チェスター相続税実務研究所
「訴訟中の権利」の評価と弁護士費用
2019/06/12
1.評価通達210の定め
目立たないのですが、評価通達210に「訴訟中の権利」の評価方法が定められています。
訴訟中の権利の価額は、課税時期の現況により係争関係の真相を調査し、訴訟進行の状況をも参酌して原告と被告との主張を公平に判断して適正に評価する。
具体的な基準をあらゆるケースを想定して定めることは現実的には不可能であり、個別に評定する必要があります。
2.損害賠償請求権の場合
(例)
①2019年3月 被相続人が生前に交通事故に遭遇(下股骨折)
②2019年9月 自動車保険の範囲で示談成立
③2019年11月 弁護士に相談の上損害賠償請求事件を提訴
④2020年8月 被相続人が肺炎で死亡
⑤2021年3月 裁判上の和解成立 相続人が賠償金500万円を受領
⑥2021年3月 弁護士報酬100万円支払
相続財産には、金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのものと解されており、物権、債権及び無体財産権に限らず、信託受益権、電話加入権等が含まれるほか、法律上の根拠を有しないものであっても、例えば、営業権のようなものも含まれると解されています(相続税法基本通達11の2-1)ので、本件損害賠償請求権についても相続税の課税財産として取り扱うことが相当です。
本件損害賠償請求権の経済的価値を考えるとき、その性質上、時の経過に伴ってその価値が増減することは考えられず、事故発生当時・相続開始時・和解時のいずれの時においてもその価値は同等と考えることができます。
また、本件の和解に伴う賠償金は、被相続人の生前の交通事故時の損害を賠償するものであり、その支払いがあって請求権が消滅することから、本件損害賠償請求権の価額は支払を受けた賠償金の金額と同額と考えることができます。
したがって、本件損害賠償請求権の相続開始時の価額は本件和解による賠償金500万円と同額と取り扱って差し支えないと考えられます。
3.弁護士費用のしんしゃく
本件損害賠償請求権の価額を評定できたとして、弁護士費用を債務控除することは可能でしょうか。
弁護士費用、課税時期の時点で債務確定をしているわけではないため、債務控除の対象には該当しないと考えられます。
しかし、被相続人が生前に弁護士と受任契約を締結していれば、500万円の金銭価値の実現のためには弁護士費用の支出が当然に見込まれますし、その報酬の計算式が受任契約書によって具体的に規定されていれば、実現した価額から控除した金額をもって本件損害賠償請求権の価額(時価)と評価するのが相当と考えられます。
本件については、500万円から弁護士費用を控除した400万円を「損害賠償請求権」として計上するのが妥当と考えられます。
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