親の介護を放棄する方法はある?兄弟間の争いを防ぐ対処法とは
親の介護を放棄はできませんし、親の介護を放棄する方法もありません。
この理由は、子供は経済的に自立できない親を支えなければならないとする、扶養義務が法律で定められているからです。
親の介護を放棄した場合は罪に問われる可能性もあるため、扶養義務や法律問題について理解しておかなくてはなりません。
この記事では、兄弟と介護費用の支払いについて争いになった場合にとれる法的手続や、遺産相続と介護負担の関係性などもご紹介します。
法律的な側面から様々な対処方法を知ることが、親の介護に関する兄弟間トラブル防止につながります。
この記事の目次 [表示]
1.介護放棄とは
介護放棄とは、介護が必要な状態の高齢者のケアを放棄することを指します。
「親の介護をしたくないから」と、食事を与えない・オムツ交換を行わない・入浴させない・医療機関を受診する機会を与えないなどの放置・無視する行為が、介護放棄に該当します。
介護放棄の中には、要介護者を残したまま引っ越しをしたり、暴力に発展したりするケースもあるようです。
1-1.「介護放棄」が起きてしまう背景・原因とは
介護放棄が起きてしまうのは、3つの背景・原因があります。
1-1-1.被介護者の状態悪化
介護放棄が起きる1つ目の原因は、要介護者の状態悪化です。
介護期間が長くなると共に、要介護者の身体機能や認知機能は悪化します。
要介護者の身体機能や認知機能が低下し、自分で身の回りのことができなくなると、養護者への精神的・体力的な負担が大きくなってしまいます。
厚生労働省の調査によると、要介護度が高くなるほど、介護放棄の割合も高くなると発表されています。
参考:令和元年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果 |厚生労働省
1-1-2.経済的に厳しい状態
介護放棄が起きる2つ目の原因は、養護者が経済的に厳しい状態であることです。
在宅介護の負担を軽減するために、様々な介護保険サービスがあります。
これらの介護保険サービスには要介護度に応じた利用限度額が設けられているものの、所得に応じて1~2割を自己負担しなくてはなりません。
養護者やその家族の生活もある中で、さらに介護に関する金銭的な負担が増えると、養護者は経済的に厳しい状態になってしまいます。
1-1-3.被介護者に対する心情
介護放棄が起きる3つ目の原因は、要介護者に対する心情です。
要介護者である親と養護者である子供の関係性が悪ければ、たとえ介護が必要であったとしても、子供は「親の介護をしたくない」と思ってしまうでしょう。
また、親との関係性が悪くなくても、必ずしも子供が親の介護をしたいと思うとは限りません。
2.親の介護は放棄できない-法律で定められている扶養義務
まず結論から言うと、子供が親の介護を放棄することはできません。
これは民法877条第1項において、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定められているためです。
相続放棄のように遺産の相続を放棄する手続きも存在しないことから、法律上は親の介護は放棄できません。
なお、親と絶縁状態であるなどの個別の事情は、家庭裁判所での調停の際の考慮材料にはなりますが、親の介護を放棄できる理由にはなりません。
2-1.扶養義務者の範囲
民法877条第1項で定められている「直系血族」とは、親族関係図で見た場合に、要介護者から上下の関係に当たる親族です。
親の介護というケースにおいては、要介護者は高齢であることが想定されるため、要介護者の子供や孫が該当します。
また、民法752条では「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」として、配偶者の扶養義務についても定めています。
そのため、要介護者から見た場合、以下の範囲の人に介護義務があります。
誤解されがちですが、要介護者の子供の配偶者は親族であるものの、法律上の扶養義務はありません。
つまり、夫や妻の親の介護については、扶養義務に該当しないということです。
2-2.扶養義務者の優先順位
扶養義務者の優先順位は、法律で定められていません。
仮に要介護者に子供が3人いれば、3人の子供全員に扶養義務があります(配偶者がいれば配偶者にも扶養義務あり)。
なお、扶養義務者の優先順位に、「同居の有無」や「兄弟姉妹の年齢」は関係しません。
実際には、要介護者と扶養義務者の話合いで優先順位が決まりますが、話合いが決裂した場合は家庭裁判所に調停を申立てることとなります。
2-3.扶養義務の内容-扶養とは資金の援助をすること
親の介護における子供の扶養義務は、「生活扶助義務」が該当します。
生活扶助義務とは、扶養義務者自身の生活は通常通り遅れることを前提とし、その「余力の範囲内」で経済的に扶養する義務のことを指します。
具体的には、扶養義務者が自らの生活水準を保つことを前提として、その余力の範囲内で「生活費」や「介護施設への入所費用など」を援助することが該当します。
ただし、経済的援助が難しい場合は、親と同居している扶養義務者が日常生活の介助をするなどの、面倒見的な扶養も認められます。
3.親の介護を放棄したい…親子の縁を切る方法はある?
親の介護を放棄したいからと、親子の縁を切ることはできません。
この理由は、日本の法律では、実親と実子の親子関係を切ることができないためです。
ただし普通養子縁組をした養親と養子であれば、当事者同士の協議をもって離縁できます。
3-1.法的に親子の縁を切ることはできない
日本の法律では、実親と実子の縁を切ることはできません。
「勘当する」「絶縁する」などと宣言をしても法律的な効果はありませんし、書面を作成しても無意味です。
仮に子供が第三者と普通養子縁組をしても、実親との血縁関係はそのまま残るため、実親との縁を切ることはできないのです。
実子や養子縁組について、詳しくは「実子とは?養子縁組とは?相続における実子と養子の違い【具体例】」をご覧ください。
3-2.事実上の親子の縁を切る方法
法的に親子の縁を切ることはできませんが、事実上の縁を切る方法として「戸籍の分籍」があります。
戸籍の分籍とは、成年に達している子供が在籍している戸籍から抜けて、単独の戸籍を編成することを指します(転籍とは異なります)。
戸籍を分けるだけなので、親子関係には変更ありませんが、子供が結婚・離婚しても親の戸籍には記載されず、親と違う苗字を名乗ることができます。
また親の遺産相続もしたくないのであれば、親の相続発生から3ヶ月以内に相続放棄をすれば、法定相続人としての義務は最初から無かったものとして扱われます。
相続放棄について、詳しくは「相続放棄とは?メリット・デメリットから手続き方法・期限など基礎知識を解説」をご覧ください。
4.親の介護放棄は罪になる?-死亡やケガの場合は罪になることも
扶養義務があるにも関わらず親の介護を放棄すると、「保護責任者遺棄罪」に該当し、3ヵ月以上5年以下の懲役に科せられる可能性があります。
さらに介護放棄したことにより、親が死亡したり怪我を負ってしまったりした場合には、以下の罪が適用される可能性もあります。
- 保護責任者遺棄致死罪(3年以上20年以下の懲役)
- 保護責任者遺棄致傷罪(3ヵ月以上15年以下の懲役)
上記は「育児放棄問題」でよく話題に挙がる罪ですが、親の介護放棄にも適用されるのです。
4-1.母親を放置して死なせたとして長男が逮捕【事例】
平成27年、奈良県香芝市で同居していた81歳の母親の介護を放棄して死なせたとして、当時56歳の長男が保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕・起訴され、同年の公判にて懲役3年の判決が下りました。
この事件の場合は、衰弱する母親を目の当たりにしながら必要な医療措置を拒否するなど悪質なケースではありましたが、実例として親の介護放棄が罪に問われた事件です。
5.親の介護費用は誰が払う?
親の介護は放棄できず、扶養義務者には「生活扶助義務」があると解説してきました。
しかし、扶養義務者である子供が、親の介護費用の全額を負担する必要はありません。
5-1.介護費用は親の財産でまかなうのが原則
扶養義務の内容が「生活扶助義務」であっても、介護費用は親の財産でまかなうことが原則です。
つまり、介護用品の代金やホームヘルパーのサービス利用料は、一時的には親の年金・預貯金・資産などから支払います。
そして不足が生じた場合にのみ、扶養義務者である子供が負担することになります。
5-1-1.老人ホーム入居で介護費用はいくらかかる?
老人ホームや介護施設には様々な種類があり、それぞれ料金相場が異なります。
入居一時金 | 月額費用 | |
---|---|---|
特別養護老人ホーム | 0円 | 5~15万円 |
サービス付き高齢者向け住宅 | 0円~数十万円 | 10~30万円 |
グループホーム | 0円~数十万円 | 15~20万円 |
住居型有料老人ホーム | 0円~数百万円 | 15~30万円 |
介護付き有料老人ホーム | 0円~数百万円 | 15~30万円 |
ケアハウス | 数十万円~ | 10~30万円 |
どの種類を選択するのかで入居一時金が異なりますが、月額費用は20万円程度が相場と見積もっておけば良いでしょう。
なお、老人ホームのクーリングオフ期間は90日ですので、入居してみて合わない…と感じたら、入居一時金などは全額返還してもらえます。
5-2.扶養義務者が支払うべき扶養料は「余力の範囲内」
親の負担分を超えて、扶養義務者である子供が経済的援助をする場合でも、「余力の範囲内」で良いとされています。
具体的にどのくらいが「余力の範囲内」に該当するのかは、扶養義務者の収入や社会的地位に応じて可能な範囲内で、扶養義務者同士で話し合って決めることとなります。
扶養義務者同士の話合いがまとまらない場合は、最終的に家庭裁判所の扶養請求調停・審判にて定められることとなります。
5-3.足りない時は軽減・減免制度の利用を検討
親の介護費用が足りない場合は、軽減・減免制度の利用を検討しましょう。
5-3-1.所得控除
所得控除とは、所得の年間合計金額から、一定金額を差し引くことができる制度のことです。
親の介護である場合、扶養義務者である子供は「扶養家族あり・医療費の支払いあり」になりますので、所得控除の「医療費控除」「障害者控除」「扶養控除」が適用できる可能性があります。
これらの所得控除を適用した結果、課税所得が低くなり、所得税を低く抑えることができます。
所得控除の要件について、詳しくは「税金の控除とは?控除の種類や仕組み、申請方法を知って節税対策!」をご覧ください。
5-3-2.世帯分離
世帯分離とは、同居をしているものの、住民票を親世帯と子世帯で分離することです。
例えば、親と子供が同居をしているものの、世帯分離をすることで、同じ住所に「親世帯」と「子世帯」の2人の世帯主を置くことができます。
介護費用の自己負担額は、世帯の所得によって決まります。
世帯分離をして介護サービスを受ける親が単独世帯となれば、介護費用の自己負担額が下がり、介護費用の軽減に繋がります。
ただし状況によっては損をすることもあるので、専門家に相談をして実行するよう心がけましょう。
6.親の介護費用を支払わない兄弟に対して「扶養請求調停」を申立てる場合
親に対する介護義務には、「長男だから介護すべき」「同居している者が介護すべき」といった優先順位はありません。
しかし、兄弟のうちの一人に負担が集中して、不公平感から兄弟間でトラブルに発展することは珍しくありません。
また、親の介護費用をだれが負担するのかについて、兄弟間で話合いがまとまらない場合もあります。
このような場合は、家庭裁判所に扶養料を求める調停である、「扶養請求調停」を申立てることができます。
この章では、兄弟が親の介護費用負担を拒否した場合における、家庭裁判所への扶養請求調停の申立て手続きについてご紹介します。
6-1.扶養請求調停の申立てができる人
家庭裁判所に対する扶養請求調停は、「扶養義務者(子供)」「扶養権利者(親)」のどちらからでも申立てることができます。
申立てを行う家庭裁判所は、基本的に「相手方の住所地を管轄する家庭裁判所」とされています(相手方が複数の場合は、いずれか一人の住所地の管轄裁判所)。
当事者間で合意があれば、お互いの住所地の中間にある別の家庭裁判所を指定することもできます。
6-2.扶養請求調停の申立ての必要書類
扶養請求調停の申立ての際の必要書類は、以下の通りです。
申立書の書式及び記載例については、裁判所「扶養請求調停の申立書の書式例」から確認できます。
戸籍謄本は、今回のケースのように相手方が他の扶養義務者(兄弟)の場合は、扶養権利者(親)のものも1通必要となります。
6-3.扶養請求調停の申立てにかかる費用
扶養請求調停の申立てにかかる費用は、以下の通りです。
仮に両親が扶養権利者となる場合、収入印紙は2人分必要となります。
連絡用郵便切手は管轄の家庭裁判所からの連絡用となるため、申立書に同封しましょう。
6-4.扶養請求調停の手続の流れ-裁判官や調停員と解決に向けた話合いをする
扶養請求調停の手続きの流れは、以下の通りです。
調停手続は、申立人と相手方との間に入った調停員の助言や提案を受けながら、双方の合意を目指すという形で進めていきます。
調停期日には当事者本人が出頭することが原則ですが、遠隔地居住や病気などのやむを得ない事情の場合は、電話会議での参加や代理人の出頭も認められます。
調停員から当事者双方に対して、経済的状況や介護に対する考え方について聴取がありますが、この際に供述内容を裏付ける資料などの提出を求められることもあります。
一通りのヒアリングを終えた調停員は、扶養権利者の意向なども踏まえて、助言や具体的な解決策を提示します。
一連の調停手続は、通常は1ヶ月に1回程度のペースで、何回かに分けて行われます。
もし当事者が合意に至らず調停が不成立となった場合は、自動的に審判手続へと移行し、裁判官が一切の事情を考慮して審判を下します。
6-5.扶養料請求の調停が成立すると未払のときに強制執行も可能
調停でも審判でも一定の強制力があるため、当事者は内容を履行する義務があります。
扶養料の支払いを命じられた扶養義務者がこれを怠ったときは、裁判所に対して取り決めを守らせるように申立てを行うことができます。
これには強制力の低い順から、履行勧告・履行命令・強制執行という手続きがあります。
6-5-1.履行勧告
履行勧告とは、家庭裁判所から義務者に対する警告のことを指します。
支払い等の履行の強制ができないものの、費用がかからないため強制執行前の手続として利用されています。
6-5-2.履行命令
履行命令は、強制執行のように支払いを強制する法的執行力はありません。
しかし、従わない場合は10万円以下の過料に処せられます。
6-5-3.強制執行
強制執行は、義務を履行しない場合に強制金を課す「間接強制」と、義務者の給料債権や資産を直接差し押さえることができる「直接強制」があり、大変強い執行力を持つ手続きです。
調停調書に記載された内容は、審判と同一の効力があります。
したがって、調停成立後に扶養料の未払いが発生したときは、差押命令によって相手方の給料や預貯金などから支払いを受けることができます。
なお、日常生活の介助の実施など、調停内容が金銭債務以外の場合には、間接強制による方法で義務の履行を促すことになります。
6-6.扶養をすべき者の優先順位を決める調停手続もある
扶養に関する調停手続には、扶養料を求めるための申立てだけでなく、扶養をすべき者の優先順位を決める申立てもあります。
民法878条では扶養の順位について「当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める」として、まずは当事者間での話し合いを優先するとしています。
その上で、話し合いがつかなかったり、そもそも話し合いに応じなかったりした場合に、調停手続によって優先順位を決めていくことになります。
7.親の介護放棄による争いを防ぐためにやっておくべき4つのこと
調停や審判といった法的手続きは、当事者間で話し合いがまとまらない場合の最後の手段です。
法的手続きに発展しないよう、親の介護が発生する前に備えておくことが大切です。
以下に紹介する対策はそれぞれ有機的に関連しているため、多く備えれば備えるほどより強力なセーフティーネットとなり得ます。
7-1.方針を決めておく-自宅介護or施設に入る
親が一人で生活することが困難になったときのことについて、当人の意向を確認することはもちろん、家族間で話し合いをして方針を決めておきましょう。
特に「自宅で同居している誰かが介護するのか」「施設に入居するのか」という選択は、介護費用にダイレクトに関わってくるため、最優先で決めておくべきです。
7-2.親の財産・支払うことができる金額を把握しておく
親の資産や負債がどれくらいあり、自宅介護や施設入居にどれくらいお金がかかるか把握しておきましょう。
この理由は、いざ介護が必要になったときに慌てずに済むためです。
親の財産に口出しすることは二の足を踏むという風潮がありますが、先に述べたように介護費用は親の財産でまかなうことが原則です。
そのため、親を含めた家族間で共有しておくことで、周囲の理解を得られやすくなります。
また、来るべき介護に備えて早いうちから「介護預金」のような形で費用を共同で積み立てておくのもよいでしょう。
7-3.家族でそれぞれの役割分担を話し合っておく
扶養義務者それぞれの役割を、あらかじめ話し合って決めておきましょう。
予め役割分担を話し合っておくことで、トラブル発生のリスクを大幅に減らせます。
社会的地位や家庭状況の異なる扶養義務者が、負担を等しく分担しようとすると、どうしても無理が生まれます。
そこで、お互いに「できること」と「できないこと」をハッキリさせておくことで、役割分担に納得感が出てきます。
例えば、自宅介護の場合は、食事の世話や病院の付き添いなどの日常生活を介助する者、介護用品の費用を負担する者といった役割分担が考えられます。
施設に入所する場合だと、手続関係をすべて請け負う代わりに、経済的負担を軽くするというパターンもあります。
7-4.介護サービスや行政の支援などで利用できる制度を知っておく
介護生活を破綻させないためには、介護サービスや行政支援など、第三者の協力を仰ぐことでリスクを分散させることも大切です。
介護問題を家族内だけで完結させようとすると、誰かに負担が集中して介護疲れを生み、果ては介護うつや介護放棄にもつながりかねません。
7-4-1.介護保険制度を利用
介護サービスとしては、まず介護保険制度を利用する方法があります。
ケアマネジャーに相談してサービスを受けるべき範囲を明確にし、思い切って介護のプロに任せてしまうのも手です。
7-4-2.民間の介護保険外サービスを利用
買い出しや食事の用意など、公的介護保険では利用が制限されるサービスについては、民間の介護保険外サービスの利用を検討しましょう。
保険が適用されないため、その分費用は掛かりますが、柔軟なサービスを受けられるのがメリットです。
7-4-3.市区町村の高齢者支援サービスを利用
共通の介護サービスの他に、独自の高齢者支援サービスを展開している市区町村もあります。
例えば、紙おむつの費用を一部助成していたり、専門の相談員による無料相談を設けていたりと、知っておくだけでもいざというときの精神的負担を和らげることができます。
8.親の介護は遺産相続に影響するのか?
親の介護の貢献度によっては、遺産相続に影響します。
介護に貢献することを法律では「寄与(きよ)」と呼びますが、遺産相続において「寄与分」を主張することで、相続分を多く取得できる可能性があります(遺言書がないケースのみ)。
寄与分とは、被相続人に特別に貢献した法定相続人に対して、他の法定相続人よりも相続分を増やすことができる制度のことです。
寄与分には特別に貢献した分野が定められており、親の介護は「医療看護」に該当します。
ただし、子供には高齢の親を扶養する義務があるため、親の介護をしたからといって、必ずしも寄与分が認められるとは限りません。
遺産相続における寄与分について、詳しくは「相続の寄与分とは。寄与分を主張できる例を紹介!証拠にできる書類は?」をご覧ください。
8-1.寄与分が認められた事例
重い老人性痴呆症を患った被相続人を、10年間にわたって介護した法定相続人に対して、1,213万円の寄与分が認められました(盛岡家庭裁判所/昭和61年4月11日審判)。
親の介護が寄与分と認められるためには、つきっきりで介護・看護をしていたことなどを、証明する必要があります。
8-2.寄与分が認められなかった事例
被相続人と同居していた法定相続人は、合計6回の入院(5回は1ヶ月程度、1回は2ヶ月程度)の世話をし、2週間に1回程度の通院付き添いをしました。
しかし同居親族の相互扶助の範囲を超えるものとは言えず、被相続人が特別にその財産の減少を逃れたとは認められないとして、寄与分は認められませんでした(大阪家庭裁判所堺支部/平成18年3月22日審判)。
つまり、日常生活の範囲内で食事の世話をしたり、週に数回病院に付き添いへ行ったりする程度の介護は「扶養義務の範囲」とみなされ、寄与分は認められません。
9.親の介護で不公平感を持ったときの対処法
遺産相続において、兄弟間の介護の分担に不公平感を持つケースもあります。
この章では、兄弟間で不公平感を持ったときの対処法についてご紹介しますので、参考にしてください。
9-1.相続発生後の対処法
相続発生後であれば、前章でご紹介した医療看護に係る「寄与分」を主張できます。
寄与分を主張するのは遺産分割協議の際となり、他の法定相続人全員が合意をすれば認められます。
仮に他の法定相続人が合意しない場合は、「寄与分を定める処分調停」で争うこととなり、家庭裁判所が合理的に認める・認めないを判断します。
9-2.相続発生前の対処法
相続発生前であれば、できる対処法がいくつかあります。
9-2-1.生命保険を活用
相続発生前にできる1つ目の対処法は、生命保険を活用することです。
生命保険金(生命保険金請求権)は受取人が決まっており、保険契約の効力発生と共に受取人の固有財産となるため、法定相続人同士で行う遺産分割協議の対象にはなりません(一定金額は相続税の課税対象)。
そのため、相続発生前に資産を生命保険にして、受取人を養護者にしておけば、養護者はまとまった金額を取得できます。
詳しくは「生命保険は遺産分割の対象外」で解説しているので、あわせてご覧ください。
9-2-2.生前贈与をしてもらう
相続発生前にできる2つ目の対処法は、生前贈与をしてもらうことです。
生前贈与が成立していれば、その贈与財産は遺産分割協議の対象にはなりません。
ただし、法定相続人への生前贈与分は、特別受益として相続財産に持ち戻した上で、遺産分割をすることもあります。
生前贈与が特別受益とみなされないための対策法もありますので、生前贈与を選択される方は予め知っておきましょう。
詳しくは「特別受益とは~特別受益の持ち戻しや具体的な計算例を解説」で解説しておりますので、あわせてご覧ください。
9-2-3.介護負担分を考慮した遺言書を作成してもらう
相続発生前にできる3つ目の対処法は、介護負担分を考慮した遺言書を、要介護者に作成してもらうことです。
生前に遺言書を作成した場合、相続人同士で遺産分割協議をすることなく、遺言書通りに遺産分割を行うこととなります。
つまり、介護負担分を考慮した分割内容を予め決めておけば、介護負担をした子供が寄与分を主張することなく、遺言書通りに遺産相続ができます。
ただし遺留分に配慮した上で分割方法を定め、さらに法的に有効な遺言書ではないと、遺言書そのものが無効になることもあります。
遺言書について、詳しくは「遺言書の書き方完全ガイド-遺言書の形式と内容に関する注意点を解説」をご覧ください。
10.親の介護放棄についての困りごとは一人で抱え込まないで
親の介護問題は親族間で争いになることが多く、一度こじれるとその後の関係性が悪くなることも少なくありません。
だからこそ、法律上の責任や手続についてあらかじめ学び、トラブルを未然に防ぐ努力が必要です。
また、家族の負担が減ることもあることを意識して、役所やケースワーカーなどの第三者に相談するなど、使える制度は積極的に利用することも大切です。
それでもなお争いになってしまった場合には、一人で抱え込まずに速やかに専門家に相談することをおすすめします。
10-1.チェスターグループにご相談を
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※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。
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