チェスター相続税実務研究所
相続開始直前に新築したアパートの評価
2025/11/26
相続開始直前に新築した賃貸アパート(相続開始日時点で固定資産税評価額が未付与、以下「本件アパート」)について、どのように評価すれば良いでしょうか。
また、その場合に、借家権割合を控除することは可能でしょうか。
前提条件
- 相続開始日:令和6年6月○日(被相続人は、本件アパートの完成引渡しの後、1ヶ月も経たずに、急な病状悪化により亡くなった。)
- 被相続人の所有財産:賃貸アパート3棟、立体駐車場2ヵ所を所有し、被相続人は以前から不動産賃貸業を継続
- 本件アパートは、令和6年5月に完成・引渡しを受け、直ちに賃貸を開始した
- 本件アパートの建築理由は、旧賃貸アパートが老朽化したことによる建替え
- 本件アパートの敷地は従前から被相続人が所有
〔イメージ〕

通達評価額(※)で評価することは可能です。
ただし、本件は、相続開始日時点で固定資産税評価額が確定しておりませんので、このような場合には、次のような方法で評価し、申告する方法が考えられます。
なお、本件アパートは、相続開始日時点で既に貸家として賃貸されていますので、評価額から借家権割合(30%)を控除することは可能と考えます。
(※)財産評価基本通達(抄)
(家屋の評価)
89 家屋の価額は、その家屋の固定資産税評価額(地方税法第381条((固定資産課税台帳の登録事項))の規定により家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に登録された基準年度の価格又は比準価格をいう。以下この章において同じ。)に別表1に定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する。
引用:国税庁「財産評価基本通達 89」
評価方法
1.本件アパートは既に完成引渡しを受けていますが、建築中の家屋の評価方法(※)に準じて、その家屋の費用現価の額の70パーセントに相当する金額によって評価する方法があります。
なお、建築中の家屋の評価方法を示した財産評価基本通達91の解説では、「建築中の家屋の価額は費用現価の70%相当額により評価することとしているが、費用現価とは課税時期までに投下された建築費用の額を、課税時期の価額に引き直した合計額をいうものであり、その70%相当額により評価することとしているのは、建築中の家屋が未完成品であるという点に着目し、評価上の安全性を配慮したものである。」と説明されておりますので、同通達が、未完成の建物の評価方法を示すものであることは明らかです。
そうすると、本件のように完成引渡しを受けた場合も、同通達による高い評価額で評価しなければならないのだろうかという疑問が生じ得ます。
【注意点】
この方法による評価額は、固定資産税評価額に比べ、評価額が相当高くなる可能性があります。
また、固定資産税評価額が付された後に更正の請求を行ったとしても、当初の計算方法自体は誤っておりませんので、更正の請求を認めてもらえない可能性があることにご注意が必要です。
(※)財産評価基本通達(抄)
(建築中の家屋の評価)
91 課税時期において現に建築中の家屋の価額は、その家屋の費用現価の100分の70に相当する金額によって評価する。
引用:国税庁「財産評価基本通達 91」
No.4629 建築中の家屋の評価
概要
家屋の価額は、原則として、その家屋の固定資産税評価額に1.0を乗じて計算した金額によって評価します。したがって、その評価額は、固定資産税評価額と同じです。
しかし、建築中の家屋の場合には、固定資産税評価額が付けられていません。
そこで、建築中の家屋の価額は、その家屋の費用現価の70パーセントに相当する金額によって評価します。
これを算式で示すと次のとおりです。
建築中の家屋の価額=費用現価の額×70%
この算式における「費用現価の額」とは、課税時期(相続または遺贈の場合は被相続人の死亡の日、贈与の場合は贈与により財産を取得した日)までにその家屋に投下された建築費用の額を、課税時期の価額に引き直した額の合計額のことをいいます。
引用:国税庁「No.4629 建築中の家屋の評価」
2.固定資産税を所管する都税事務所や市役所に確認し、固定資産税評価額が既に決まっていて、相続税の申告期限までに評価額を教えてもらえるようであれば、その金額で評価する方法があります。
3.相続税の法定申告期限までに固定資産税評価額を把握できなかった場合、相続税の当初申告においては新築建物を計上せず、固定資産税評価額が確認でき次第、新築建物を固定資産税評価額で評価して自主修正申告書を提出する方法があります。
ただし、この場合には、自主的に修正申告書(追加分の本税・延滞税がかかります。)を提出する必要があること、調査着手までに修正申告書が提出できなかった場合、過少申告加算税が賦課されることなど、リスクがありますので、専門の税理士等にご相談いただくことをお勧めします。
なお、いずれの評価方法にしても、このような場合の相続税申告書(当初申告)には「固定資産税評価額が未確定であったため、この方法により評価した。」又は「家屋番号○-○の新築建物を相続税申告書に計上していないが、固定資産税評価額が確認でき次第、直ちに自主的に修正申告書を提出予定です。」などと付記しておくと良いように思えます。
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