チェスター相続税実務研究所
小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)の適用可否について⑦
2026/03/10
下記の前提において、被相続人である父の自宅を相続した長女は、当該父の自宅の敷地について小規模宅地等の特例(特定居住用(同居親族))を適用することができますか?
〔イメージ〕

前提条件
- 被相続人:父
- 相続人:長女(独身)、長男
- 相続開始日:令和6年1月
〔長女の状況〕
- 元々正社員として働いていたが父の介護のため退職
- 父が施設へ入居してからは父の通帳を長男と共に管理し、父の了承のもと、長女の生活費は父の通帳より負担
- 相続発生後も継続して父自宅に居住予定
長女は、小規模宅地等の特例(特定居住用(同居親族))の適用を受けることができません。
理由
長女が、父の施設入所(令和4年4月)後の令和5年5月に父の自宅に入居したことをもって、その時点から父の自宅は父の居住用宅地等とは認められなくなったと考えます。
解説
措置法69条の4第1項本文の「当該相続の開始の直前において、当該相続若しくは遺贈に係る被相続人の居住の用」には、被相続人の居住の用に供されていた宅地等が、養護老人ホームへの入所など被相続人が居住の用に供することができない一定の事由により相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった場合におけるその事由により居住の用に供されなくなる直前の被相続人の居住の用が含まれます。
しかしながら、上記の取扱いが適用されるのは、被相続人の居住の用に供されなくなった後に、新たに被相続人等(被相続人と措置法施行令40条の2第2項各号の入居又は入所の直前において生計を一にし、かつ、同条第1項の建物に引き続き居住している当該被相続人の親族を含む。)以外の人の居住の用に供されていない場合に限られます(措令40の2③)。
以上のことを踏まえますと、本件の場合、被相続人の居住の用に供されていた宅地等は、長女の入居により、措置法69条の4第1項に規定する「特例対象宅地等」に該当しなくなったと考えます。
別の観点からの検討
1.長女は「生計を一にする親族」に当たるか否か
長女が、被相続人と「生計を一にする親族」(措法69の4③二ハ)に該当すると認められた場合には、本件宅地等が、被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等に該当する可能性があります(長女が小規模宅地等の特例を適用できるのは、この場合に限られると考えます(ただし、他の要件を満たす前提です。)。)。
なお、長女が、被相続人と生計を一にする親族に該当するか否かについては、長女の生活状況等(退職時期、居住履歴、被相続人と長女の生計の状況、介護等への従事状況その他)を可能な限り洗い出し、十分に検討した上で判断する必要があると考えます。
2.長女は「家なき子」に当たるか否か
なお、長女がいわゆる「家なき子」(措法69の4③二ロ)に該当するのではないかとの疑問も生じ得ますので補足します。
「家なき子」には「相続開始前三年以内に相続税法の施行地内にある当該親族、当該親族の配偶者、当該親族の三親等内の親族又は当該親族と特別の関係がある法人として政令で定める法人が所有する家屋(相続開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く。)に居住したことがないこと」との要件があります。
これについて、被相続人は長女の三親等内の親族に該当し、長女は被相続人が所有する家屋に居住したことがある(被相続人が施設に入所後、長女が本件家屋へ入居したことにより、本件家屋は「相続開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていた家屋」ではなくなったと考えられます。)ことになりますので、長女は「家なき子」の要件を満たさないと考えます。
参考
租税特別措置法(抜粋)
(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
第六十九条の四 個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続若しくは遺贈に係る被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族(第三項において「被相続人等」という。)の事業(事業に準ずるものとして政令で定めるものを含む。同項において同じ。)の用又は居住の用(居住の用に供することができない事由として政令で定める事由により相続の開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていなかつた場合(政令で定める用途に供されている場合を除く。)における当該事由により居住の用に供されなくなる直前の当該被相続人の居住の用を含む。同項第二号において同じ。)に供されていた宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいう。同項及び次条第五項において同じ。)で財務省令で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもののうち政令で定めるもの(特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、特定同族会社事業用宅地等及び貸付事業用宅地等に限る。以下この条において「特例対象宅地等」という。)がある場合には、当該相続又は遺贈により財産を取得した者に係る全ての特例対象宅地等のうち、当該個人が取得をした特例対象宅地等又はその一部でこの項の規定の適用を受けるものとして政令で定めるところにより選択をしたもの(以下この項及び次項において「選択特例対象宅地等」という。)については、限度面積要件を満たす場合の当該選択特例対象宅地等(以下この項において「小規模宅地等」という。)に限り、相続税法第十一条の二に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該小規模宅地等の価額に次の各号に掲げる小規模宅地等の区分に応じ当該各号に定める割合を乗じて計算した金額とする。3一(省略)
二 特定居住用宅地等 被相続人等の居住の用に供されていた宅地等(当該宅地等が二以上ある場合には、政令で定める宅地等に限る。)で、当該被相続人の配偶者又は次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該被相続人の配偶者を除く。以下この号において同じ。)が相続又は遺贈により取得したもの(政令で定める部分に限る。)をいう。
イ 当該親族が相続開始の直前において当該宅地等の上に存する当該被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物(当該被相続人、当該被相続人の配偶者又は当該親族の居住の用に供されていた部分として政令で定める部分に限る。)に居住していた者であつて、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該建物に居住していること。
ロ 当該親族(当該被相続人の居住の用に供されていた宅地等を取得した者であつて財務省令で定めるものに限る。)が次に掲げる要件の全てを満たすこと(当該被相続人の配偶者又は相続開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた親族で政令で定める者がいない場合に限る。)。
(1)相続開始前三年以内に相続税法の施行地内にある当該親族、当該親族の配偶者、当該親族の三親等内の親族又は当該親族と特別の関係がある法人として政令で定める法人が所有する家屋(相続開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く。)に居住したことがないこと。
(2)当該被相続人の相続開始時に当該親族が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと。
(3)相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有していること。
ハ 当該親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の居住の用に供していること。
引用:e-GOV法令検索「租税特別措置法 第六十九条の四」
※下線部等は筆者による
租税特別措置法施行令(抜粋)
(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
第四十条の二 1~2(省略)3 法第六十九条の四第一項に規定する政令で定める用途は、同項に規定する事業の用又は同項に規定する被相続人等(被相続人と前項各号の入居又は入所の直前において生計を一にし、かつ、同条第一項の建物に引き続き居住している当該被相続人の親族を含む。)以外の者の居住の用とする。
引用:e-GOV法令検索「租税特別措置法施行令 第四十条の二」
国税庁HP(質疑応答事例)
入院により空家となっていた建物の敷地についての小規模宅地等の特例
【照会要旨】
被相続人は相続開始前に病気治療のために入院しましたが、退院することなく亡くなりました。被相続人が入院前まで居住していた建物は、相続開始直前まで空家となっていましたが、退院後は従前どおり居住の用に供することができる状況にありました。この場合、その建物の敷地は、相続開始直前において被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当しますか。【回答要旨】
病院の機能等を踏まえれば、被相続人がそれまで居住していた建物で起居しないのは、一時的なものと認められますから、その建物が入院後他の用途に供されたような特段の事情のない限り、被相続人の生活の拠点はなおその建物に置かれていると解するのが実情に合致するものと考えられます。したがって、その建物の敷地は、空家となっていた期間の長短を問わず、相続開始直前において被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当します。
【関係法令通達】
租税特別措置法第69条の4第1項、3項
引用:国税庁 質疑応答事例「入院により空家となっていた建物の敷地についての小規模宅地等の特例」
※下線部等は筆者による
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