チェスター相続税実務研究所
ファイナンス・リース取引の相続税の課税関係
2025/03/10
公益社団法人リース事業協会の公表資料(※)によれば、2023年度の年次リース取扱件数は166万件、年次リース取扱⾼は4兆6,299億円となっており、多くの人に利用されています。
(※)2024年5⽉29⽇発表「2023年度 リース年次統計」
では、ファイナンス・リース取引のユーザーに相続が発生した場合、リース資産・リース債務を財産評価上(ユーザーが法人の場合は、その取引相場のない株式の評価における純資産価額の計算上)、どのように取扱うべきでしょうか。
ファイナンス・リース取引は賃貸借的側面と金融的側面を併有する複合的な要素を持つ取引であり、実務においても明確な取扱いが示されておらず判断に迷う論点です。
そこで今回は、ファイナンス・リース取引の相続税の課税関係について、その考え方を紹介します。
この記事の目次 [表示]
1.ファイナンス・リースの仕組み
ファイナンス・リースは、次のような手順で行われます。
① 設備等(リース物件)の選定
② リースの申込み
③ リース契約の締結
④ リース物件の売買契約の締結
⑤ リース物件の搬入
⑥ 物件借受証の発行(リースの開始・リース料支払)
⑦ 物件代金の支払い
⑧ リース物件の保守契約の締結
出典:公益社団法人リース事業協会ホームページ「リース契約の特徴」
2.ファイナンス・リースの特徴とレンタル契約との相違等
- リース物件の選定
レンタルは、賃貸人がもともと保有している特定の商品を取引の対象としていますが、ファイナンス・リースは、ユーザー(賃借人)が選択・決定した物件をリース会社(賃貸人)がユーザー指定のサプライヤー(販売会社)から取得して、それを契約の対象としています。
- 三者間の取引
ファイナンス・リースの場合、取引全体としては、ユーザー、リース会社、サプライヤーの三者が関与することになります。ユーザーとリース会社とのリース契約、リース会社とサプライヤーとの売買契約は、別個の契約ですが、リース物件の引渡し、瑕疵担保責任などに関する条項は密接に関係しています。
- 解約不能
ファイナンス・リースの場合、リース物件の代金は、リース開始時に、リース会社からサプライヤーに全額支払われ、リース会社は、リース期間中に、物件代金と取引に要した諸費用のおおむね全部をユーザーが支払うリース料で回収することを予定しています。したがって、基本的にリース期間中の解約(中途解約)は禁止され、中途解約をする場合には、残期間のリース料またはそれに相当する違約金を一括で支払うよう、契約で定められています。
出典:公益社団法人リース事業協会ホームページ「リース契約の特徴」
3.相続税の課税関係に係る考え方
リース資産・リース債務の相続税の課税関係を導き出すには、リース契約の法形式や経済的実体等に着目し、ユーザーの権利・リース料支払債務の意義(財産性・債務性)及びそれらの相続性を検討することになりますが、次の2つの考え方があります。
【考え方1】
ファイナンス・リースに対し相続税の課税は可能、
財産性・債務性を有し、資産・債務をいずれも評価(計上)する。
この考え方は、税大論叢(注)「ファイナンス・リース取引が行われた場合の相続税の課税関係」(前野康史、平成23年6月28日)において示されたものです。
①ファイナンス・リースの複合的取引及びユーザーの権利からする法的性質、②ファイナンス・リースは一身専属の権利義務であるとはいえず相続性を有する。
これらファイナンス・リース取引の法的性質に着目すれば、リース物件の使用収益権は財産性、リース料支払債務は債務性を有し、かつ、それぞれ相続性が認められることから、相続税については、それらの点をとらえて課税することが可能との説があります(前野康史「ファイナンス・リース取引が行われた場合の相続税の課税関係」税大論叢69号) 。
ただし、いまだ、ファイナンス・リース取引の法的性質を定義する実体法は存在せず、また、リース物件の使用収益権の財産性といった法的性質についても一般的に明らかであるとはいえないため、リース物件の実質的な帰属や課税関係をより明確にする観点からすれば、法人税法等のような立法上の措置を講ずるのが望ましいと補足されています。
(注)「 税大論叢(税務大学校論叢)」とは、税務大学校研究部教授等が執筆した租税・税務会計等に関する研究論文、判例研究、租税資料紹介等を収録したものをいいます。論文等の内容は教授等の一個人としての見解を示したものです。
【考え方2】
ファイナンス・リースは相続財産に含まれない、
財産性・債務性がなく、資産・債務いずれも評価(計上)しない。
この考え方は、国税不服審判所の裁決において示されたものです(平成20年4月22日付非公開裁決TAINS:F0-3-225)。
(1) 事案の概要
被相続人が契約したリース物件のリース契約に基づく支払期日未到来の期間に係るリース料及びリース期間終了後に支払うべき譲渡代金の合計額について、被相続人の債務として、債務控除の対象とすることはできないとされた事例です。
(2) 請求人の主張
請求人らは、ファイナンス・リース契約は物件の購入資金を融資してもらう消費貸借契約であり、所得税及び法人税において、リース物件の引渡しの時に当該リース物件の売買があったものとして計算することとされ、契約時に全額が債務として認識されるものであるから、未払金残高は、相続開始日に現に存する被相続人の債務である旨、また、被相続人がリース物件を売買により取得したとして、リース物件及び追加工事費相当額等を財産の価額に計上すべきである旨を主張しました。
(3) 審判所の判断
これに対し、審判所は、本件契約は賃貸借契約であると認められるとしたうえで、①債務控除及び②相続財産性について、それぞれ次のように明確に否定しました。
①債務控除について
未払金残高のうち相続開始後から貸付期間終了までの期間に係る貸付料及び譲渡代金等は、契約の借主の地位を承継したX(相続人等)の債務であって、被相続人の債務として、相続開始の際、現に存する債務ではないことから、控除すべき債務には当たらない。
②相続財産性について
ファイナンス・リース契約については、課税の公平の観点から、所得税法施行令及び法人税法施行令の規定により、リース物件の売買があったものと法律上擬制して所得税法及び法人税法を計算することとされているところ、これらの規定は、本件契約が賃貸借契約であるという私法上の法律関係に影響を及ぼすものではなく、リース物件を売買により取得したとは認められない。
また、相続税は相続によって取得した財産について課されるものであるところ、リース物件が賃借物件である以上、相続財産に該当する余地はない。
4.結び
納税者にとっては、仮にリース資産の評価額を上回るリース債務額の債務控除が認められれば、相続税が圧縮される可能性があるわけですが、課税庁は本裁決において、原処分に対する請求人の主張が採用されず、原処分の主張が認容されたことから、現状では、相続税の課税上、ファイナンス・リース契約中のリース資産及びリース債務については、資産及び債務を計上しないという立場です。
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