チェスター相続税実務研究所
上場株式の評価方法について(株式の割当等の基準日が相続開始の日と同じ日であった場合)
2025/09/02
上場会社であるA社の株式を保有していた父が亡くなりました。
A社は、父の相続が開始した日と同じ日に、株式の割当等の基準日を設定しており、また、その日は日曜日で「課税時期に最終価格がない場合」に該当します。
この場合におけるA社株式の評価上、課税時期の最終価格はどの価格を用いれば良いでしょうか?
前提条件
- 被相続人:甲
- 相続人:乙(子)
- 相続開始年月日:令和7年8月31日(日)
- 被相続人が所有するA社(上場会社)株式:10,000株
- A社の株式の割当等の基準日:令和7年8月31日(日)
- A社の権利落ち等の日及びその日の最終価格:令和7年8月30日、75円
- A社の権利落等の日の前日及びその日の最終価格:令和7年8月29日、100円
〔イメージ〕

権利落等の日の前日以前の最終価格のうち、課税時期に最も近い日の最終価格を用いていただくこととなりますので、令和7年8月29日の最終価格である100円を用いていただくことになります。
解説
相続開始の日(課税時期)が、権利落ち又は配当落ち(以下「権利落等」といいます。)(※1)の日から株式の割当て、株式の無償交付又は配当金交付(以下「株式の割当等」といいます。)の基準日(※2)までの間にあるときは、その権利落等の日の前日以前の最終価格のうち、課税時期に最も近い日の最終価格をもって課税時期の最終価格とすることとなります(評基通170)。
(※1)権利落ち、配当落ち(けんりおち、はいとうおち)
意味:株式分割・配当などを受ける権利がなくなること。
解説:配当は、権利確定日(決算日と同一日が多い)時点で株主名簿に登録されている株主に対して支払われるので、権利確定日を過ぎてから株主名簿に登録された株主はその期は配当を受け取ることができません。
株式の発行会社が定めている権利確定日の2営業日前が「権利付最終日」、1営業日前が「権利落ち日」となります。
権利落ち日には、理論的には新株や配当などに相当する金額分、株価が安くなりますが、株価はほかの変動要因にも左右されるため、権利落ち後の株価が理論値よりも高くなったりすることがあります。
引用:日本証券業協会「権利落ち、配当落ち(けんりおち、はいとうおち)」
(※2)会社法(抄)
(基準日)
第百二十四条 株式会社は、一定の日(以下この章において「基準日」という。)を定めて、基準日において株主名簿に記載され、又は記録されている株主(以下この条において「基準日株主」という。)をその権利を行使することができる者と定めることができる。
また、課税時期に最終価格がない場合の評価方法について定めた財産評価基本通達171には、前項の定めの適用があるものを除きとありますので、本件の場合は財産評価基本通達170の適用が優先されます。
なお、本件の場合、財産評価基本通達170の注書に「上記に該当する上場株式の最終価格の月平均額については、172≪上場株式についての最終価格の月平均額の特例≫の定めがあることに留意を要する。」とありますので、財産評価基本通達172についてもご検討が必要となりますので、ご注意ください。
根拠法令等
財産評価基本通達(抜粋)
(上場株式についての最終価格の特例-課税時期が権利落等の日から株式の割当て等の基準日までの間にある場合)
170 前項の定めにより上場株式の価額を評価する場合において、課税時期が権利落又は配当落(以下「権利落等」という。)の日から株式の割当て、株式の無償交付又は配当金交付(以下「株式の割当て等」という。)の基準日までの間にあるときは、その権利落等の日の前日以前の最終価格のうち、課税時期に最も近い日の最終価格をもって課税時期の最終価格とする。課税時期の最終価格=100円(75円は、権利落等の後の最終価格なので採用しない。)
(注)上記に該当する上場株式の最終価格の月平均額については、172≪上場株式についての最終価格の月平均額の特例≫の定めがあることに留意を要する。 ※評価通達172に注意
(上場株式についての最終価格の特例-課税時期に最終価格がない場合)
171 169≪上場株式の評価≫の定めにより上場株式の価額を評価する場合において、課税時期に最終価格がないものについては、前項の定めの適用があるものを除き、次に掲げる場合に応じ、それぞれ次に掲げる最終価格をもって課税時期の最終価格とする。 ※評価通達170が優先(上場株式についての最終価格の月平均額の特例)
172 169≪上場株式の評価≫の定めにより上場株式の価額を評価する場合において、課税時期の属する月以前3か月間に権利落等がある場合における最終価格の月平均額は次によるものとする。(1)課税時期が株式の割当て等の基準日以前である場合におけるその権利落等の日が属する月の最終価格の月平均額は、次の(2)に該当するものを除き、その月の初日からその権利落等の日の前日(配当落の場合にあっては、その月の末日)までの毎日の最終価格の平均額とする。
なお、これを図により例示すれば、次のようになる。
最終価格の月平均額=権利落の場合は100円、配当落の場合は95円
※赤字部分、下線等は筆者による
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