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相続税の税務調査が変わる ― KSK2・GSS導入で何が起き、名義預金はどう狙われるのか
見つけやすくなります
2026/08/07
関連キーワード: 税務調査

「相続税の申告書がAIで丸ごと読み取られる」「調査官がその場でパソコンからデータを照会してくる」――こうした話は、実は根拠のない噂ではありません。令和8年(2026年)9月に稼働する国税庁の次世代システム「KSK2」と、令和7年(2025年)9月から順次導入されている「GSS」という2つの新システムに基づく、公表済みの事実です。
本稿では、その内容を正確に整理したうえで、相続税申告で特に狙われやすい「名義預金」への影響と、今からできる備えを解説します。
1.なぜ今、相続税の調査体制が変わるのか
国税庁の基幹システムは平成7年(1995年)の導入から30年以上が経過し、老朽化やデータ形式の限界が課題となっていました。令和8年9月24日には、この基幹システムが次世代版「KSK2(国税総合管理システムの次世代版)」へ全面移行します。あわせて、調査官が使用する業務端末についても、デジタル庁提供の「GSS(ガバメントソリューションサービス)」への切り替えが令和7年9月から順次進んでいます。この2つが組み合わさることで、相続税の税務調査のあり方は大きく変わろうとしています。
2.何が変わるのか:4つのポイント
調査対象選定や調査内容の変更を、根拠となる制度とあわせて整理すると、次のとおりです。
| 調査対象選定や調査内容の変更 | 根拠となる制度 | |
|---|---|---|
| ① | 書面申告がAIで自動読み取り・データ化され、複数税目のデータと横断的に照合される | KSK2 (令和8年9月24日稼働予定) |
| ② | 調査官が現場端末からその場でデータを照会できる。 (調査中に上司や審理担当にリアルタイムで相談できる?) | KSK2+GSS端末 |
| ③ | Web会議での面談やオンラインストレージでの資料授受が標準化される | GSS (令和7年9月〜順次導入) |
| ④ | 調査官との連絡にメールが使えるようになる(事前通知自体は引き続き電話等) | GSS(Outlook) |
特に②については、調査官が現場からその場でシステムに接続し、他の税目のデータや関係者の申告履歴を照会できるようになることで、「この取引は別の会社が払ったはずです」といった曖昧な説明が、その場で確認・反証されやすくなります。従来のように「一旦持ち帰って確認する」時間を活かした対応が難しくなる点は、実務上のもっとも大きな変化といえるでしょう。
なお、「調査中に上司や審理担当にリアルタイムで相談できる」という部分については、公表資料に直接の記載はなく、端末の常時ネットワーク接続という構造から推測される内容です。
3.登記情報・戸籍情報・金融機関情報との照合はどこまで進んでいるか
「法務局の登記情報と照合される」「証券会社などの金融機関情報とも照合される」といった話も耳にしますが、これらは制度ごとに実現の度合いが異なります。
| 照合の対象 | 現在の状況 | 実現時期の目安 |
|---|---|---|
| 不動産登記情報 | 国税庁と法務局のシステム連携により、既にオンラインで照会可能 | 運用中 |
| 死亡届・固定資産税情報 | 市区町村・法務省から国税庁へオンライン通知される仕組みが整備済み | 運用中(令和4年度改正) |
| 証券会社の取引情報 | 口座開設時のマイナンバー取得が義務化され、法定調書で税務署に把握される | 運用中 |
| 銀行預金口座 | 本人の意思による任意のマイナンバー紐付け制度が開始 | 一部運用中(令和7年4月〜) |
| 戸籍情報との自動連携 | 先代名義不動産の相続人を機械的に特定する仕組みは研究・提言段階 | 将来構想 |
特に不動産登記については、国税庁と法務局の間で「登記情報連携システム」を用いた情報提供の合意がすでに交わされており、相続税・贈与税を担当する部署を含む国税庁の複数の部署が、手数料なしで登記の異動情報(所有権移転など)をオンライン照会できる状態にあります。また、証券会社の取引情報は口座開設時のマイナンバー取得が義務化されているため、実質的にはすでに税務署へ把握される仕組みが整っています。
一方で、「先代名義のまま放置されている不動産を、戸籍情報と自動的に結びつけて相続人を特定する」という仕組みは、国税庁職員による研究論文(税務大学校論叢第114号、令和7年6月)でも将来の政策提言として位置づけられており、現時点で稼働している制度ではありません。なお、令和8年2月2日には、相続人が法務局に請求することで被相続人名義の不動産を全国一括でリスト化できる「所有不動産記録証明制度」が始まっており、これは相続人自身が財産を把握するための便利な制度です。
4.相続税実務で特に狙われやすい「名義預金」
相続税の実地調査において、名義預金は従来から重点的にチェックされる項目でしたが、KSK2による税目横断的なデータ統合は、その発見のタイミングを大きく前倒しする効果を持ちます。相続開始直前に被相続人の口座から家族口座へ多額の資金移動があるケースや、専業主婦・学生など本人の収入水準では説明のつかない多額の預金があるケースは、実地調査に入る前の段階で、システム上のスクリーニングによって抽出されやすくなるといわれています。
もっとも、名義預金に該当するかどうかの判断基準そのものは変わりません。単なる口座名義ではなく、次の4つの要素を実質的に見て判断する、という実務上確立された枠組みは、KSK2導入後も維持されます。
| 要素 | 調査ポイント | AI・データ化による変化 |
|---|---|---|
| ①資金の出所 | その預金の原資は誰が稼いだお金か | 被相続人の生涯収入と家族口座残高の不整合を、実地調査前に検知しやすくなる |
| ②管理支配権 | 通帳・印鑑・カード・暗証番号を誰が管理していたか | AIでは判定できず、実地確認・ヒアリングに依存 |
| ③贈与の認識 | 名義人が自分の財産だと認識していたか | 同上。人による事実認定が引き続き必要 |
| ④利益の帰属 | 口座資金が最終的に誰のために使われたか | 同上。ただし資金使途データの突合余地は広がる |
つまり、AI・データ分析が変えるのは「どの申告を調べるべきか」という入口の部分であり、「名義預金に該当するか否か」という実体判断は、引き続き調査官による事実認定に委ねられています。
5.今からできる対策
① 家族全員の口座履歴を確認する
被相続人本人だけでなく、配偶者・子・孫名義の口座についても入出金履歴を確認し、資金移動のタイミングや金額の一致を洗い出しておくことが重要です。名義預金の実質判定に法律上の遡及期限はなく、「10年」はあくまで実務上の目安にすぎません。資金の性質や金額規模によっては、より長期間の確認が必要になる場合もあります。
② 見つかった資金移動は「選別的に」申告へ反映する
洗い出した資金移動のうち、通帳・印鑑の管理状況や贈与の認識といった要素から見て名義預金と説明できないものは、遺産総額へ計上するのが原則です。ただし、名義人が実際に自由に使っていた実態がある等、真正な贈与と評価できるものまで機械的にすべて計上してしまうと、かえって過大な相続税につながるおそれもあります。4つの要素に照らして丁寧に見極めることが大切です。
③ 書面添付制度を活用する
税理士法33条の2に基づく書面を申告書に添付し、名義預金の精査結果を具体的に記載することで、税務署に対して事前に「専門家による確認済み」であることを示すことができます。これにより、意見聴取や実地調査そのものが省略される可能性を高めることができます。
④ 不動産の把握漏れがないか確認する
先代名義のまま放置された不動産がないか、所有不動産記録証明制度などを活用して確認しておくことも有効です。登記情報は国税庁側でも照会できる体制が整っているため、申告漏れは発見されやすい前提で財産調査を行うことが望ましいといえます。
まとめ
相続税の調査体制は、KSK2・GSSという2つの制度改正により、「調査に入られてから対応する」時代から、「データ上の矛盾をあらかじめ解消した、精度の高い申告書を作る」時代へと移行しつつあります。特に名義預金については、AIによる検知の入口が前倒しされる一方で、実体判断の基準自体は変わらないという点を正しく理解し、申告前の丁寧な財産調査と、専門家による書面添付制度の活用が、これまで以上に重要になります。
税理士法人チェスターでは、こうした最新の制度動向を踏まえた相続税申告・税務調査対応をご提案しています。申告内容にご不安のある方は、お気軽にご相談ください。
出典・参考情報
- 国税庁「税務行政におけるオンラインツールの利用について」/「調査等におけるオンラインツールの利用について」
- 国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」
- 国税庁「登記情報連携システムを用いた登記情報の提供に関する合意書」(法務省民事局/国税庁各課)
- 酒井秀行「相続手続等の簡素化・効率化に向けた考察-相続税申告手続を中心として-」税務大学校論叢第114号(令和7年6月)
- 法務省「所有不動産記録証明制度について」(令和8年2月2日施行)
- その他KSK2・GSSに関する専門家解説記事
※本稿は公開情報に基づく解説であり、個別の税務判断を保証するものではありません。掲載時点で公表資料に明記のない推測を含む記述は、本文中でその旨を明示しています。
※本記事は記事投稿時点(2026年8月7日)の法令・情報に基づき作成されたものです。
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