チェスター相続税実務研究所
質問応答記録書 ~署名押印するかしないか、それが問題だ~
2021/09/15
税務調査の季節になりました。今日のテーマは、質問応答記録書についてです。
以前、電話でのお問合せで、
「今、相続税の税務調査を受けています。質問応答記録書への署名押印を求められていますが応じたほうが良いでしょうか?応じなくとも良いでしょうか?」
と言った質問を頂いて、どう答えたらいいか悩んだことがあります。
そのお客様はご自身で相続税の申告をし、税務調査を受けていました。調査対応もご自身でされていましたが、調査担当者からあれこれ財産の計上漏れについて指摘されているといった状況でした。
「署名押印したら、不利になるでしょう?でも、署名押印しないと調査が終わらないらしいです。」とおっしゃっていました。
『質問応答記録書って、署名押印しなければならない文書』?
『質問応答記録書に署名押印すると、本当に不利になる』?
『質問応答記録書に署名押印しないと、本当に調査は終わらない』?
今回は、そのあたりを少し掘り下げて考えてみます。
この記事の目次 [表示]
1. 質問応答記録書とは何法に基づいて作成される文書か
まず、質問応答記録書について調べようと思って、ハタと気付きました。
「質問応答記録書って、何法を調べたら良いのだろう?国税通則法?」
正解は、質問応答記録書は、国税通則法ほか税法には規定されていません。
また、法令解釈通達や国税庁が外部に公表している事務運営指針にも規定されていません。質問応答記録書は、国税庁が国税局に発遣している「情報」に掲載されているものです。
よって、質問応答記録書は、調査担当者が作成する行政文書となります。
したがって、質問応答記録書に対し、納税者は法令に基づく署名押印を行う義務はありません。ましてや、署名押印しないといって罰せられることもありません。
まず、冒頭の『質問応答記録書って、署名押印しなければならない文書』は、正しくないことになります。
「質問応答記録書には署名押印しません。」と言えば、署名押印せずにすみます。また、その質問応答記録書は文書として無効になるのではなく、署名押印がない質問応答記録書になるだけです。ただ、税務署員からは、署名押印するよう説得され、署名押印をしないことで、調査がすんなりと終わらないことは懸念されます。
なお、税務調査において、質問応答記録書は必ず作成しなければいけない文書とはなっておらず、質問応答記録書が作成されない調査もあります。
2. 質問応答記録書を作成する理由
質問応答記録書は必ず作成しなければいけない文書でもないのに調査担当者が作成するには、理由があります。
質問応答記録書が作成される税務調査は、「相続人が相続財産を故意に申告しなかったのでないか?」が論点となっているケースが多いです。
申告漏れ財産が相続人の「仮装隠ぺい」行為に依るものであれば、それは重加算税の対象となります。
調査担当者は調査において、相続人による「仮装隠ぺい」行為があり、「重加算税を課すべきだ」と想定した場合、その処分の根拠となる証拠収集を行います。証拠が不十分な状態では重加算税の賦課決定処分を行うことはできず、例え処分を行ったとしても、審査請求や訴訟において、証拠不十分として取り消されることになります。
したがって、相続財産が相続人の仮想隠ぺい行為に依るものだとする証拠として、質問応答記録書が作成されます。
3. 質問応答記録書に署名押印しなければならない?
税務署が、重加算税賦課の証拠として質問応答記録書を作成するのであれば、冒頭の『質問応答記録書に署名押印すると、本当に不利になる』というのは正しいように思えます。
ただ、“署名押印したら証拠になる”、“署名押印さえしなければ、証拠にならない”、というものでもありません。質問応答記録書に署名押印しなくても、それは無効な文書にはならず、訴訟において署名押印がない質問応答記録書が処分の証拠として認められているケースもあります。
また、質問応答記録書への署名押印を拒否した場合、調査担当者により、その拒否した理由や、調査時の状況などが記載された「調査報告書」が作成され、それが処分の証拠として裁判所などに提出されることもあります。
更に、質問応答記録書への署名押印を拒否することで、調査担当者は新たに証拠収集を行うことが想定され、調査が長引くことが懸念されます。当然、心証も悪くなるでしょう。
このことから、『質問応答記録書に署名押印しないと、本当に調査は終わらない』というのは的を射ているかもしれません。
4. 結論 質問応答記録書に署名押印するべきか、するべきでないか
質問応答記録書は、作成するのは調査担当者ですが、
それを納税者に読んで聞かせて、さらに納税者が閲読し、内容について訂正すべきところがありますか?ありません、といったやり取りの後に署名押印が求められます。
税理士によっても、「質問応答記録書へは署名押印すべきである」と主張される方と、「質問応答記録書へは署名押印すべきでない」と主張される方に分かれます。
〇「質問応答記録書へは署名押印すべきである」
質問応答記録書に署名押印しなくても、証拠として認められている裁判例もある。
そもそも、署名押印を拒否したという事実が調査担当者の印象を悪くし、新たな証拠を見つけるために調査が長引き、結果として、納税者が不利になる。
内容を十分に確認して署名押印することが大事。
〇「質問応答記録書へは署名押印すべきでない」
そもそも質問応答記録書には法的根拠がなく、署名押印する義務や協力規定はない。
調査担当者によっては、さも仮想隠ぺいがあったが如く巧みに作文する。また、納税者は、税務調査を受けているという不安定な心理状況の下、自分に不利になるかもしれないことに気づかないまま、事案によっては権限ある税理士の退席を促され、署名押印させられているケースもある。さらに、その写しは交付されず、後日、一度作成した質問応答記録書の訂正を求めても認められない。
しかし、いかなる状態で作成された質問応答記録書であっても、賦課決定処分や争訟においては、課税庁側の重要な証拠となる。
法的根拠がなく、納税者にとって一方的に不利となる文書に対し、署名押印すべきでない。そもそも、その作成すら断ってもよいのではないか。
どちらの言い分も納得できますので、結論は難しいです。
あくまでも私個人の見解ですが、税務調査を受けている場面で、署名押印を断ることは、「何か後ろめたい事があるのか?」とも勘ぐられ、険悪な雰囲気になり、それは、避けたい気持ちがあります。しかし、納税者が一方的に不利となるようなことも避ける必要があります。
したがって、税理士が質問応答記録書についての知識や判断力を持ち、質問応答記録書の記載内容が調査の状況を正確に反映しているものか、納税者に有利となることも記載されているかを見定め、それが分からなければ署名押印に応じない、また、記載内容に納得でき、かつ、納税者にも理解が得られれば署名押印に応じてもよいと考えています。
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