チェスター相続税実務研究所
数次相続の場合の空き家特例の適用
2020/09/18
数次相続で取得した被相続人の自宅不動産を売却した場合においても、一定の要件を満たすことで、空き家特例(措置法35条3項)を適用することができると考えられます。しかし、被相続人の居住状況によっては、適用できるか否かの判断は異なります。
この記事では、夫婦が生前同時に自宅から離れていた状態(入院・老人ホーム入所)で数次相続が発生した場合の空き家特例の適用について、事例をもとに整理します。
この記事の目次 [表示]
1. 空き家特例の対象となる「被相続人居住用家屋」
空き家特例の対象となる被相続人居住用家屋は、相続開始直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋であり、次の3つの要件すべてを満たす必要があります。(措置法35条4項)
(1)昭和56年5月31日以前に建築されたこと。
(2)区分所有建物登記がされている建物でないこと。
(3)相続開始直前において被相続人以外に居住をしていた者がいなかったこと。
なお、要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するなど、特定の事由により相続開始直前において被相続人の居住の用に供されていなかった場合で、一定の要件を満たすときは、その居住の用に供されなくなる直前まで被相続人の居住の用に供されていた家屋は被相続人居住用家屋に該当します。
以下の事例においては(1)(2)の要件は満たしているものとします。
2. 数次相続の場合の特例適用
二次相続発生時に一次相続が未分割である場合、自宅不動産は一次相続の相続人で共有している状態となりますので、その後の遺産分割協議で、二次相続の被相続人が取得すれば、数次相続の場合においても空き家特例は適用できるものと考えられます。
では、夫婦が生前同時に自宅から離れていた状態で数次相続が発生した場合には、自宅不動産は特例の対象となる被相続人居住用家屋に該当するでしょうか。
次の2つの観点から、特例の適用が可能であるか事例をもとに検討します。
①相続開始直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋であること
②相続開始直前において被相続人以外に居住をしていた者がいなかったこと
(1) 生前に入院していた場合
【事例1】
自宅不動産の所有者:夫
自宅居住者:夫・妻
一次相続の相続人:妻・子2名
二次相続の相続人:子2名
時系列:
令和1年10月 夫・妻が病院に入院
令和1年12月 一次相続開始(夫)
令和2年3月 二次相続開始(妻)※妻は入院後、自宅へ戻っていない
令和2年6月 子が一次相続および二次相続の遺産分割協議
(自宅の取得者は、一次相続では妻、二次相続では子2名で共有とした)
令和2年8月 不動産売却
「①相続開始直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋であること」については、入院である限り、生活の拠点は自宅から移転していないため、該当するものと考えられます。
また、「②相続開始直前において被相続人以外に居住をしていた者がいなかったこと」についても、二次相続(被相続人:妻)の相続開始時点では、夫は以前に死亡しているため、妻以外に居住をしていた人はいないとして、該当するものと考えられます。
よって、事例1の入院の場合には被相続人居住用家屋に該当し、空き家特例は適用できるものと考えられます。
(2) 生前に老人ホームへ入所していた場合
【事例2】
時系列以外の状況は 事例1と同じものとします
時系列:令和1年10月 夫・妻が老人ホームへ入所
令和1年12月 一次相続開始(夫)
令和2年3月 二次相続開始(妻)※妻はホーム入所後、自宅へ戻っていない
令和2年6月 子が一次相続および二次相続の遺産分割協議
(自宅の取得者は、一次相続では妻、二次相続では子2名で共有とした)
令和2年8月 不動産売却
被相続人が老人ホーム等への入所していた(特定事由に該当する)場合には、相続開始直前の居住状況ではなく、その居住の用に供されなくなる直前の居住状況から被相続人居住用家屋に該当するか判断します。
そのため、「①相続開始直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋であること」
および「②相続開始直前において被相続人以外に居住をしていた者がいなかったこと」の「相続開始直前」が老人ホーム等への入所直前の居住状況から判断することになります。
事例2の場合、老人ホーム等への入所直前において、自宅は二次相続の被相続人である妻の居住の用に供されてはいるものの、当時は夫も居住していたことから、②には該当せず、空き家特例の適用は難しいと考えられます。
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