チェスター相続税実務研究所
株式分割で節税できる?
2019/10/09
会社法上、例えば10株を1株にする手続を「株式併合」、1株を10株にする手続を「株式分割」といいます。
株式併合は端株を生じさせるなど株主の権利を制約する可能性があることから、株主総会の特別決議が必要であるのに対し、株式分割は特に株主に不利になることがないため、原則として取締役会決議で済むことになります。
取引相場のない株式の評価について、以下の例でご説明をします。
資本金等の額1億円・発行済株式数2千株(1株5万円・50円換算で200万株)
小会社(Lの割合0.5)
全株を被相続人が所有
(類似業種比準価額)
50円換算で49円
(純資産価額)
発行済株式数で除する直前の純資産価額1.9億円
通常であれば、相続税評価額は、
(類似業種比準価額)
49円×(5万円/50円)=49,000円
(純資産価額)
1.9億円/2千株=95,000円
(1株当たり評価額)
49,000円×0.5+95,000円×(1-0.5)=72,000円
72,000円×2千株=1.44億円 となります。
仮に、被相続人の生前に1株を50,000株(1株1円)に株式分割した場合はどうなるでしょうか。
(基本情報)
資本金等の額1億円・発行済株式数1億株
(類似業種比準価額)
49円×(1円/50円)=0.98→0円
(純資産価額)
1.9億円/1億株=1.9→1円
(1株当たり評価額)
0円×0.5+1円×(1-0.5)=0.5→0円
0円×1億株=0円
被評価会社には純資産価額が1.9億円あり、全額被相続人が所有しているにもかかわらず、評価通達の定め及び評価明細書の様式によれば評価額は0円となりますが、果たしてこれで良いでしょうか?
こういう場面で想起されるものに、「評価通達総則6項」があります。
評価通達に依拠して評価すべきことについては、評価通達総則6項が争われた最近の事例である令和元年8月27日東京地裁判決においても、「納税者間の公平、納税者の便宜、効率的な徴税といった要請から、あらかじめ定められた評価方法によって画一的に評価するのが相当であり、それ以外の方法によって評価することは原則として許されない」旨の説示がなされています。
一方、「形式的な平等を貫くことによってかえって租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかである特別の事情がある場合には、他の合理的な方法によることが許される」とも説いています。
1株を50,000株(1株1円)に株式分割したことで評価通達総則6項の適用があるか否かは現時点では断定できないものの、株式分割したにもかかわらず新規の株主の参入がない(分割後の株式単位による取引がない)といった、株価評価の端数処理によるテクニック以外に株式分割の目的が見いだせない場合には、同項の発動の射程内と考えなければならないでしょう。
また、1株を50,000株に分割するのは極端であるとして、何株までの分割であれば許容されるのかといった「是認・否認の分水嶺」の議論がつきまといますが、少なくとも節税対策から独立した「株式分割の必要性・合理性」の説明がつくことが必要と考えられます。
本件では、その株式分割がなかったものとした場合の評価額「72,000円×2千株=1.44億円」が合理的な方法であると認定される可能性があると想定されます。
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