チェスター相続税実務研究所
【土地の無償返還に関する届出の遅滞なくとは】
2019/11/18
非上場株式の評価を行う場合において、建物=会社所有、土地=個人所有(オーナー、被相続人等)という借地権を認識するケースと、前提は前者と同一であるが、『土地の無償返還に関する届出』を提出していることにより、借地権を認識しないケースがあります。
この『土地の無償返還に関する届出』を提出した場合においては、法人側においては借地権の認識をせずに、且つ権利金の認定課税も回避することができるため、実務上においては頻出論点ではありますが、一点解釈が難しい論点があります。
こちらの『土地の無償返還に関する届出』の提出時期について、国税庁のHP上においては、≪土地を無償で返還することが定められた後遅滞なく≫としか記載がなく、具体的な時期についての解説等もありません。
この場合、いつまでなら間に合うのかという判断に悩まされることになりますが、借地権という性質上、金額に与える影響額が大きいため、届出時期についての判断ミスにより、税理士としての責任を問われる可能性も少なくありません。
ではこの遅滞なくの期限はいつまでと解釈するのが正しいのでしょうか。
一般的には最初に到来する申告期限までと考えられていますが、『土地の無償返還に関する届出』の提出は、土地の賃貸借契約において土地を無償で返還する旨が約定されていることを前提としているため、借地権の存在を後から恣意的に異動することができないようにすることが目的だと考えられます。
例えば建物が完成してから現在まで一貫して、借地権が無いことを前提として株価評価を行っていた場合については、最初に到来する申告期限を超える提出についても、差し支えないと考えることができます。よって一定時期までに提出しなかったことにより、提出が無効になることはなく、いわゆる後出しでも課税の一貫性を伴う場合については、遅滞なくの要件は満たすと考えられます。
では具体的なケースにて遅滞なくの要件に合致するか確認してみます。
Ex)①2000年 A所有の土地に㈱A(同族法人)が建物を建てた。
②2010年 Aについて相続が発生(相続人はBのみ)
③2020年 Bについて相続が発生
①この場合については、遅滞なくとある以上、課税に恣意性が介入しない場合については、明確な提出時期については特に期限はないと考えることができます。
②株価評価等を行っていなかった場合についても、相続時においては算定が必要となり、借地権の認識有無の判断が必要となります。
よって恣意性を排除するという目的より、相続時が遅滞なくの期限であると考えることができます。
③仮に②のA相続時において、借地権を認識している場合、『土地の無償返還に関する届出』については提出が認められないと考えられます。こちらも恣意性の排除という観点より、既に②の段階で借地権を認識しているため、課税当局と合意の確認行為をしたと考えられるためです。
上記の『土地の無償返還に関する届出』については、法人個人ともに与える影響が大きいため、慎重に判断する必要があります。
こちらの解釈についてもケースバイケースであるため、税務当局に否認されないように、課税関係の整理を早めにおこなうように心掛けましょう。
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