被相続人が雇用していた従業員を相続開始後に解雇し退職金を支払った場合の債務控除

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被相続人が何らかの事業を営んでいる場合、もちろんその事業についても相続の対象となります。

この時、相続人への事業承継が正しく行われていれば大きな問題が起こることもありませんが、もし相続人が全く関わっていなかった場合は、事業を継続させることができないかもしれません。
同様に、火事や災害などで事業基盤が失われると同時に被相続人が亡くなった場合も、事業の継続は難しいでしょう。
また、そもそも事業を承継する人がいない場合もあります。

相続した事業を廃業した場合、その事業で雇用されていた従業員は解雇となるため、退職金を支払うことになります。この退職金は、相続税法上はどう扱われるのでしょうか?

1.相続税の課税対象となる財産と控除対象となる債務

相続税法第13条第1項第1号によると、相続税の課税対象となるのは、「相続開始時に存在する財産すべてから、相続人が負担した債務を控除した残りの財産」となっています。そしてこの、「相続人が負担した債務」というのが、相続税法第14条第1項に定められており、それは「相続開始時に確実と認められる債務」と規定されています。

つまり、相続開始時に存在するすべての財産から、確実と認められる債務を控除した財産の価額が課税対象となるのです。

2.被相続人が雇用していた従業員を相続開始後に解雇し退職金を支払った場合の債務控除

「被相続人が雇用していた従業員を、相続開始後に解雇して支払った退職金」が債務控除の対象となるかどうかは、上記の相続税法の規定から、その退職金が“相続開始時に確実と認められるもの”だったかどうかがポイントとなります。

「退職金を相続した財産から支払うから、控除対象になる」というわけではありません。その退職金が相続開始時に「確実と認められる」という点がはっきりとしていなければいけないのです。幾つかの例を挙げましょう。

(1)事業承継した後に、事業が続けられずに廃業したことによる解雇

事業承継した事業を、承継人が続けられなくなってしまったために廃業する場合は、廃業することが相続開始時に確実だったかどうかを問われることになります。
事業を続けることが明らかに難しいにもかかわらず継続し、結果として廃業するしかなくなってしまった場合、「相続開始時に継続が不可能だった」という点を争うことになるでしょう。しかしこの場合、「事業の継続を決断した」という事実がありますので、退職金が債務控除の対象と認められる可能性は低いでしょう。

(2)事故や災害などで事業基盤が失われたために廃業したことによる解雇

火事や事故、災害などで被相続人が亡くなり、事業基盤も同時に失われてしまった場合、事業承継人がいたとしても廃業する以外に選択できない可能性が高いでしょう。そのため、この場合の解雇については「従業員の退職金」という債務が発生することが確実と認めらます。そのため、この場合の退職金は、債務控除の対象となります。

(3)事業の承継人がいないために廃業したことによる解雇

事業を承継する人がいなければ、廃業するしかありません。つまり、相続開始することによって従業員の解雇は確定しており、退職金を支払うことはその時点で確実と認められます。そのため、この退職金については、債務控除の対象になります。

【参考】
国税庁 質疑応答事例 被相続人が雇用していた従業員を相続開始後に解雇し退職金を支払った場合の債務控除


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