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相続法改正~遺留分侵害額請求権から生じる権利の金銭債権化

2019/10/30

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1 はじめに

今回、昭和55年以来、約40年ぶりに相続法が見直され、平成31年1月から段階的に施行されています。

その改正のうち、「遺留分」に関する改正のポイントは、以下の3点です。

➀遺留分減殺請求権(改正後は「遺留分侵害額請求権」となります。)から生じる権利を金銭債権化
➁受遺者等の請求により裁判所が金銭債務の支払いにつき相当の期限を許与する制度を新設
➂遺留分算定の基礎財産に加える相続人に対する生前贈与を10年以内にされたものに限定

以下では、主に上記の➀について説明いたします。

2 旧法の遺留分減殺請求権の短所

旧法では、遺留分減殺請求権を行使することにより、遺留分権者に所有権等を復帰させる効果があり、相続財産について相続人と遺留分権者との共有関係が生じると考えられていました。それゆえ、被相続人が特定の相続人に相続財産を譲り渡そうと思って、相続財産を特定の相続人に遺贈していたとしても、遺留分権者との共有関係が生じることによって、相続人が相続財産を処分することが困難になってしまうという不都合が生じていました。

このような共有状態をどうするかは、まず当事者で協議することになりますが、当事者間の協議で解決できなければ裁判を利用することになります。ただ、遺留分について裁判を利用する場合には、まず、家庭裁判所に調停を申し立てる必要があります(調停前置主義)。そして、この調停の中で当事者の協議がまとまらなかった場合には、地方裁判所に訴訟を提起することになります。
訴訟に至った場合、旧法では、受遺者・受贈者側に価額弁償の抗弁が認められていたことから、多くのケースにおいては金銭による解決が図られていましたが、依然として共有状態が残ったままの判決となることもありました。

3 新法による遺留分の権利の内容

上記のような旧法による不都合を解消すべく、新法では、遺留分に関する権利行使により生ずる権利を金銭債権化しました。
ただし、遺留分に関する権利自体が金銭債権化されたのではなく、遺留分に関する権利を行使したことによって得られる権利が金銭債権化されたということに注意が必要です。

具体的には、次のようになります。

まず、旧法では、遺留分減殺請求権を行使することによって、遺留分減殺請求権が行使された相続財産の所有権等が遺留分権利者に復帰する効果がありました。そして、これによって、共有状態が生じたわけです。

他方、新法では、遺留分侵害額請求権を行使することによって、金銭債権が発生することとなりました。これによって、改正後は、全て金銭による解決が図られることになります。

なお、遺留分侵害額請求権については、旧法と同様に、短期消滅時効の制度が維持されています。具体的には、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈を知った時から1年間行使しないときには時効消滅することになります(相続開始の時から10年間を経過した場合には除斥期間の経過により消滅することになります。)。

そして、遺留分侵害額請求権を行使したことにより生じる権利は、貸金債権等と同様、通常の金銭債権です。よって、10年間(債権法改正法施行後は5年)の消滅時効に服することになります。

また、遺留分侵害額請求権の行使により生じる債務は、期限の定めのない債務と考えられており、遺留分権利者が受遺者等に対して具体的な金額を示して履行を請求した時から履行遅滞に陥ることになります。

遺留分侵害額請求権行使と金銭債権の履行請求は、同時に行うこともできます。ただ、上記のように、遺留分侵害額請求権の行使については、短期消滅時効(知った時から1年)に服することから、遺留分侵害額請求権行使の時点で具体的な請求額を算定するのは難しいケースもあるかと思われます。よって、遺留分侵害額請求権とそれにより発生する金銭債権を別々に行使するケースの方が多くなると思われます。

他方、受遺者等からすれば、旧法では、価額弁償の抗弁を出さない限り遅延損害金が発生しなかったのですが、新法の下では、金銭債権の行使と同時に遅延損害金が発生します。
そこで、これに対する対策としては、供託のほか、新しく設けられた期限の許与の制度(金銭を直ちに準備できない受遺者を保護するための制度で一定要件を満たす必要があります)を活用することも考えられます。

※本記事は記事投稿時点(2019年10月30日)の法令・情報に基づき作成されたものです。
現在の状況とは異なる可能性があることを予めご了承ください。

※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。

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