チェスター相続税実務研究所
国外転出(相続)時課税について
2025/12/15
私の父は令和7年8月に亡くなりました。相続人は子が3名で、そのうちの1人はアメリカに居住しています。
父は、非上場会社を経営しており、会社の業績も良かったので、亡くなる前年に株価を試算したところ、父が保有する株式の相続税評価額は約1億5千万円と算出されました。
相続人の1人がアメリカに居住していた場合で、父が保有する非上場株式の時価が1億円を超えるときは、国外転出(相続)時課税の対象となるので、父の準確定申告に計上する必要があると聞きました。
父の会社の株式は、後を継ぐ予定の長男(日本居住)がすべて相続し、その他の不動産や預金を長男以外の子(2名)が相続することが決まっておりますが、アメリカに居住する子の一時帰国を待って遺産分割協議を行う予定です。
アメリカに居住する相続人は、非上場株式を一切相続する予定がないのですが、そのような場合においても国外転出(相続)時課税が適用されるのでしょうか。
▼イメージ図

お父様は、相続開始の時点で1億円以上の非上場株式を所有しており、遺産分割協議が未だ行われていないとのことですので、このような場合、アメリカに居住するお子様(相続人)が、当該非上場株式(未分割)の法定相続分相当を取得したとみなされます。
その結果、お父様が、相続開始時に非上場株式を譲渡等したとみなされ、その含み益に対し、国外転出(相続)時課税が課税されることになります(お父様の準確定申告において申告していただく必要があります。)。
解説
国税庁「国外転出時課税制度(FAQ)」を参考に解説します。
1. 国外転出(相続)時課税とは
国外転出(相続)時課税とは、相続開始の時点で1億円以上の有価証券や未決済の信用取引などの対象資産を所有等している一定の居住者が亡くなった際に適用される制度です。
この制度では、その相続又は遺贈(死因贈与を含みます。)により国外に居住する受贈者、相続人又は受遺者(以下「非居住者である相続人等」といいます。)が対象資産の全部又は一部(以下「相続対象資産」といいます。)を取得した場合は、その相続対象資産について譲渡等があったものとみなされます。
その結果、相続対象資産の含み益に対して被相続人に所得税が課税される仕組みになっています。
2. 国外転出(相続)時課税の対象者
次の⑴及び⑵のいずれにも該当する居住者が亡くなった場合に、その相続又は遺贈により非居住者である相続人等が相続対象資産を取得したときは、国外転出(相続)時課税の対象となります(所法60の3⑤)。
- ⑴ 相続開始の時に所有等している対象資産の価額の合計額が1億円以上であること
- ⑵ 原則として相続開始の日前10年以内において、国内在住期間が5年を超えていること
引用:国税庁「国外転出時課税制度(FAQ)」
3. 国外転出(相続)時課税の申告期限
相続人等は、相続開始があったことを知った日の翌日から4か月を経過した日の前日までに、被相続人が死亡した年中の被相続人の各種所得に国外転出(相続)時課税の適用による所得を含めて被相続人の準確定申告書の提出及び納税をする必要があります(所法60の3①~③、125①、129)。
4. 国外転出(相続)時課税の申告期限までに遺産分割が確定していない場合
国外転出(相続)時課税の申告期限までに遺産分割が確定していない場合、相続人等は、民法の規定による相続分の割合に従って、非居住者である相続人等に相続対象資産の移転があったものとして国外転出(相続)時課税の準確定申告をすることになります。
なお、遺産分割が確定したことにより、非居住者である相続人等が取得する相続対象資産が相続分の割合に従って申告した内容と異なることとなった場合には、その遺産分割が確定した日から4か月以内に、その国外転出(相続)時課税の適用を受けた年分の所得税の税額が増加するときには修正申告書を提出し、税額が減少するときには更正の請求をすることになります(所法151の6①、153の5)。
まとめ
今回のようなケースでは、お父様が生前に国外転出(相続)時課税対策として遺言書を作成する方法や、お父様の相続開始後、準確定申告書の提出期限までに非上場株式のみ先んじて遺産分割協議を行う方法など、国外転出(相続)時課税の課税を回避する余地があったと考えます。
税理士法人チェスターでは、お客様に応じた生前対策プランをご提案できますので、相続税や国外転出時課税についてご心配な方は、税理士法人チェスターにご相談いただくことをご検討ください。
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