相続税には親族などが死亡した場合に遺産を受け継ぐ遺産相続と、生前に家族に対して遺産を受け渡しておく生前贈与の二種類に対して掛けられる税金です。
生前贈与の場合の方が税率が低いため、多大な遺産を所有している方は自身が亡くなる前に子息や孫に対し遺産の一部を受け渡しておくということが珍しくありません。このような対策に加え、相続が開始した後に、税額の猶予が適用される特例などあるのでしょうか?
1.農地に係る相続税の納税猶予の特例とは
相続税には納税猶予制度というものがあります。そのひとつに、相続人が農地を農業目的で利用している場合、農地にかかる相続税額のうち農業投資価格を課税価格とみなして計算した税額を超える部分について、納税が猶予される特例があります。農地にかかる高い相続税を納付するためにかえって農地を売却することがないよう、相相続人による農業経営を支援する目的で昭和50年に設けられました。その後の改正で、農地の効率的な利用を促すため特定貸付を行った農地についても適用できることになりました(市街化区域外の農地に限る)。
2.納付すべき相続税額が算出されない場合の取扱い
配偶者について、納税猶予の特例を適用すると相続税額が算出されない場合でも、納税猶予の特例は適用できるのでしょうか。例えば複数の相続人がいる場合、対象の農地の価額は農業投資価格を適用することができるため、農業相続人として相続する人数が多いほど納税猶予税額の総額が増加します。また、相続税の総額が減少するため、他の農業相続人の税負担を軽くすることができます。
このように、配偶者が農業相続人であるものとして計算すると納付すべき相続税額が算出されない場合、「農業相続人以外の者であるとものとして計算すれば、納付すべき相続税額が算出される場合」に農地に係る相続税の納税猶予の特例が適用されます。「農業相続人以外の者であるとものとして計算すれば、納付すべき相続税額が算出されない場合」は適用することはできませんので注意が必要です。(租税特別措置法関係通達70の6-37)
なお、農地に係る相続税の納税猶予の特例を受けるためには、申告期限までに遺産分割を終わらせ、農地の取得・農業経営の開始と継続を行う必要があります。また、相続税は期限内に収めなければ追徴課税が取られてしまう類の税金です、そのため算出が完了していなくてもとりあえずは報告義務があるという点も覚えておくといいでしょう。納税猶予が適用されたとしても納税額が減額されるということはないため、纏まった金額を納める準備は十分に行っておいてください。