チェスター相続税実務研究所
小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)の適用可否について⑤
2025/09/11
「1〜2階」(貸付用)と「3〜5階」(居住用)とに分けて区分所有登記されている建物について、建物の3階に被相続人が、4〜5階に長男家族が居住していた場合、3〜5階の建物の敷地が特定居住用宅地等(同居親族)に該当するとして、小規模宅地等の特例を適用することは可能ですか?
前提条件
- 被相続人:甲(父)
- 相続開始日:R7.5
- 相続人:長男(1名)
- 対象不動産:A市所在の被相続人所有の建物及びその敷地
- 登記:対象不動産(建物)は、平成7年新築時は「1〜3階」と「4〜5階」に分けて区分所有登記されていたが、令和2年に「1〜2階」(貸付用)と「3〜5階」(居住用)とに区分所有登記を変更
- 3〜5階の建物の構造:「3階」部分と「4〜5階」部分は玄関が別で、行き来できない構造
- 3〜5階の使用状況:3階は被相続人が居住、4〜5階は長男家族が居住
- 対象不動産は長男がすべて相続し、相続税の法定申告期限まで所有、居住を継続する
〔イメージ〕

他の要件を満たす前提ですが、長男家族は、被相続人の居住の用に供されていた1棟の建物に居住していたと認められますので、3〜5階の建物の敷地が特定居住用宅地等(同居親族)に該当するとして小規模宅地等の特例を適用することが可能と考えます。
解説
1.小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)
(1) 特定居住用宅地等の要件(措法69の4①、③、措令40の2④、⑬)
特定居住用宅地等は、個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続若しくは遺贈に係る被相続人の居住の用に供されていた宅地等で建物の敷地の用に供されているもののうち、相続の開始の直前において、当該被相続人の居住の用に供されていた宅地等のうちに当該被相続人の居住の用以外の用に供されていた部分があるときは、当該被相続人居住の用に供されていた部分に限るとされています。
ただし、当該居住の用に供されていた部分が、被相続人の居住の用に供されていた1棟の建物(建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物を除く。)に係るものである場合には、当該1棟の建物の敷地の用に供されていた宅地等のうち当該被相続人の親族の居住の用に供されていた部分も含めて特定居住用宅地等に該当することになります。
(2) 特定居住用宅地等から除かれる建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物
特定居住用宅地等からは、「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物を除く」とされていますが、これは、被相続人の居住の用に供されていた1棟の建物が建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物である場合には、当該被相続人の居住の用に供されていた区分所有登記された建物部分のみが特定居住用宅地等に該当する趣旨と考えられます(措令40の2⑬)。
2.本件への当てはめ
被相続人の居住の用に供されていた本件建物は、建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物に該当します。
ただし、被相続人の居住の用に供されていた区分所有登記された建物は、3~5階部分を一体のものとして区分所有登記がなされておりますので、被相続人の居住の用に供されていた区分所有登記された建物とは、この3~5階部分全体を指すと考えられます。
そうすると、被相続人は、この3~5階からなる建物に居住しておりましたので、この建物の4~5階に居住していた長男家族は、措令40条の2第13項に規定する「当該被相続人の居住の用に供されていた部分」に同居していたと判断し得ることになります。
根拠法令等
租税特別措置法(抄)
(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
第六十九条の四 個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続若しくは遺贈に係る被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族(第三項において「被相続人等」という。)の事業(事業に準ずるものとして政令で定めるものを含む。同項において同じ。)の用又は居住の用(居住の用に供することができない事由として政令で定める事由により相続の開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていなかつた場合(政令で定める用途に供されている場合を除く。)における当該事由により居住の用に供されなくなる直前の当該被相続人の居住の用を含む。同項第二号において同じ。)に供されていた宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいう。同項及び次条第五項において同じ。)で財務省令で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもののうち政令で定めるもの(特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、特定同族会社事業用宅地等及び貸付事業用宅地等に限る。以下この条において「特例対象宅地等」という。)がある場合には、当該相続又は遺贈により財産を取得した者に係る全ての特例対象宅地等のうち、当該個人が取得をした特例対象宅地等又はその一部でこの項の規定の適用を受けるものとして政令で定めるところにより選択をしたもの(以下この項及び次項において「選択特例対象宅地等」という。)については、限度面積要件を満たす場合の当該選択特例対象宅地等(以下この項において「小規模宅地等」という。)に限り、相続税法第十一条の二に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該小規模宅地等の価額に次の各号に掲げる小規模宅地等の区分に応じ当該各号に定める割合を乗じて計算した金額とする。(中略)
3 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一(省略)
二 特定居住用宅地等 被相続人等の居住の用に供されていた宅地等(当該宅地等が二以上ある場合には、政令で定める宅地等に限る。)で、当該被相続人の配偶者又は次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該被相続人の配偶者を除く。以下この号において同じ。)が相続又は遺贈により取得したもの(政令で定める部分に限る。)をいう。
イ 当該親族が相続開始の直前において当該宅地等の上に存する当該被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物(当該被相続人、当該被相続人の配偶者又は当該親族の居住の用に供されていた部分として政令で定める部分に限る。)に居住していた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該建物に居住していること。
(以下省略)
※下線等は筆者による
租税特別措置法施行令(抄)
(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
措令40条の2 1~3(省略)4 法第六十九条の四第一項に規定する被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等のうち政令で定めるものは、相続の開始の直前において、当該被相続人等の同項に規定する事業の用又は居住の用(同項に規定する居住の用をいう。以下この条において同じ。)に供されていた宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいう。以下この条において同じ。)のうち所得税法第二条第一項第十六号に規定する棚卸資産(これに準ずるものとして財務省令で定めるものを含む。)に該当しない宅地等とし、これらの宅地等のうちに当該被相続人等の法第六十九条の四第一項に規定する事業の用及び居住の用以外の用に供されていた部分があるときは、当該被相続人等の同項に規定する事業の用又は居住の用に供されていた部分(当該居住の用に供されていた部分が被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物(建物の区分所有等に関する法律第一条の規定に該当する建物を除く。)に係るものである場合には、当該一棟の建物の敷地の用に供されていた宅地等のうち当該被相続人の親族の居住の用に供されていた部分を含む。)に限るものとする。
(中略)
13 法第六十九条の四第三項第二号イに規定する政令で定める部分は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める部分とする。
一 被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物が建物の区分所有等に関する法律第一条の規定に該当する建物である場合 当該被相続人の居住の用に供されていた部分
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人又は当該被相続人の親族の居住の用に供されていた部分
(以下省略)
※下線等は筆者による
建物の区分所有等に関する法律(抄)
(建物の区分所有)
第一条 一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。
※記事の内容はすべて執筆時点の法令に従っております。なお、当該記事の内容を利用して発生した損害等に関して、税理士法人チェスターは一切の責任を負いかねます。
※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。