チェスター相続税実務研究所
相続税の課税処分や重加算税の賦課に納得がいかない場合
2025/11/04
この度、私の父(令和5年死亡)の相続税申告について税務調査を受け、税務署から、母名義の定期預金(1,500万円)が被相続人に帰属する申告漏れ財産である旨の指摘と、その申告漏れにつき重加算税を賦課するとの調査結果の説明、修正申告の勧奨が行われました。
税務署は、調査結果の説明根拠として、就業経験のない母(無職)名義の預貯金が3,000万円と多額である点を指摘しました。
また、母が税務署の担当者に対し、
・実家から相続や贈与を受けたことはない
・夫から生前贈与を受けたこともない
・預貯金は結婚後50年の間に「へそくり」としてコツコツ貯めてきた自分のものである
と証言した内容に基づくものと説明しました。
母と私は、母がこつこつ貯めてきた定期預金(1,500万円)を父の相続財産と認定した上、重加算税まで賦課するとの税務署の説明に納得がいきません。
このような場合、どうしたら良いのでしょうか?
調査結果の説明に納得がいかない場合には、修正申告を行うことなく、税務署の課税処分(更正処分及び重加算税の賦課決定処分)を待って、審査請求(不服申立て)を行うことをお勧めします。
審査請求が行われた場合、中立的な機関である国税不服審判所は、納税者側の主張を十分に聞いた上で、課税処分が適正か否か(国税側が証拠に基づき課税要件等の立証できているか否か)を判断することになります。
【解説】
1.相続税における家族名義預金の帰属認定のための要件
税務署が、家族名義預金の帰属認定を行う場合、過去の裁判例(ex.東京地裁平成20年10月17日判決(東京高裁棄却確定)等)を踏まえ、次の点を総合考慮していると考えます。
- 被相続人がその預金の原資を拠出したか否か
- 被相続人がその預金口座を開設したか否か
- 被相続人が名義を借用することが容易か否か
- 被相続人がその口座の管理・運用を行っていたか否か
- 被相続人が預金の預入資金や利息を自らのために使ったか否か
なお、上記の考慮事項は、あくまでも総合考慮すべき事項ですので、たまたま該当するものが1つあったからといって、その1つのみで帰属認定を行うことはできません。
2.重加算税の賦課要件(国税通則法68①)
- (1)原則的な要件(仮装、隠蔽の行為と認定可能な積極的行為がある場合)
- 過少申告加算税が適用される場合に該当すること
- 納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装したこと
- その隠蔽したこと、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたこと
- (2)例外的な要件(殊更過少な重加算税の賦課要件:最高裁H7.4.28判決)
- 過少申告加算税が適用される場合に該当すること
- 納税者が、当初から相続税を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたこと
- その意図に基づき納税申告書を提出したこと
〔参考〕
国税通則法第68条第1項(抜粋)
第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(略)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(略)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。
引用:e-GOV法令検索「国税通則法 第六十八条」
最高裁平成7年4月28日判決(ただし、所得税)
上告人は、当初から所得を過少に申告することを意図した上、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものであるから、その意図に基づいて上告人のした本件の過少申告行為は、国税通則法六八条一項所定の重加算税の賦課要件を満たすものというべきである。
引用:最高裁判所「最高裁平成7年4月28日判決」
※以下、この最高裁が示した規範を「殊更過少な重加算税の賦課要件」といいます。
3.審査請求(不服申立て)を行って争うか否かの見極めのポイント
(1)課税処分(名義預金の帰属認定)について
上記1.の総合考慮事項のうち、最も重要と考えられるのは「被相続人がその預金の原資を拠出したか否か」です。
そうすると、被相続人の資金(お金)が名義口座に預け入れられたことを明らかにした上で、初めて帰属認定の問題が生じ得ますので、税務署が、その点も明らかにせずに帰属認定を行うことはできません。
したがって、税務署が、被相続人がその預金の原資を拠出したことを立証できたか否かが、審査請求(不服申立て)を行って争うか否かの見極めのポイントとります。
(2)重加算税の賦課決定処分(名義預金の帰属認定の場合)について
税務署が、名義預金の帰属認定を行った事案について、重加算税を賦課できるのは、「例外的な要件(殊更過少な重加算税の賦課要件)」に当てはまる場合のみと考えます。
その理由は、税務署が帰属を認定する場合、通常、納税者において仮装や隠蔽と認定し得る積極的な行為が行われていないからです。
したがって、例えば、次のような点を税務署が立証できたか否かが、審査請求(不服申立て)を行って争うか否かの見極めのポイントとなります。
- ① 相続人が、法定申告期限前に、名義預金が被相続人に帰属する財産と認識していた
- ② 相続人が、法定申告期限前に、名義預金であることを隠そうとした
- ③ 相続人が、①及び②を前提として相続税申告書を提出した
- ④ 相続人が、調査時に、他の相続人、調査担当者、税理士等に対し、名義預金について虚偽(「知らない」を含む)の答弁をした
〔イメージ〕

4.まとめ
税務調査が行われた場合、税務署の調査結果の説明に納得がいかない場合には、税務署の更正処分等を待って、審査請求(不服申立て)を行うことを検討すべきと考えます。
ちなみに、何故、再調査の請求ではなく、審査請求かというと、再調査の請求を行った場合、税務署は、再調査の請求において不足する証拠を補完収集することが可能となるからです。
審査請求(不服申立て)を行うに当たっては、例えば、上記の名義預金の帰属認定においては、税務署がどのような証拠に基づき判断したかを見極める必要があります。
税理士法人チェスターは、すべての申告において税務調査リスク回避につながる相続税申告書の作成に努めるとともに、税務調査が行われた場合には、税務署の対応を正確に見極めた適切な対応を心掛けております。
相続税申告は税理士法人チェスターにご相談ください。
※記事の内容はすべて執筆時点の法令に従っております。なお、当該記事の内容を利用して発生した損害等に関して、税理士法人チェスターは一切の責任を負いかねます。
※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。