族の意向を確認しておくことが大切です。

3.セットバックにかかる費用

セットバックをするときは、土地の測量費用や道路用地部分の整備費用がかかります。また、宅地と道路を分けるための分筆登記の費用も、原則として支払わなければなりません。

セットバックの費用は、後退させる範囲や土地の高低産の有無、門・塀の設置状況などさまざまな要素で変わりますが、合計で30万〜80万円程度が相場です。

自治体によっては、費用の一部を負担したり助成金を支給したりする制度を実施しています。そのため、建て替えを前提とした要セットバック物件の購入を検討するときは、施工にかかる費用や自治体の補助制度を確認するとよいでしょう。

3-1.セットバック後は固定資産税の非課税の申請をする

毎年1月1日時点で、土地や建物など固定資産を所有している人には固定資産税が課せられます。また、固定資産が都市計画区域内にある場合は、都市計画税も納める必要があります。

セットバックをした部分は「道路」となり、敷地面積から除外されるため、その分支払うべき固定資産税や都市計画税は少なくなります

ただし、固定資産税や都市計画税を算出する市区町村が、セットバックの情報をすべて把握しているわけではありません。そのため、セットバックをしたときは、自治体に非課税の申告をしましょう

所定の申告書を作成し、地積測量図などセットバックした部分がわかる書類を添付して自治体の担当窓口に提出すると、固定資産税や都市計画税が減額されます。

4.セットバックが必要な物件を購入してもよいケース

セットバックが必要な物件は、以下に該当するときは購入してもよいと考えられます。

  • 予算内で希望する物件が手にできるとき
  • セットバック後の敷地面積でも問題ないとき
  • 購入後に建て替えをする予定がないとき

1つずつみていきましょう。

4-1.予算の範囲内で希望する物件を手にできるとき

要セットバックの物件は、建て替えるときに土地の後退が必要な分、通常の物件と比較して価格が割安です。

エリアや建物によっては、リフォーム工事をしたとしても通常の中古住宅よりも手ごろな価格で購入できる可能性もあるでしょう。

間取りや広さ、立地などの条件から考えて、お買い得であると判断できるのであれば、購入してもよいかもしれません。

4-2.セットバック後の敷地面積でも問題ないとき

セットバックをすると、建てられる建物のサイズは小さくなりますが、広さや間取りが希望通りになるのであれば、さほど問題はないといえるでしょう。

スーパーやドラッグストア、病院などとの位置関係や最寄り駅との距離などが希望通りであり、かつ建て替え後の建物のサイズでも生活に支障がないのであれば、購入してもよいと考えられます。

4-3.購入後に建て替え売却をする予定がないとき

セットバックが必要な物件は、2項道路という建築基準法が定める道路に接しています。そのため、建て替えをしないのであれば、セットバックをせずにそのまま建物に住むことも可能です。

メンテナンスやリフォームをすることで、建っている物件に住み続けることができるのであれば、セットバックが必要な物件を購入してもよいのではないでしょうか。

5.セットバックでトラブルが起こった事例

セットバックが必要な物件では、さまざまなトラブルが起こる可能性があります。セットバックに関するトラブルの例は、以下の通りです。

〇セットバックに関するトラブルの事例

  • セットバックをしなければ建て替えができないことを不動産会社が充分に説明しておらず、購入後に希望する大きさの住宅を建てられなかった
  • 隣の家の住人がセットバックをすべき部分に塀を建ててしまい、自動車の通行が困難になった
  • 向かいの住人が何年経ってもセットバックをせずに私有地と使用している
  • 周辺の住人がセットバックをしておらず救急車が通行できなかった

セットバックが必要な物件の購入を検討する際は、想定されるトラブルや対処方法を不動産会社によく確認しましょう。また、インターネットや書籍で調べるのも有効です。

価格が安く希望する建物に建て替えられるとしても、対処が難しいトラブルがあれば購入を見送った方がよいのかもしれません。

6.セットバックを必要とする宅地の評価方法

セットバックが必要な宅地は、通常の宅地と相続税評価額の計算方法が異なります。具体的には「宅地全体の相続税評価額−(宅地全体の相続税評価額×所定の割合)」で計算します。所定の割合は、以下の通りです。

土地の相続税評価額を計算する方法について詳しくは、以下の記事もご覧ください。
(参考)相続税評価額の基礎知識と計算方法を税理士がやさしく解説

6-1.評価方法はセットバック後の状況によって異なる

評価する宅地がセットバック済みであり、道路などに利用されていたとしても、実務上ではセットバック部分を分筆登記しているケースはあまり多くありません。そのため、セットバックをした部分の利用状況によって、評価方法が異なる場合があります。

たとえば、セットバックした後の道路敷きの部分を、不特定多数の人が通行するために利用している場合、その部分は、原則として評価の対象になりません。自己の所有する土地の一部が、自由に使用できる権利を阻害されていると考えられるためです。

では、セットバックをした後の道路敷き部分を私的に使用している場合や、その道路が行止りなどで特定の者の通行の用に供されている場合、どのように評価されるのでしょうか。

この場合、セットバックした部分については、特定の人が通行用と使用する私道とみなされるため、財産評価基本通達24の規程にしたがい「自用地評価額×30/100」で評価額が計算されます。
参考:(私道の用に供されている宅地の評価)|国税庁

6-2.セットバックが必要な宅地の評価額の計算例

では、セットバックが必要な宅地の相続税評価額はどのように算出するのでしょうか。モデルケースを用いて試算してみましょう。

【例】以下の宅地Aと宅地Bの相続税評価額を算出します。

なお、宅地Aと宅地Bはどちらも普通住宅地区にあるとします。

宅地Aの相続税評価額
宅地Aはまだセットバックされていないため、全体の評価額から将来的に道路として提供しなければならない部分に相当する金額を差し引く必要があります。

まず、セットバックの減価がないものとした場合の評価額を算出しましょう。セットバック前の宅地Aは、奥行距離÷間口距離が「20m÷10m=2」であるため、評価額を算出するときに奥行長大補正率0.98をかけます。計算結果は、以下の通りです。

  • 200,000円×1.00(※1)×1.00(※2)×0.98(※3)=196,000円
  • 196,000円×200㎡=3,920万円
    • ※1:奥行距離20mの奥行価格補正率
    • ※2:間口距離10mの間口狭小補正率
    • ※3:奥行長大補正率

続いて、セットバック部分を控除した価額を算出します。将来、建物の建替え時等に道路敷きとして提供しなければならない部分の地積は10㎡です。よって、計算結果は以下の通りとなります。

宅地Bの相続税評価額
宅地Bは、すでにセットバックされているため、路線価に地積をかけて計算します。計算結果は、以下の通りです。

  • 200,000円×1.00(※1)×1.00(※2)×1.00(※3)×190㎡
    =3,800万円
    ※1:奥行距離19mの奥行価格補正率
    ※2:間口距離10mの間口狭小補正率
    ※3:奥行長大補正率

計算の結果、宅地Bの自用地評価額は3,800万円と算出されました。セットバックされた部分は公道として利用されているため評価額が0円となり、3,800万円が宅地Bの相続税評価額となります。

7.要セットバック物件の購入は慎重に検討しよう

建物の敷地が2項道路に接している場合、セットバックをしなければ建物の建て替えができません。セットバック後に建てられる建物は基本的に小さくなるため、要セットバック物件は価格が割安です。

建て替えをせずに既存の建物に住み続けることも可能ですが、前面の道路の幅は狭いままとなるため、購入後に防災性や利便性に不安が残るかもしれません。また、将来的に要セットバック物件として売却する場合、買い手がなかなか見つからずに苦労する可能性もあります。

セットバックが必要な物件にはさまざまな注意点があります。自分自身が亡くなったあと、物件を相続した家族に迷惑をかけてしまう可能性もあるため、購入すべきかどうかは慎重に判断することが大切です。

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