相続手続きには、相続人間で遺産分割協議をしてから遺産分割協議書を作るという面倒ですが重要な手続きがあります。万が一、相続人のなかに破産者がいる場合は、この手続きがさらに複雑化する可能性があるため注意が必要です。ここでは破産者がいる場合の相続手続きについて知っておきたいポイントをご説明します。
1.破産者がいる場合の相続手続きで知っておきたいこと
>>無料会員に入会すると、実務で使えるオリジナル書式をプレゼント!!破産者にも遺産を相続する権利はあります。ただし、被相続人の死亡(=相続の開始)が裁判所による破産手続開始決定の前か後かによって、取り扱いが以下のように変わってきます。
1-1.相続の開始が破産手続開始決定の前の場合
注意が必要なのは相続の開始が破産手続開始決定の前だった場合です。この場合は、破産手続開始決定と同時に裁判所によって選任される破産管財人が、破産した相続人に代わって遺産分割協議に参加し、遺産分割協議書に押印することになります。破産管財人は、破産者のすべての財産の調査や管理をし、処分・換金して債権者に分配金を配る役割を担っているからです。
ただし、処分・換金の対象となるのは、破産手続開始決定までに得た財産です。したがって、破産者にとって、破産手続開始決定前に財産を持つ被相続人が亡くなるのは、「タイミングが悪い」ことになります。
自己破産をしようとする債務者が裁判所に自己破産の破産手続開始の申立てをしてから裁判所が破産手続開始決定を出すまでには、申立て書類に不備がなければ数時間ですむのが一般的です。よって、破産手続き開始決定が出る時期は予想がつきます。万が一、自己破産をしそうなほど借金に苦しんでいる家族・親族がいる場合は、常に注意を払っておいた方がいいでしょう。
なお、まれですが、借金の貸し手である債権者が破産の申立てをすることがあります。債権者による破産申立ての場合は、申立てから破産手続開始決定までに手続きや日にちが多くかかり、破産手続開始決定の時期の予測が困難です。しかし、債権者による破産申立ては、手間も費用もかかり、結局債権者が分配金を受け取れないケースが大部分なため、実際には申立てをする債権者はほとんどいません。したがって、債権者による破産申立てについてはあまり心配しなくていいでしょう。
1-2.相続の開始が破産手続開始決定の後の場合
前述のように、処分・換金の対象となるのは、破産手続開始決定までの財産です。したがって、破産手続開始決定後に相続が開始された場合、破産者は相続財産を「新得財産」として受け取ることができます。さらに、裁判所から免責許可の決定が出ると、破産手続開始決定までの債務を支払う責任がなくなり、破産者は安心して相続財産とともに新生活を始めることができます。
被相続人の死はいつなんどき訪れるかわかりませんが、破産手続開始決定の後である方が、ほかの相続人にとっても好都合です。遺産分割協議に破産管財人をまじえないですみますし、破産管財人によってほかの相続人の意に反するような相続財産の分割や処分をされる心配がなくなります。