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相続税の名義預金と帰属認定について

2025/08/21

私の父は令和7年に亡くなり、現在、相続税申告のため、遺産の確認作業中です。
ところで、雑誌などでは「相続税申告書を作成する際は名義預金にご注意」などといった記事を度々目にしますが、一般の納税者からすると、何が名義預金なのか今一つ理解できません。
相続税の課税上、どういう預金が名義預金と判断され得るのでしょうか?

前提条件

  • 被相続人:甲(夫)
  • 相続人:乙(妻)、丙(長男)
  • 相続開始日:令和7年5月
  • 相続財産:不動産、有価証券、預貯金等

被相続人が口座開設等のための資金を拠出しており、その後の口座の管理・運用等などからも、被相続人の預金口座と認められるものは、名義にかかわらず、相続税の課税対象となります。

したがって、被相続人の財産と認められる預貯金口座で、被相続人名義以外のもの(例えば家族名義のもの)は名義預金と判断されることになります。

参考:国税庁「【誤りやすい事例 ⑥申告書第11表の付表3関係】 被相続人以外の名義の財産(預貯金)

〔イメージ図〕

解説

1.預金の帰属

被相続人が資金を拠出して親族名義の預金口座を開設し、その後の口座の管理・運用等なども被相続人が行っていた場合、被相続人が、実質的にその口座を所有している(被相続人に預金口座が帰属する)といえます。

このような口座を、一般的に「名義預金」口座と呼んでいます。

2.預金の帰属が争われた民事事件における判断

(1)定期預金

以下の最高裁判所の裁判例が参考となります。

無記名定期預金契約において、当該預金の出捐者が、自ら預入行為をした場合はもとより、他の者に金銭を交付し無記名定期預金をすることを依頼し、この者が預入行為をした場合であつても、預入行為者が右金銭を横領し自己の預金とする意図で無記名定期預金をしたなどの特段の事情の認められないかぎり、出捐者をもつて無記名定期預金の預金者と解すべきであることは、当裁判所の確定した判例であり(昭和二九年(オ)第四八五号同三二年一二月一九日第一小法廷判決・民集一一巻一三号二二七八頁、昭和三一年第(オ)三七号同三五年三月八日第三小法廷判決・裁判集民事四〇号一七七頁)、いまこれを変更する要はない。

引用:裁判所「最高裁昭和48年3月27日第三小法廷判決

したがって、定期預金の場合は、口座名義にかかわらず、預金の出捐者の検討が必要ということになります。

(2)普通預金

以下の最高裁判所の裁判例が参考となります。

金融機関である上告人との間で普通預金契約を締結して本件預金口座を開設したのは、訴外会社である。また、本件預金口座の名義である「F火災海上保険(株)代理店Y工業(株)A」が預金者として訴外会社ではなく被上告人を表示しているものとは認められないし、被上告人が訴外会社に上告人との間での普通預金契約締結の代理権を授与していた事情は、記録上全くうかがわれない。
そして、本件預金口座の通帳及び届出印は、訴外会社が保管しており、本件預金口座への入金及び本件預金口座からの払戻し事務を行っていたのは、訴外会社のみであるから、本件預金口座の管理者は、名実ともに訴外会社であるというべきである。
さらに、受任者が委任契約によって委任者から代理権を授与されている場合、受任者が受け取った物の所有権は当然に委任者に移転するが、金銭については、占有と所有とが結合しているため、金銭の所有権は常に金銭の受領者(占有者)である受任者に帰属し、受任者は同額の金銭を委任者に支払うべき義務を負うことになるにすぎない。そうすると、被上告人の代理人である訴外会社が保険契約者から収受した保険料の所有権はいったん訴外会社に帰属し、訴外会社は、同額の金銭を被上告人に送金する義務を負担することになるのであって、被上告人は、訴外会社が上告人から払戻しを受けた金銭の送金を受けることによって、初めて保険料に相当する金銭の所有権を取得するに至るというべきである。したがって、本件預金の原資は、訴外会社が所有していた金銭にほかならない。
したがって、【要旨】本件事実関係の下においては、本件預金債権は、被上告人にではなく、訴外会社に帰属するというべきである。

引用:裁判所「最高裁平成15年2月21日第二小法廷判決

したがって、普通預金の場合は、口座の開設者、口座の利用目的、通帳及び銀行印の管理者等の検討が必要ということになります。

3.預金の帰属が争われた相続税の課税事件における判断

(1)大阪高裁平成27年3月13日判決における判断(最高裁棄却確定)

大阪高裁は、「被相続人乙の子であるX(控訴人・原告)名義の本件各預金(本件各X名義預金)は、その原資がいずれも乙の出捐によるものであったことに当事者間に争いがなく、X自身も乙から贈与を受けてこれらを取得した旨主張することからすれば、もともと乙が自己の出捐によりXの名義を借りて開設し管理・運用していた乙の預金であったと認められ、Xは、本件各X名義預金について、賠償金として、乙から贈与を受けたと主張するが、主張を認めるに足りる証拠はないため、本件各X名義預金は、乙に帰属していた相続財産と認められる。」と判示、被相続人が、自己の出捐により子の名義を借りて口座を開設し、被相続人が管理・運用していたことを前提に、被相続人の名義預金として認定しました。
(参考:国税庁「税務訴訟資料 第265号-44(順号12627)」)

(2)東京地裁平成20年10月17日判決における判断(東京高裁棄却確定)

被相続人以外の者の名義である財産が相続開始時において被相続人に帰属するものであったか否かは、当該財産又はその購入原資の出捐者、当該財産の管理及び運用の状況、当該財産から生ずる利益の帰属者、被相続人と当該財産の名義人並びに当該財産の管理及び運用をする者との関係、当該財産の名義人がその名義を有することになった経緯等を総合考慮して判断するのが相当である。

引用:国税庁「税務訴訟資料 第258号-195(順号11053)」)

東京地裁は、上記のように判示、預金口座の出捐者、口座の管理及び運用者、口座から生ずる利益の帰属者、被相続人と当該財産の名義人との関係、口座名義を有することになった経緯等を総合考慮して、被相続人の名義預金として認定しました。

4.相続税の課税における名義預金の判断基準(上記裁判例等から導かれるもの)

相続税の課税上も、預金の帰属が争われた民事事件における最高裁の判断は重視すべきであり、特に定期預金については、最高裁が示した、口座名義にかかわらず、預金の出捐者が預金者であるとの認定基準は、定期預金の帰属認定における必須事項といえます。

また、相続税の課税事件においては、預金口座の出捐者、口座の管理及び運用者、口座から生ずる利益の帰属者、被相続人と当該財産の名義人との関係、口座名義を有することになった経緯等を総合考慮するとの判断が示されており、また、国税当局(課税実務)も、預金の帰属認定においては、この総合考慮的判断を一種の規範として用いているように思えます。

したがって、相続税の申告に当たっては、上記の総合考慮的判断に基づき、預金の帰属認定を行うことが相当と考えます。

5.まとめ

相続税申告のための財産確認を行う場合、預金口座の出捐者、口座の管理及び運用者、口座から生ずる利益の帰属者、被相続人と当該財産の名義人との関係、口座名義を有することになった経緯等を総合考慮して預貯金の帰属判断を行うことが、税務調査を受けにくい相続税申告につながると考えます。

税理士法人チェスターは、すべての申告において税務調査軽減につなげる目的で書面添付制度を導入しており、名義預金の帰属に係る税務調査リスク回避にも努めております。

参考

▼名義預金の帰属についての参考裁決事例

裁決年月日審判所支部裁決結果裁決要旨

H12.02.04

仙台

一部取消

請求人が相続開始日の1ケ月後に解約した被相続人名義の定期預金は、請求人の給与収入の一部から認定され、請求人とその家族名義預金を被相続人名義に一本化したものであり、相続財産ではない旨主張するが、請求人の給与収入から設定された事実は認められず、かつ、被相続人が相続直前まで管理していたこと及び届出印鑑も被相続人が管理していた他の預金の印鑑と同じである事実が認められることから、被相続人に帰属する預金と認められ、当該預金を相続財産とした原処分は相当である。

H18.08.14

東京

一部取消

請求人らは、Aとの遺留分減殺請求による遺産分割調停において、Aが、A名義である社債、証券投資信託及び預貯金等(以下「本件名義財産」という。)のうちA名義の貯金(以下「A名義貯金」という。)以外の本件名義財産(以下「A名義預金等」という。)については、被相続人から贈与されたものであると主張していたことから、当該調停の経緯及び成立を根拠として、本件名義財産は、被相続人の相続財産ではない旨主張する。
しかしながら、A名義預金等は、被相続人の資金を基に蓄積されたものであり、A自身が被相続人から贈与を受けていないと認められる答述及び申述をしており、当審判所の調査によっても贈与があったとする客観的な事実は見出せないから、A名義預金等は、被相続人から贈与を受けたものではないと認められる。
したがって、請求人らのA名義預金等についてAが被相続人から贈与されたものであるとの主張には理由がない。
次に、A名義貯金は、当審判所の調査によれば、A名義貯金に係る口座にはAを受取人とする郵便年金のみ入金されていることから、Aの固有財産であるものと認められる。したがって、請求人らのA名義貯金についてはAの固有財産であるとの主張には理由がある。
以上により、請求人らの納付すべき税額を計算すると、原処分額を下回ることから、原処分はその一部を取り消すのが相当である。

H26.08.19

東京

一部取消

原処分庁は、請求人が、原処分庁所属の調査担当職員(本件調査担当職員)に対して、被相続人の孫(B)名義の預金(本件B名義預金)の原資は、本件B名義預金とは別のB名義の預金(本件旧B名義預金)の解約金である旨申述したことを前提に、本件旧B名義預金の出捐者は被相続人であり、また、本件旧B名義預金が被相続人の妻(亡妻)からBに贈与されたことを裏付ける証拠は見当たらないから、本件旧B名義預金を原資として設定した本件B名義預金が被相続人に帰属する相続財産である旨主張する。
しかしながら、①本件B名義預金が設定される前にB名義の預金が設定された記録はないことからすると、原処分庁が本件B名義預金の原資であると主張する本件旧B名義預金については、その存在を認めることはできず、②本件B名義預金の設定時のBの年齢及び本件B名義預金の預入申込書の記載からすると、本件B名義預金の預入れの申込みをしたのは、B本人ではなく代理人であると認められるが、その代理人が誰であるかについては不明といわざるを得ず、また、本件B名義預金の原資については、被相続人の現金である旨のBの父親(請求人の弟)の答述はあるが、当該原資である現金の存在を裏付ける証拠は見当たらず、当該答述のみをもって直ちに本件B名義預金の原資が被相続人の現金であると認定することもできず、③原処分庁は、ほかに本件B名義預金が被相続人に帰属する相続財産である旨の証拠を提出せず、また、当審判所の調査の結果によっても、本件B名義預金が被相続人に帰属する相続財産であることを認めるに足りる証拠はない。
したがって、本件B名義預金については、被相続人の相続財産であると認めることはできない

H26.08.19

東京

一部取消

請求人は、被相続人の孫(A)名義の預金(本件A名義預金)は、被相続人の妻(亡妻)が、平成12年に、亡妻の特有財産の一部を原資として、自ら手続をして作成したものであり、この作成時点で、亡妻のAに対する本件A名義預金の贈与の意思は明確であるところ、亡妻は、作成した日から平成13年7月初旬までの間の某日に、請求人に対して、Aが成人するまでの間、本件A名義預金の証書を管理するよう委託し、当該証書を交付したものであり、このときに本件A名義預金は亡妻からAに贈与されていたものである旨、また、Aの親権者である請求人の弟が平成21年に本件A名義預金に係る証書の再発行手続等を行ったことは、亡妻からの贈与について、請求人による無権代理行為(本件A名義預金に係る受贈の意思表示)を追認したものである旨主張する。
しかしながら、本件A名義預金は、亡妻により設定されたものと認められるところ、本件A名義預金の預入資金の出捐者は被相続人であると認められ、また、本件A名義預金が名義人であるAに対して贈与された事実も認められないから、本件A名義預金は、被相続人に帰属する相続財産であると認めるのが相当である。
なお、請求人の主張については、そもそも、届出印を併せて交付することなく預金証書のみを交付しただけでは、当該証書に係る貯金に係る管理・支配が完全に移転したとはいい難いから、仮に亡妻が請求人に本件A名義預金の証書の管理を委託し、これを交付したとしても、このことのみをもって亡妻がAに対する贈与の意思表示をしたということはできず、また、本件A名義預金の証書の再発行手続等が追認の意思表示であるともいい難いことから、理由がない。

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