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制限納税義務者の連帯納付義務について

2024/09/13

はじめに

一般に富裕層ほど国外に移住したり、国外財産を所有したりしている割合が高いといえます。令和4年分(令和4年12月31日時点)の国外財産調書の提出に係る国外財産総額は5兆7,222億円に上り、5年前の平成29年分と比べると156.1%と増加しています(図表1)。

このような増加の背景として、例えば、一定額の財産形成ができたため自身にあった生活環境を求めて国外に移住する場合、我が子の教育のため国外のインターナショナルスクールへ入学させるような場合、国外財産による資産運用などが考えられます。

【図表1】国外財産調書の提出に係る国外財産総額の推移
国外財産調書の提出に係る国外財産総額の推移

出典:国税庁「国外財産調書の提出状況について」より筆者作成

国外への関心が年々増加していることに伴い、相続人に非居住無制限納税義務者及び制限納税義務者の両者が存在するケースも増加していくと見込まれます。

こうした中、相続税について、共同相続人間で納税義務を履行しない者がいた場合、他の相続人は連帯納付義務を負わなければならないため、国内外の住所を異にする共同相続人の滞納国税の通知を受けるという思わぬ事態を招くこともあり得ます。

今回は国内財産を取得した非居住無制限納税義務者が相続税を滞納した場合、制限納税義務者に対してどのような影響があるのか最近の裁決事例を交えて解説します。

 

1.相続税の連帯納付義務

(1)法令の規定

相続税の納付について、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての者は、その相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税について、各相続人等が相続又は遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯して納付しなければならない義務(連帯納付義務)があります(相法34①)。

ただし、相続税の申告期限から5年を経過した場合、相続税について延納の許可を受けた場合、納税猶予の適用を受けた場合は、連帯納付義務を負いません(相法34①一~三)。

なお、贈与税について財産を贈与した者は、贈与により財産を取得した者のその年分の贈与税額のうち、贈与した財産の価額に対応する部分の金額について、その財産に相当する金額を限度として、連帯納付義務を負います(相法34④)。

(2)連帯納付義務者に対して連帯納付義務の履行を求める場合の手続き

相続税の申告期限を過ぎても納税義務者が納税を行わない場合には、税務署はその納税を行わない者に対して納期限から50日以内に督促を行います。この督促にかかる督促状が発せられた日から一カ月が経過しても本来の納税義務者が相続税を納めない場合には、連帯納付義務者に対して、その相続税が納付されていない旨等が記載された『相続税の連帯納付義務のお知らせ』が送付されます(図表2)。

なお、この「お知らせ」はあくまで他の相続人が相続税を納付していないことを通知するための書類であるため、この時点では連帯納付義務者に納付義務は発生しません。しかし、税務署が連帯納付義務者に対して納付通知書を送付することは、連帯納付義務者から税金の徴収を行うことを決定したこととなります。そのため連帯納付義務者は一定の金額を限度として納付通知書に記載された相続税を納付する義務が生じます。

また、相続開始から相続税の申告・納税までの間において、連帯納付義務者に対して連帯納付義務の履行を求める場合の手続きの流れは図表3のとおりです。

【図表2】相続税の連帯納付義務のお知らせ
相続税の連帯納付義務のお知らせ

【出典:国税庁「相続税法第34条に規定する連帯納付の義務に係る通知等について」】

【図表3】連帯納付義務者に対して連帯納付義務の履行を求めるときの流れ
連帯納付義務者に対して連帯納付義務の履行を求めるときの流れ

【出典:財務省「平成23年度 税制改正の解説」432頁】

2.裁決事例

(1)事案の概要

本件は、共同相続人の一人に係る滞納相続税を徴収するため、原処分庁が審査請求人(以下「請求人」という。)に連帯納付義務があるとして連帯納付義務の納付通知処分をしたのに対し、請求人が、その納付通知処分の基となった課税処分が無効であること、また、仮にその課税処分が無効でないとしても、その納付通知処分は制限納税義務者である請求人に対し連帯納付義務者として非居住無制限納税義務者である共同相続人に課税された相続税の納付を求める違法なものであることなどを理由として、原処分の全部の取消しを求めた事案である(令和5年6月21日公表裁決)。

(2)事実関係等

① 請求人の父(以下「本件被相続人」という。)は、平成〇年○月○日に死亡し、 その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。本件被相続人は、日本国内に住所を有していなかった(国籍は非公表)。

② 本件被相続人の相続に係る共同相続人は、本件被相続人の日本国籍を有する長男G、同二男H、同長女である請求人、同次女J、同三男K及び同三女Lの6名である(以下、上記共同相続人6名を併せて「本件相続人ら」という。)。

③ 長男Gは、本件相続の開始日時点において、日本国内に住所を有していなかった。また、長男Gを除く本件相続人らは、いずれも日本国籍を有しておらず、本件相続の開始日までの間、日本国内に生活の本拠がなかった制限納税義務者である。

④ 本件被相続人は、本件相続の開始日において、日本国内のみならず、日本国外にも財産を有していた。

⑤ 本件相続人らは、本件被相続人の財産のうち、日本国内に所在する不動産等の財産の一部について遺産分割協議を成立させ、長男Gを除く本件相続人らで当該財産を取得した。
  本件相続人らは、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告書を法定申告期限までに共同して税務署長に提出した。

⑥ 税務署長は、長男Gが平成27年○月○日に日本を出国するまでは日本国内に住所を有するとして非居住無制限納税義務者に該当すると認定した上で、本件被相続人が所有していた日本国外に所在する未分割の不動産につき、相続税の課税価格に算入する旨の更正処分を行った。

⑦ 長男Gは死亡し、その子でありかつ唯一の相続人であるEは、通則法第5条《相続による国税の納付義務の承継》第1項の規定に基づき、長男Gに課されるべき本件相続税の納付義務を承継した。

⑧ 税務署長は、本件相続税がその納期限までに完納されなかったことから、通則法第37条第1項の規定に基づき、令和2年〇月〇日付の督促状によりその納付を督促した。

⑨ 原処分庁は、上記⑦に係る督促後一月を経過しても上記⑦の督促に係る滞納国税が完納されなかったことから、相続税法第34条第5項の規定に基づき、令和3年○月○日付で、請求人に対して、ⓐ本件相続税について、請求人以外の相続人に対して督促がされたが完納されていないこと、ⓑ請求人には同条第1項本文に規定する連帯納付義務が課されていること、ⓒ連帯納付義務の制度により実際に請求人に相続税の納付を求める場合には、改めて「納付通知書」が送付されることなどを記載した「相続税の連帯納付義務について」と題する文書により通知をした。

⑩ 請求人は、本件通知処分を不服として令和4年○月○日に審査請求をした。

(3)争点

日本国外に所在する相続財産について相続税の納付義務を負わない制限納税義務者に対し、連帯納付義務者として国外財産に対する滞納国税の納付を求めることは違法なものか否か。

(4)審判所の判断

相続税法第34条第1項本文は、同一の被相続人から相続等により取得した財産に係る相続税に関して互いに連帯納付義務を負う者について、「同一の被相続人から相続等により財産を取得した全ての者」である旨規定し、制限納税義務者を除外する旨の規定を特に設けていないこと、及び連帯納付義務が、相続税の徴収確保を図るため、共同相続人中に無資力の者があることに備えて相互に各相続人等に特別の責任を課す趣旨に基づくものであることからすれば、連帯納付義務を負う者を無制限納税義務者である納税者のみに限定して解釈すべき理由があるとは認め難く、制限納税義務者か無制限納税義務者かを問わず、連帯納付義務を負うものというべきである。
そうすると、本件通知処分は、制限納税義務者である請求人に対し、連帯納付義務者として本件滞納国税の納付を求める点において違法なものとはいえない。

相続税法第34条第1項に規定する連帯納付義務については補充性がないものと解されることから、原処分庁は、本来の納税義務者である本件納税者に対する徴収手続と連帯納付義務者である請求人に対する徴収手続のいずれの手続からも本件滞納国税を徴収することが可能であって、原処分庁が、本件納税者に対する積極的な納付能力調査、接触等を行わなかったとしても、そのこと自体が本件通知処分の妥当性に影響を及ぼすものではなく、これをもって本件通知処分を不当と評価することはできない。

(5)解説

審判所は、連帯納付義務においては、無制限納税義務者及び制限納税義務者による国内外財産に対する課税対象の差異を問わないと判断しました。

つまり、国外に居住していた者が国外財産のみを相続し、国内財産に係る相続税は関係がないと思っていても、国内財産に係る相続税の納付義務を負う場合があるのです。

相続税の納税義務者と課税財産の関係は次のとおりです(図表4)。

【図表4】相続税の納税義務者と課税財産
相続税の納税義務者と課税財産

(注)居住無制限納税義務者及び非居住無制限納税義務者は国内外財産、居住制限納税者及び非居住制限納税義務者は国内財産のみ課税される(相法2①②)。

それでは、制限納税義務者である相続人が相続した財産がすべて国外にあり相続税が未納の状態となった場合にはその未納の税金はどのように徴収されることとなるのでしょうか。

このような場合には、国外財産であっても徴収共助制度により各国の税務当局が協力して徴収することとなるため、国外財産のみを保有している場合であっても日本における相続税の納付のため財産を差し押さえられることが考えられます。

3.徴収共助の制度

租税を徴収するための権限は国外で行使することができないという制約があります。このため、租税条約において、国外への財産移転による国際的な徴収回避に適切に対応することを目的として、各国の税務当局が協力して互いに相手国の租税を徴収する「徴収共助」の枠組みを設けています(図表5)。

国税庁では、税務行政執行共助条約(注)などに基づく徴収共助の制度を積極的に活用して、国際的な租税の徴収に取り組むこととしています。

(注)租税に関する情報の交換、徴収、文書の送達を相互に支援することを定めた多国間条約であり、我が国を含め124の国・地域において発効しています(令和2(2020)年6月1日現在)。

【図表5】徴収共助の仕組み
徴収共助の仕組み

【出典:国税庁レポート2022「徴収共助制度の活用」】

徴収共助制度は平成25年(税務行政執行共助条約の効力発生)に導入されてから約11年であり、比較的歴史が浅い制度といえます。しかし、徴収共助は国際的なトレンドであるため、今後とも制度が導入される国は増加していくと見込まれます。国税当局は、国外財産等についても、この制度を積極的に利用して、適正・公平な国税債権の徴収を図っています。

これらのことから、日本国内に財産がないことを理由に日本の納税を怠っていると、財産所有国の国税当局からの追及によって、結果として本税額のほか延滞税の負担も大きくなることも考えられます。

4.連帯納付義務者の求償権

連帯納付義務を負った共同相続人が本来の納税義務者の相続税を肩代わりした場合、その肩代わりした金額は本来の納税義務者に対してする求償権となります。

この場合、連帯納付義務者が本来の納税義務者に対し求償権を放棄したときや求償権を行使しないときは、その肩代わりした金額は本来の納税義務者に対する贈与とみなされ、贈与税が課税されるリスクがあります。

《相続税の連帯納付義務に係る求償権について争った裁判例》
原告及び被告(原告及び被告は兄弟である。)の父親の相続に係る相続税について、被告が納付すべき延滞税及び加算税合計1,371万2,000円を原告が納付したとして、求償権に基づき同額及びこれに対する上記納付日の翌日である令和元年11月29日から支払済みの日まで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案において、裁判所は原告の主張のとおり、被告に対し、1,371万2,000円及びこれに対する令和2年8月9日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を原告に支払う旨判示しました(東京地判令和5年7月6日判決(令和2年(ワ)第19535号(確定))。

5.まとめ

国外に納税義務者(制限納税義務者)がいる場合には、相続手続き及び課税関係が複雑になり、また納税義務者間の意思疎通も希薄になりがちです。

被相続人は納税資金の不足が見込まれるときは、生前対策として遺言書を作成するなど所要の措置を講じるとともに、相続開始後、共同相続人はお互いの情報を共有し合い、相続税の申告から納税まで協力して手続きを進めることが肝要といえます。

※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。

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