チェスター相続税実務研究所
個人・法人間で土地を使用貸借している場合の借地権課税について(論説紹介)
2024/09/19
この度、東京税理士会の会報誌「東京税理士会」の論壇コーナー(2024.9.1VolumeNo.812)に「借地権の課税実務からの疑問点-理解されにくい「個人・法人間で使用貸借している場合」の考え方-」(執筆者:渡邉定義税理士(東京税理士会麹町支部))と題する論説(以下「論説」といいます。)が寄稿されました。
論説は、過去の論説(注)とともに、借地権の課税実務上の問題について一石を投じると考えられます。
(注)吉本覚、小林栢弘著「当事者の一方が法人である場合の土地の使用貸借に係る相続税の課税関係について」(1)~(3)(国税速報第6502号、6510号、6512号、大蔵財務協会)
そこで、今回、この論説を引用しつつ、その問題の背景や論点等を紹介します。
1.論説が示す問題の所在(概要)
被相続人が所有する土地を同族会社に無償で使用させた場合(当該同族法人との間に権利金の授受はなく、会社の貸借対照表に借地権の計上はないことに加えて、土地の無償返還届出書(以下「無償返還届出書」といいます。)の提出もされていない場合)、借地権が移転したとみるか否かという問題があります。
これについては、例え一方が法人であるとしても、民法上は使用貸借であり、そのことが無償返還届出書の提出の有無によって、その使用貸借権の評価を左右しないから、当該法人に使用貸借している宅地は、自用地評価額で評価するとの意見(A説)、使用貸借に基づく土地の貸付けについては、法人税基本通達13-1-7の取り扱いにより、無償返還届出書の提出がない限り、貸付時の土地に係る借地権の認定課税を受けたことと取り扱われるから、実際に認定課税を受けたかどうかにかかわらず、法人に借地権が存するとして評価するとの意見(B説)とがありますが、法解釈上も実務上もA説を採用していると考えられます。
B説は、言い換えれば、法人と使用貸借をした土地は、税務署に無償返還届出書を提出しない限り、土地の賃貸借と扱う(通達により使用貸借を賃貸借に引き直すことができる)というもので、この考え方は、一般の取引慣行(使用貸借として契約したものは、使用貸借であって、賃貸借となることはない)とかけ離れ、課税実務上の取扱いとも異なると認められるところ、平成15年5月19日裁決及び平成16年9月19日裁決(以下「過去裁決」という。)に基づくものであるため、実務家の間では、両論ありきの如く論じられ、混乱を来している状況にあります。
2.論説が示す検討と結論(概要)
(1)検討
昭和55年改正後の法人税基本通達(以下「法基通」といいます。)は、法基通13-1-2及び13-1-3において「土地の借地権設定等」に土地の使用貸借の場合は含まれないことを明らかにした。
他方、昭和55年改正後の法基通13-1-7では、前段に「借地権の設定等」の場合の無償返還届出があるときの取扱いが、後段に「使用貸借により他人に土地を使用させた場合についても同様とする。」との取扱いが新設された。
この法基通13-1-7の新設経緯について、同通達の解説では「たとえ法人同士あるいは一方当事者とする借地権取引であるとはいえ、現実問題として土地の使用貸借がないとはいえないし、また、現にそのような事例も見受けられるところである。このような場合には、当事者としてもこれについて借地借家法の適用がないということを十分承知しているのであるし、税務上もその当事者の意図するところにしたがって課税関係を処理することが自然である。そこで、本通達(13-1-7)においては、法人の場合にも使用貸借があり得るという立場に立って、これについても当事者が税務署長に対して将来借地を返還する旨を届け出ることを条件に、同じく相当の地代に認定が行われるにとどめ、借地権利金の認定課税は行われないことが併せて明らかにされているのである。」と説明されている。
さらに、「この場合でも、土地の使用貸借について相当の地代の認定課税が行われるからといって、税務上当然土地の契約関係が賃貸借契約とみなされるわけではない。単に、土地の使用期間にわたり土地所有者が与えているフローの経済的利益(地代)を評価して、これが課税対象になるというものにすぎないことに留意しなければならない。」との説明が加えられている。
そして、無償返還届出書について、「これはあくまで、権利関係の明確化、権利関係の確認のためであり、届出書の有無は本来的には使用貸借であるのか賃貸借契約であるのかの設定はないし権利関係を左右しないものである。」と説明されている。
(2)論説のまとめ
以上のことから、現行の法基通は、土地の貸借に係る法人との取引にあっては、従来のような純経済人であることを前提として取引があると考えておらず、使用貸借もあり得るということを前提としており、それが無償返還届出書の有無によって左右されるものではない。
その貸借が使用貸借であるのか、賃貸借で借地権があるのかは、もっぱらその取引の経緯、内容や事実を正確に把握して、民法の規定に基づいて判断し、当該土地を評価することとなる。
あくまで、評価を行う場合の財産評価基本通達25が前提としているのは旧借地法や借地借家法の借地権であることに留意すべきである。
3.結び
個人・法人間で土地の使用貸借があった場合の取扱いについては、昭和55年当時の法基通の解説を踏まえ、A説が採用されるべきと思われますが、国税庁は、過去裁決に拘束されるため、国税庁が、表立ってA説による旨を明確に示すことは難しいようにも思えます。
しかしながら、この問題は課税上の影響が大きいため、国税庁が、今後、個人・法人間で土地の使用貸借があった場合の取扱いを明確に示されますことに期待します。
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