チェスター相続税実務研究所
コインパーキングと月極駐車場を併設する土地の評価上の注意点
2025/11/11
私の父A(以下「被相続人」)は、令和6年4月に亡くなりました。
被相続人は、所有する一筆の宅地(市街化区域内に所在)の一部について、駐車場運営会社(第三者、以下「賃借人」)に貸付け(賃借人がコインパーキングを運営)、残りの部分について、被相続人が、自ら月極駐車場として貸し付けていました。
相続税の申告上、この一筆の土地を評価するに当たり、注意すべき点を教えてください。
前提条件
- 被相続人:A(父)
- 相続人:長男
- 相続開始日:R6.4
- 一筆の土地は全体がアスファルト敷(被相続人が設置)
- コインパーキングの設備は賃貸人が設置
【一筆の土地の使用状況】

駐車場は雑種地に区分されます。
一筆の土地の中にコインパーキング部分(第三者へ賃貸、賃借人がコインパーキングの設備を設置)と月極駐車場部分(自ら貸付け)がある場合、これらは、いずれも雑種地に該当するものの、相続税の評価上は、これらを異なる画地として区分し、それぞれ評価することになります。
【コインパーキング部分の評価】
コインパーキング部分は、賃借人に土地を賃貸し、賃借した土地の上にコインパーキングの設備を設置してコインパーキング事業を営むことを認めるものですから、賃借人の賃借権が及んでいると考えられますので、賃借権の価額を控除して評価します。
【月極駐車場部分の評価】
月極駐車場は、自動車を一定期間保管することを引き受けるもので、賃借人の賃借権が及ぶとは認められませんので、自用地として評価します(賃借権の価額を控除することはできません。)。
解説
1.評価単位(画地)の区分方法
土地の価額は、原則として地目の別に評価し(評基通7)、雑種地は、利用の単位となっている一団の雑種地(同一の目的に供されている雑種地をいう。)を評価単位とすることとされています(評基通7-2)。
2.雑種地の評価
雑種地の価額は、原則として、その雑種地と状況が類似する付近の土地についてこの通達の定めるところにより評価した1平方メートル当たりの価額を基とし、その土地とその雑種地との位置、形状等の条件の差を考慮して評定した価額に、その雑種地の地積を乗じて計算した金額によって評価する。
引用:国税庁「評基通82」
また、賃借権の目的となっている雑種地の価額は、原則として、財産評価基本通達82≪雑種地の評価≫から84≪鉄軌道用地の評価≫までの定めにより評価した雑種地の価額(以下この節において「自用地としての価額」という。)から、87≪賃借権の評価≫の定めにより評価したその賃借権の価額を控除した金額によって評価する。
引用:国税庁「評基通86」
したがって、他者の権利(賃借権)が存在するコインパーキング部分と、そうした権利が存在しない月極駐車場部分は、異なる評価単位(画地)として評価することになります。
3. 各部分の評価(賃借権の価額の控除の可否)
(1) コインパーキング部分
コインパーキング部分の面積は、「駐車場用地賃貸借契約書」などから貸付面積を特定します。
特定した部分は、契約に基づき、賃借人に対し、土地を賃貸し、コインパーキングの設備(構築物)を設置させ、コインパーキング事業を営むことを認めるもので、宅地の所有者による自由な使用収益を制約するといえます。
したがって、この部分には、賃借権が及ぶと考えられますので、財産評価基本通達に基づく画地調整(※1)を行った上で、賃借権の価額(※2)を控除して評価することになります。
(※1)路線価方式が適用される場合に財産評価基本通達15((奥行価格補正))から20-7((容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価))までの定めを適用して行う調整をいいます(評基通13)。
(※2)賃借権の価額は、次の区分に応じたそれぞれの価額によります。
(1)地上権に準ずる権利として評価することが相当と認められる賃借権(例えば、賃借権の登記がされているもの、設定の対価として権利金や一時金の支払のあるもの、堅固な構築物の所有を目的とするものなどが該当します。)
自用地としての価額×賃借権の残存期間に応じその賃借権が地上権であるとした場合の法定地上権割合または借地権であるとした場合の借地権割合のいずれか低い割合
(注1)「法定地上権割合」は、相続税法第23条に規定する割合です。
(注2)自用地としての価額に乗ずる割合が、次の割合を下回る場合には、自用地としての価額に次の割合を乗じて計算した金額が賃借権の価額となります。
(1)の場合の自用地としての価額に乗じる割合の表 賃借権の残存期間 5年以下 5年超
10年以下10年超
15年以下15年超 割合 5% 10% 15% 20% (2)(1)に掲げる賃借権以外の賃借権
自用地としての価額 × 賃借権の残存期間に応じその賃借権が地上権であるとした場合の法定地上権割合の2分の1に相当する割合
(注1)「法定地上権割合」は、相続税法第23条に規定する割合です。
(注2)自用地としての価額に乗ずる割合が、次の割合を下回る場合には、自用地としての価額に次の割合を乗じて計算した金額が賃借権の価額となります。
(2)の場合の自用地としての価額に乗じる割合の表 賃借権の残存期間 5年以下 5年超
10年以下10年超
15年以下15年超 割合 2.5% 5% 7.5% 10% (参考)駐車場の自用地としての価額の評価の仕方
駐車場として利用している土地は、現況により、ほとんどの場合、雑種地として評価することとなります。雑種地の価額は、その雑種地と状況が類似する付近の土地について評価した1平方メートル当たりの価額を基とし、その土地とその雑種地との位置、形状等の条件の差を考慮して評定した価額に、その雑種地の地積を乗じて計算した金額によって評価します。
引用:国税庁「No.4627 貸駐車場として利用している土地の評価」
(2) 月極駐車場部分
月極駐車場部分の面積は、土地の全体面積から、上記(1)のコインパーキング部分の面積を差し引いて算出します。
月極駐車場は、その土地で一定の期間、自動車を保管することを引き受けるものであり、このような自動車を保管することを目的とする契約は、土地の利用そのものを目的とした賃貸借契約とは本質的に異なる契約関係と整理されており、この場合の駐車場の利用権は、その契約期間に関係なく、その土地自体に及ぶものではないと考えられます。
(参考:国税庁「No.4627 貸駐車場として利用している土地の評価」)
したがって、土地の所有者が、自らその土地を月極め等の貸駐車場として利用している場合には、その土地の自用地としての価額により評価することになります。
(参考:国税庁「貸駐車場として利用している土地の評価」)
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