亡くなった人(被相続人)が民間保険会社の医療保険に加入していた場合、入院給付金を請求できることがあります。
受け取った入院給付金は、相続税の課税対象になるケースとならないケースがあります。また、みなし相続財産となる生命保険金とは異なり、相続税の計算時に「500万円×法定相続人の数」で計算される非課税枠は適用されません。
この記事では、被相続人が加入していた医療保険の入院給付金が相続税の課税対象となるケースについて相続税専門の税理士がわかりやすく解説します。
~目次~
1.入院給付金が相続税の課税対象となるケースと評価方法
>>無料会員に入会すると、実務で使えるオリジナル書式をプレゼント!!入院給付金は、被保険者(保険の対象となる人)が病気やけがを治療する目的で入院をした場合に支払われる給付金です。
入院した日数に応じて給付金額が決まるタイプや入院時にまとまった一時金を受け取れるタイプなど、さまざまな種類があります。
ここでは、入院給付金が相続税の課税対象となるケースと評価方法について解説します。
1-1.受取人が被相続人の場合は相続税の課税対象
入院給付金に相続税がかかるのは、原則として給付金の受取人が「被相続人」だったケースです。
受取人が被相続人になっているということは、入院給付金は被相続人に対して支払われるということです。よって、入院給付金は被相続人の財産であり、相続税の課税対象になると考えられます。
たとえば、亡くなった父親が医療保険の被保険者かつ受取人であり、生前に入院していたにもかかわらず入院給付金を請求していなかったとしましょう。
この未請求の入院給付金は、受取人である父親自身の財産とされます。遺族が代わりに入院給付金を請求したとしても、その入院給付金は亡くなった父親のものであると判断され、相続税の課税対象となります。
実際の医療保険契約では、入院した本人(被保険者)と給付金の受取人が同一人物に設定されているケースがほとんどです。そのため、故人が被保険者となっていた医療保険等から支払われる入院給付金は、基本的に相続税の課税対象になります。
また、生前に被相続人自身が入院給付金を請求して受け取り、使い切らずに残した場合、その残った金額(現預金)も相続財産の一部として扱われます。
1-2.入院給付金の評価方法
被相続人が受取人であり、相続の開始時点で未請求の入院給付金は「未収入金」として相続税の課税対象となります。この場合、相続税評価額は被相続人の死亡日において保険会社から支払われるべき金額です。
たとえば、被相続人が亡くなった時点で未請求の入院給付金が100万円である場合、相続税評価額も100万円となります。
一方、亡くなる前に受取人本人が給付金を受け取っていたときは、受取額から治療費や入院費用で使った分を差し引いた残額が相続税の課税対象となります。
2.入院給付金に相続税がかからない場合
続いて、入院給付金がどのような場合に相続税の課税対象外となるのかを解説します。
2-1.受取人が被相続人以外であるケース
入院給付金に相続税がかからないのは、給付金の受取人が「被相続人以外」だったケースです。
医療保険のほとんどは、入院給付金の受取人と被保険者は同一人物に指定されていますが、中には契約者など被保険者以外の人が受取人となっている場合があります。
受取人が被相続人ではない人に指定されている場合、受け取った入院給付金に相続税はかかりません。入院給付金は、被相続人の入院がきっかけで支払われますが、受け取る権利は初めから受取人のものであり、被相続人の財産とはみなされないためです。
そのため、被相続人が遺言書を残していない場合に、相続人全員で遺産の分け方を話し合う遺産分割協議の対象にもなりません。
2-2.所得税や贈与税も非課税
身体の疾病や傷害などで受け取れる保険金や給付金は、基本的に所得税や贈与税の課税対象になりません。
受取人が入院した本人やその配偶者、直系の親族(子や孫、父母や祖父母など)、生計を同じくするその他の親族の場合、入院給付金等は非課税とされているためです。
一般的に生命保険契約では、上記に該当しない人が受取人になることはできないため、医療保険の給付金受取人と被保険者が異なる場合、所得税や贈与税も課税されないと考えてよいでしょう。
3.入院給付金が相続税の課税対象になる場合の注意点
入院給付金が相続税の課税対象となる場合、以下の点に注意する必要があります。
3-1.本来の相続財産として課税対象になる
生命保険の契約者(保険料負担者)と被保険者(保険の対象になる人)が被相続人である場合、死亡時に支払われる保険金は「みなし相続財産」として、相続税の課税対象となります。
一方、入院給付金は生前の入院に対して発生する財産なので「被相続人本来の相続財産」にあたります。
みなし相続財産となる死亡保険金は、受取人固有の財産であるため、被相続人が遺言書を残していない場合、遺産分割協議の対象にはなりません。
それに対して、入院給付金は被相続人本来の相続財産のため、預貯金や不動産などと同じように遺産分割協議の対象となります。
3-2.生命保険の非課税枠は適用されない
生命保険の死亡保険金には遺族の生活を守るという目的があるため、相続税が一定額までかからない非課税枠(非課税限度額)があります。
生命保険の非課税枠は「500万円×法定相続人の数」という計算式で算出されます。たとえば、法定相続人が3人の場合、合計で「500万円×3人=1,500万円」までの死亡保険金に相続税がかかりません。

一方で、入院給付金が相続税の課税対象となる場合、生命保険の非課税枠は適用されず全額が相続税の課税対象となります。
3-3.死亡保険金とあわせて振り込まれることがある
保険会社に入院給付金を請求したとき、死亡保険金と合算されて振り込まれる場合があります。
その場合、預金通帳には振り込まれた金額の合計と支払元の保険会社名しか記載されないため、全額が死亡保険金であると勘違いしてしまうかもしれません。
しかし、入院給付金と死亡保険金は、以下のように税務上や遺産分割時の取り扱いが異なるため、内訳を正確に把握することが大切です。
| 入院給付金 | 死亡保険金 | |
|---|---|---|
| 財産の種類 | 被相続人本来の相続財産 | みなし相続財産 |
| 遺産分割協議 | 対象 | 対象外 |
| 相続税の非課税枠 | なし | 500万円×法定相続人の数 |
振込額のすべてを死亡保険金として扱ってしまうと、入院給付金に相続税の非課税枠を適用して相続税の計算を誤ってしまうかもしれません。
また、入院給付金を遺産分割協議の対象とせずに話し合いを進めてしまう可能性も考えられます。
入院給付金を請求したときは、保険会社から送付される支払明細書などを必ず確認し、死亡保険金と入院給付金の内訳を正確に把握しましょう。
3-4.相続財産の総額が基礎控除額を超える部分に課税される
故人が被保険者と受取人である入院給付金を受け取ったからといって、必ず相続税がかかるわけではありません。入院給付金を含むすべての相続財産の合計額が、基礎控除額を超えた場合に初めて相続税がかかります。
相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という式で計算されます。

たとえば、法定相続人が配偶者、長男、長女の3人である場合、基礎控除額は「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」です。
入院給付金額が合計で30万円、その他の相続財産が4,000万円の場合、合計は4,030万円であり、基礎控除額4,800万円を下回ります。
遺産の総額が基礎控除額の範囲内に収まるのであれば、相続税の申告も納税も不要です。
相続税の基礎控除額について詳しくは、以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
(参考)相続税の基礎控除とは│いくらまで無税?免除の目安も解説
3-5.医療費控除を計算する際は入院給付金額を差し引く(所得税の準確定申告)
被相続人が亡くなった年の1月1日から死亡日までに申告すべき所得がある場合は所得税の「準確定申告」をする必要があります。
被相続人が生前に負担した医療費がある場合は、準確定申告で「医療費控除」を申請することが可能です。医療費控除は、以下で計算される金額を所得金額から控除できる制度です。
※その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%の金額
準確定申告で医療費控除を申請する場合、支払った医療費の総額から被相続人が加入していた医療保険の入院給付金を差し引く必要があります。
準確定申告と医療費控除について詳しくは、以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
(参考)被相続人の医療費は準確定申告で控除済でもさらに控除できる?相続税の債務控除について
4.入院給付金の受取人を確認する方法
入院給付金が相続税の課税対象となるかどうかは、保険契約上の受取人が誰なのかで判断されます。
実際に給付金を請求した人や受け取った人で判断するわけではないため、相続手続きを正しく進めるためには、保険契約上の受取人が誰に指定されているのかを正確に把握しましょう。
契約上の受取人を確認する主な方法は以下のとおりです。
【入院給付金の受取人を確認する方法】
- 保険証券を確認する
- 保険会社から毎年送られてくる「ご契約内容のお知らせ」を確認する
- 保険会社のWebサイトにある契約者ページにログインして確認する
- 保険会社の担当者やコールセンターへ問い合わせる
まずは、被相続人が加入していた医療保険の保険証券やご契約内容のお知らせを探しましょう。
インターネットから契約者専用ページにログインして確認することも可能ですが、IDやパスワードなどの入力を求められます。
もっとも確実なのは、加入先の保険会社に問い合わせることです。
入院給付金の受取人は被保険者と同一人であるケースがほとんどですが、稀に契約者など他の人が指定されていたり契約途中で変更されていたりする場合もあります。
被相続人が加入していた医療保険の入院給付金を法定相続人が請求する際に、受取人が誰に設定されているのかも確認しておくとよいでしょう。
5.【応用編】判断に迷うグレーなケースQ&A
実際の相続手続きでは、入院給付金が相続税の課税対象になるかどうか判断に迷うケースがあります。たとえば、以下のようなケースです。
ここでは、応用編として上記のようなケースにおける入院給付金の税務上の取り扱いを解説します。
5-1.指定代理請求人が給付金を請求した場合
指定代理請求人は、被保険者の代わりに保険金や給付金を請求できる人です。
「被保険者が昏睡状態や認知症などで意思表示ができない」「被保険者が病名や余命に関する告知を受けていない」などの理由で請求できない場合、事前に指定された指定代理請求人が給付金を請求することが可能です。
指定代理請求人が請求した入院給付金は、被保険者(受取人)が受け取ったものとして扱われます。
そのため、被保険者(受取人)が亡くなったとき、受け取った入院給付金のうち使い残した部分が相続税の課税対象になります。この場合も、本来の相続財産として扱われるため、死亡保険金とは異なり非課税枠は適用されません。
指定代理請求人の口座に入院給付金が振り込まれたとしても、所得税や贈与税は非課税となります。ただし、指定代理請求人が自身のために入院給付金を使った場合、贈与があったとみなされて贈与税の課税対象になる場合があります。
5-2.入院給付金に遅延利息が付いて振り込まれた場合
保険会社が入院給付金を所定の期日までに支払えなかった場合、遅延利息を含んだ金額が振り込まれることがあります。
被相続人が加入していた医療保険の入院給付金を請求した際、そのうちの遅延利息の部分は、相続税の課税対象にはなりません。遅延利息は、被相続人が亡くなったあとに発生した支払いの遅延に対するものであるためです。
入院給付金に遅延利息が付いて振り込まれた場合は、入院給付金のみの金額を相続財産に含めます。
なお、遅延利息は給付金を受け取った相続人自身の雑所得として所得税の課税対象となるため、確定申告が必要となる場合があります。
5-3.夫婦型の医療保険に加入していた場合
夫婦型の医療保険は、1つの契約で夫婦2人分の保障を受けられる商品です。個別に医療保険に加入するよりも保険料が割安であり、管理する保険契約も1つで済むなどのメリットがあります。
夫婦型医療保険の主たる被保険者と給付金の受取人は同一人であるのが一般的です。たとえば、夫が入院したときは夫が入院給付金を受け取り、妻が入院したときは妻が入院給付金を受け取ります。
夫婦どちらか一方が亡くなり、未請求の入院給付金がある場合、その給付金は未収入金として相続財産となるため、相続税の課税対象となるケースがほとんどです。
また、この入院給付金は本来の相続財産となるため、みなし相続財産となる死亡保険金とは異なり「500万円×法定相続人の数」で算出される非課税枠は適用されません。
なお、夫婦型医療保険の主たる被保険者(契約者)である人が亡くなると、保険契約が終了する場合と契約者を変更して継続できる場合があります。
夫婦型の医療保険に加入しており、主たる被保険者(契約者)である夫または妻が亡くなったときは、入院給付金を請求する際に契約の取り扱いについて確認することが大切です。
5-4.死亡時支払金受取人が指定されている場合
医療保険の契約内容によっては、被保険者が亡くなったときに死亡給付金や死亡保険金(以下、死亡給付金等)が支払われる場合があります。
死亡給付金等は、契約時に指定された死亡時支払金受取人が受け取ります。
死亡給付金等にかかる課税関係は、生命保険の死亡保険金と同様に、契約者、被保険者、受取人の関係によって決まります。仮に被保険者が夫である場合、死亡給付金等に課税される税金は以下のとおりです。
| 契約者 (保険料負担者) |
被保険者 | 受取人 | 税目 |
|---|---|---|---|
| 夫 | 夫 | 妻または子 | 相続税 |
| 妻 | 夫 | 妻 | 所得税・住民税 |
| 妻 | 夫 | 子 | 贈与税 |
被相続人が契約者として保険料を支払っており、かつ被保険者でもあった場合、死亡給付金等はみなし相続財産として相続税の課税対象となります。
死亡時支払受取人が配偶者や子などの法定相続人であれば「500万円×法定相続人の数」で計算される非課税枠も適用が可能です。
同じ医療保険の保障でも、入院給付金と死亡給付金等で税金の取り扱いは異なります。
被相続人が医療保険に加入していた場合は、相続税専門の税理士や最寄りの税務署などに相談し、給付金に課税される税金のルールをよく理解したうえで、相続税の申告手続きを進めましょう。
6.入院給付金の税務に関する不明点は税理士へ相談を
入院給付金は、受取人が被相続人である場合に相続税の課税対象となります。この場合、本来の相続財産となるため、遺産分割協議の対象となる一方、税額を計算する際に生命保険の非課税枠は適用できません。
入院給付金のように見落としがちな財産を漏れなく洗い出し、相続財産の全体を正しく評価して税額を算出するためには専門的な知識が求められるため、相続税専門の税理士に相談することをおすすめします。
税理士法人チェスターは、年間3,000件を超える業界トップクラスの申告実績を誇る相続税専門の税理士法人です。豊富な経験とノウハウをもとに、入院給付金のような判断に迷う財産を含む相続税申告も、正確かつ適切にサポートいたします。
相続税申告についてお困りの方は、税理士法人チェスターにぜひご相談ください。
※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。
なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問い合わせ→記事内容に関するお問い合わせ」よりお問合せ下さい。
但し、記事内容に関するご質問や問い合わせにはお答えできませんので予めご了承下さい。



