チェスター相続税実務研究所
暦年贈与と相続時精算課税贈与 ケースごとの有利・不利選択
2023/04/06
近年、改正があるある、と言われていた贈与税の改正がついに現実となりました。
相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が別途設けられた一方、暦年贈与財産の相続財産への加算期間が相続開始前3年から7年に延長されました。改正前と比べて、相続時精算課税制度を適用した方が有利なケースが増えることが想定されます。ただし、贈与者の年齢や財産の状況などを踏まえ、慎重な検討が必要になります。
なお、それぞれの改正とも、令和6年1月1日以降の贈与から対象となります。
本稿では、相続時精算課税制度の改正(令和5年度税制改正)について、税制改正のポイントや留意点、相続時精算課税贈与と暦年課税贈与の選択にあたっての有利・不利について、具体例を挙げてご説明します。
【改正のポイント】
<改正前の制度の概要>
相続税計算に加算する暦年課税贈与
- 相続開始前3年間の贈与を相続税の計算に加算される。
- 加算対象者は、相続又は遺贈により財産を取得した者である。
加算対象には、基礎控除額以下の部分を含む。
相続時精算課税贈与
- 贈与者:原則として60歳以上である父母・祖父母等
- 受贈者:贈与者の直系卑属(子や孫)で、 18歳以上の推定相続人又は孫
- 贈与税の計算上、特別控除2,500万円が控除される。
- 特別控除額は、特定贈与者ごとに一生涯累計で2,500万円を限度とする。
- 特別控除2,500万円を超えた部分の贈与財産については、20%の贈与税がかかる。
- 相続時精算課税制度を選択した年分以降、少額の贈与であったとしても贈与税の申告が必要となる。
- 同制度を選択した年分以降のすべての贈与を相続財産に加算される。
- 相続時精算課税適用財産について支払った贈与税がある場合、相続税の計算において控除・還付する。
<改正内容>
暦年贈与
- 相続開始7年前までの贈与が相続財産に加算される。(ただし、延長された4年間の贈与のうち100万円までの贈与については加算されない)
相続時精算課税贈与
- 相続時精算課税制度の贈与税の計算において、毎年110万円までの基礎控除が、現行基礎控除とは別途、新設される。
- 毎年110万円までの贈与であれば、相続時精算課税制度を選択していても贈与税の申告と納税は不要となる。
- 毎年110万円までの贈与は、特別控除2,500万円の対象外となる。
- 贈与者が死亡した場合、控除された毎年110万円までの部分は、相続開始前7年間のものも含めて相続税の計算に加算不要となる。
それでは、改正後の暦年贈与と相続時精算課税贈与のそれぞれのメリットとデメリットについて整理します。
【暦年贈与と相続時精算課税贈与の比較】
<暦年贈与を選択するメリット>
- 相続開始前7年より以前の期間の贈与財産について、相続財産から切り離すことができる。
- 相続又は遺贈により財産を取得した者以外の者への贈与は、相続財産への加算対象とならない。
<暦年贈与を選択するデメリット>
- 相続人への贈与の場合、相続開始前7年間の贈与は相続財産に加算することとなる。
<相続時精算課税を選択するメリット>
- 贈与税の負担なく(または負担を軽減させて)次世代に資産移転をすることが可能である。
- 相続税の課税価格に加算等する財産の価額を、贈与時の価額に固定できる。
- 年間110万円までの贈与は、相続税の課税価格に加算する必要がない。つまり、相続開始前7年以内の贈与であっても、年間110万円までの贈与は相続財産から切り離すことができる。
<相続時精算課税を選択するデメリット>
多額の財産を有する者は、相続時精算課税贈与により高率の相続税負担を免れることはできない。
このように整理すると、贈与したい金額や、贈与したい方の現在の年齢など、いくつかの事情を考慮した上で、いずれの方法による贈与が有利となるか検討し、贈与計画(タックスプランニング)を策定する必要があります。
なお、贈与計画(タックスプランニング)の策定及びその実行は、早ければ早いほど、より相続税の節税効果が高くなります。
【暦年贈与と相続時精算課税贈与 考慮すべき要素】
- 財産の規模はどのくらいか。
- 財産はどのような資産構成となっているか。
- 贈与者の年齢は何歳か。
- どのくらいの年数・金額で贈与するか。
【具体例】
- <ケース1>
- 贈与者の年齢:85歳(91歳で相続開始と仮定)
推定相続人:2人(配偶者・子)
財産規模:1億円
贈与したい財産:子(18歳以上)に対して3,000万① 暦年贈与(500万円ずつ6年間にわたって贈与)
- 贈与時
{(500万-110万)×贈与税率}×6年=贈与税額計291万円 Ⓐ - 相続時
500万円×6年分-100万=2,900万円の贈与については、相続財産に持ち戻して計算。
(7,000万(贈与後の財産額)+2,900万-4,200万)×相続税率-291万
=相続税額464万円 Ⓑ ※
※配偶者の取得分を0とした場合
Ⓐ+Ⓑ=755万円(贈与税・相続税負担額計)
※ 毎年の贈与額が110万円であっても、結果は同じとなる。
② 相続時精算課税(初年度2,500万円、次年度以降100万円×5年間)
- 贈与時
初年度2,500万円 特別控除額以下 贈与税額0円 Ⓐ
次年度以降100万円×5年間 基礎控除額以下 贈与税額0円 Ⓑ - 相続時
相続財産への持ち戻し 2,390万円(初年度2,500万-基礎控除110万)
7,000万(贈与後の財産額)+2,390万-4,200万)×相続税率=相続税額 約678万円 Ⓒ※
※配偶者の取得分を0とした場合。
Ⓐ+Ⓑ+Ⓒ=678万円
▲①>②となるため、相続時精算課税制度を選択した方が有利になります。
- 贈与時
- <ケース2>
- 贈与者の年齢:75歳(88歳で相続開始と仮定)
相続人:2人(配偶者・子)
財産規模:3億円
贈与したい財産:子に対して3,000万
① 暦年贈与(500万円ずつ6年間にわたって贈与)- 贈与時
{(500万-110万)×15%-10万}×6年=贈与税額計291万円Ⓐ - 相続時
相続開始7年前より以前の贈与については、相続財産への持ち戻し不要。
(2億7,000万(贈与後の財産額)-4,200万)×相続税率=相続税額5,720万円Ⓑ※
※配偶者の取得分を0とした場合
Ⓐ+Ⓑ=6,011万円(贈与税・相続税負担額計)
② 相続時精算課税(初年度2,500万円、次年度以降100万円×5年間)
- 贈与時
初年度2,500万円 特別控除額以下 贈与税額0円 Ⓐ
次年度以降100万円×5年間 基礎控除額以下 贈与税額0円 Ⓑ - 相続時
相続財産への持ち戻し 2,390万円(初年度2,500万-基礎控除110万)
2億7,000万(贈与後の財産額)+2,390万-4,200万)×相続税率=相続税額 約6,676万円 Ⓒ※
※配偶者の取得分を0とした場合。
Ⓐ+Ⓑ+Ⓒ=6,676万円
▲①<②となるため、暦年課税贈与を選択した方が有利になります。
- 贈与時
※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。