農業を営んでいた被相続人が亡くなり、相続人が農地を相続してそのまま農業を続ける場合、一定の相続税額を先延ばしにできるという特例があります。しかし、農地のある場所によっては認められていません。その認められていないエリアである特定市街化区域農地の相続税について見ていきましょう。
~目次~
1.国税庁が定める特定市街化区域農地
>>無料会員に入会すると、実務で使えるオリジナル書式をプレゼント!!1-1.農地の相続税納税猶予とは?
収益性が低いからとどんどん農地を宅地に転用されると、日本の食糧需給率に影響を与えてしまうことから、被相続人が農業を営んでおり、相続人もその農地を受け継いでそのまま農業を行う場合には、一定の相続税額を猶予するという特例が設けられています。これは、相続の際に新たに設備投資をした際、投資した部分にだけ相続税がかかるというものです。
ただし、この特例はすべての農地が対象になるわけではありません。
1-2.農地の相続税納税猶予が認められない地域とは?
ご存じの通り、土地には使用制限がかかっており、農用地区域内農地や甲種農地などは原則として農業以外に使用することができないのに対し、市街地にある第3種農地などは転用して宅地等にすることが可能です。
この相続税の納税猶予は、農業を引き続き行う人に対する優遇措置であるため、宅地への転用可能で今後も農業をずっと行う見込みが低くなる地域では、認められていないのです。
具体的には、宅地の供給が優先される三大都市圏特定市では認められていません。三大都市圏特定市以外なら市街化区域外はもちろん、市街化区域内でも納税猶予は認められていますが、三大都市圏特定市内でも生産緑地地区に指定されていれば例外的に相続税猶予が認められます。
三大都市圏特定市とは、首都圏(茨城県、埼玉県、東京都、千葉県、神奈川県)、中部圏(愛知県、三重県)、近畿圏(京都府、大阪府、兵庫県、奈良県)の中で指定された合計190の市(東京の特別区を含む)のこと。このエリアは優先的に市街地にするべき地域とされ、農地も宅地並みの評価を受けています。
三大都市圏特定市にある農地が、国税庁が定める特定市街化区域農地に相当します。
2.特定市街化区域農地の納税猶予の廃止について
2-1.納税猶予廃止の経緯
なぜ、三大都市圏では農地の相続税猶予が廃止されたのでしょうか。
高度成長期に市街地が無秩序に拡大したことを受け、都市計画法が制定され土地には利用制限がつくようになりました。基本的に農地は食糧需給のため保護する動きになっていますが、市街地の農地は宅地へ転用することが推奨されるようになったため、その一環として市街地の農地には宅地並みの課税となったのです。
農地の相続税納税猶予は1975年に創設されましたが、住宅の供給が必要な三大都市圏特定市では農地の宅地化促進のために、1991年に相続税納税猶予が廃止されました。
2-2.生産緑地地区内の農地は例外
ただし、三大都市圏特定市内にあっても生産緑地地区内にある農地に関しては、納税猶予が認められています。
市街化区域内にあり、自治体から保護するべきと指定された500㎡以上の農林漁業用の土地のことを生産緑地といいますが、そもそも生産緑地とは三大都市圏内にある農地保護のために作られた規定です。
生産緑地として指定された農地は税制で優遇される代わりに、30年間は農地以外に土地を使用することができません。また納税猶予を受けるためには、終身営農が条件となっています。
そして、納税猶予を受けた土地が要件を満たさなくなった場合、納税猶予された相続税に利子税を加算して納付しなくてはなりません。
たとえば東京の市街化区域にある500㎡の畑で、宅地としての相続税評価が3億円の土地なら、猶予を受けた場合では、
84万円(10アールあたりの農業投資価格(東京・2016年))×500㎡/1000㎡= 42万円
となりますので、42万円が納税額です。しかし納税猶予を受けるための要件が満たされなくなると、宅地としての評価額3億円との差額及び利子税を納付する必要があります。
三大都市圏特定市内にあって、生産緑地外の農地に関しては、相続後も農地として使用するとしても納税猶予を受けることはできません。