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贈与税の納税猶予における暦年課税と相続時精算課税

2022/04/01

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1 はじめに

従来は、非上場株式等についての贈与税の納税猶予と相続時精算課税(※1)との併用を禁止する規定がありましたが、平成29年度税制改正によって、その併用禁止規定(改正前租税特別措置法70条の7第3項)が削除され、調整規定(租税特別措置法70条の7第13項に9号と10号が設置)が設置されるにとどまりました。

それゆえ、現在では、非上場株式等についての贈与税の納税猶予と相続時精算課税の併用が可能となりました。また、平成30年度税制改正で設置された特例措置においても、同様に相続時精算課税制度との併用が可能となっています(租税特別措置法70条の7第2項第5号ロ、70条の7の5第2項第8号ロ)。

これらの制度を併用した場合、次のようなメリットがあります。

贈与税の納税猶予の期限が確定した場合には、特例経営承継受贈者(後継者)に高額な贈与税負担といったリスクが生じる可能性がありますが、相続時精算課税と併用することによりリスクが大幅に軽減されます。具体的には、贈与者が死亡した時の相続税額が、暦年課税(※2)を選択した場合の贈与税額よりも小さくなり、実質的には、利子税のみのリスクとなります。

※1:相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の父母又は祖父母から、18歳以上(贈与が令和4年3月31日以前の場合は20歳以上)の子又は孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度のことです。ただ、この制度を選択すると、その選択に係る贈与者から贈与を受ける財産については、その選択をした年分以降全てこの制度が適用され、「暦年課税制度」へ変更することはできません。
※2:暦年課税制度とは、1人の人が1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額から基礎控除額の110万円を差し引いた残りの額に対して贈与税が課される制度のことです。

2.相続時精算課税と非上場株式等についての贈与税の納税猶予制度の比較

(1)共通点

相続時精算課税や非上場株式等についての贈与税の納税猶予制度を適用した場合には、贈与財産について、贈与者の死亡時に贈与時の時価で相続したものとみなして相続税が計算される点で、両制度は共通しています。

(2)相違点

贈与税の納税猶予制度については、贈与後の不幸な事態について、次のような救済規定を設けている点で相続時精算課税制度と異なります。

ⅰ)事業継続が困難な事由が生じた場合の猶予税額の減免規定(特例措置のみ)
ⅱ)受贈者(子)が先代経営者(親)よりも先に死亡した場合に猶予税額を全額免除する規定

3.贈与税の納税猶予制度適用時における相続時精算課税と暦年課税との比較

(1)事業継続が困難な事由が生じた場合の減免特例について

ⅰ)暦年課税の場合

納税猶予適用対象株式を譲渡することにより納税猶予の期限が確定した時に、事業継続が困難な事由が生じた場合には、減免措置が適用されます。具体的には、譲渡時の株価で納税猶予額が再計算されて、当初の納税猶予額と再計算納税猶予額の差額が免除となります。このように減免された贈与税額を納付することで課税関係は確定し、贈与財産が相続税の課税対象となることはありません(租税特別措置法70条の7の3第1項本文)。

ⅱ)相続時精算課税制度を選択している場合

納税猶予対象株式を譲渡することにより納税猶予の期限が確定した時には、事業承継税制が適用されるのではなく、相続時精算課税だけを適用している状態に戻ることになります。とすると、贈与者の死亡した時には、贈与財産が贈与時の時価で相続財産に加算されることになり、「課せられた贈与税」が控除されることから、免除された贈与税額を含めて控除されると推測します(相続税法第21条の15第3項、第21条の16第4項、相続税法基本通達21条の15-3、21の16-1)。

ⅲ)両者の比較

相続時精算課税を選択した場合には、みなし相続課税を受けるという点では暦年課税の場合よりも不利になりますが、免除された贈与税も含めて相続税から控除できるのであれば、減免の効果が一定程度認められます。

(2)受贈者(子)が先代経営者である贈与者(親)よりも先に死亡した場合

ⅰ)暦年課税の場合

受贈者の相続人に対して受贈者が保有していた自社株式についての相続税課税が開始されるのみです。
その後、贈与者が死亡した時には、贈与財産(当該自社株式)が相続税の課税対象となることはありません。

ⅱ)相続時精算課税制度を選択している場合

受贈者の相続人に対して受贈者が保有していた自社株式についての相続税課税が開始されます。
ただ、その後、贈与者が死亡した時には、贈与財産(当該自社株式)が相続税の課税対象となり(相続税法21条の17「相続時精算課税に係る相続税の納付義務の承継等」)、この相続税計算においては、当初に課せられた贈与税の全額が控除されると推測します。

(3)暦年課税制度と相続時精算課税制度の相違点

以上のように、「暦年課税による贈与税の納税猶予」と「相続時精算課税制度を併用したときの贈与税の納税猶予制度を併用した場合」とでは、上記の2点(「事業継続が困難な事由が生じた場合」、「贈与者よりも受贈者が先に亡くなった場合」)で「相続時精算課税制度を併用したときの贈与税の納税猶予制度」の方が不利といえます。
ただし、実際にどの程度のものかについては、個々の計算事例によることから、その有利不利については、直ちに判定できない状況となっています。

4.相続時精算課税の適用を受けていたことに伴う納税に係る権利・義務の承継

《具体例》
先代経営者(父)が、その長男である後継者に第1種特例贈与をしていたが、相続時精算課税の適用を受けて納税が猶予されていた。その後、父よりも先に後継者である長男が死亡。長男の法定相続人は、長男の妻と子(先代経営者から見ると孫)であった。なお、先代経営者(父)の配偶者は、父が長男に贈与した時点で既に死亡していたこととする。

上記のように、贈与者である先代経営者(父)よりも、その長男である後継者が先に死亡した場合には、相続時精算課税適用者(後継者・長男)の相続人(長男の妻と子)は、相続時精算課税適用者が相続時精算課税の適用を受けていたことに伴う納税に係る権利又は義務を承継します(相続税法21条の17)。

そして、後継者(長男)が死亡した後に、その特定贈与者である先代経営者(父)が死亡した場合には、相続時精算課税適用者の相続人(長男の妻と子)が、その相続時精算課税適用者(長男)に代わって、特定贈与者(父)の死亡に係る相続税の申告をすることになります。

なお、相続時精算課税適用者(長男)の死亡に係る相続税額の課税価格の計算において、この相続時精算課税の適用に伴う納税義務については、債務控除の対象とはなりません。

※本記事は記事投稿時点(2022年4月1日)の法令・情報に基づき作成されたものです。
現在の状況とは異なる可能性があることを予めご了承ください。

※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。

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