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令和元年度税制改正~相続税法等改正のポイント~
1 はじめに
令和元年度税制改正においては、相続法や民法の改正に伴って相続税法が改正されたり、租税特別措置法(相続税・贈与税関係)の改正によって納税猶予制度の創設や見直しが行われたりしました。
【相続税法の改正】
Ⅰ 民法(相続法)の改正に伴う見直し
ⅰ)配偶者居住権の創設に伴う改正
ⅱ)特別寄与料の創設に伴う改正
ⅲ)遺留分減殺請求の改正に伴う所要の整備
Ⅱ 民法(成年年齢)の改正に伴う見直し
ⅰ)未成年控除の改正
ⅱ)相続時精算課税の改正
Ⅲ 添付書類の見直し
【租税特別措置法(相続税・贈与税関係)の改正】
Ⅰ 個人の事業用資産についての納税猶予制度の創設
ⅰ)贈与税の納税猶予制度
ⅱ)相続税の納税猶予制度
Ⅱ 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の見直し
Ⅲ 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の改正
Ⅳ 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の改正
Ⅴ 農地等に係る納税猶予制度等の見直し
Ⅵ 非上場株式等に係る納税猶予制度の見直し
これらの改正について、主なものについて以下で簡単に説明します。
2 配偶者居住権の創設に伴う改正
(1)配偶者居住権等の評価額
相続法改正のうちの1つに「配偶者居住権」の新設があり、配偶者居住権は、残された高齢の配偶者が住み慣れた住環境での生活を継続しつつ、その後の生活資金を確保するために創設されました(2020年4月1日施行)。これに伴い、令和元年度税制改正において、配偶者居住権及びその敷地利用権等の評価方法が相続税法第23条の2に法定されました。
配偶者居住権等の評価額は以下のようになります。
➀配偶者居住権
建物の時価―建物の時価×(残存耐用年数―存続年数)/残存耐用年数×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率
➁配偶者居住権が設定された建物(以下「居住建物」とします。)の所有権
建物の時価―配偶者居住権の価額
➂配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利
土地等の時価―土地等の時価×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率
➃居住建物の敷地の所有権等
土地等の時価―敷地の利用に関する権利の価額
(2)物納劣後財産の範囲
物納劣後財産とは、他に物納に充てるべき適当な財産がない場合に限り物納に充てられる財産のことです(国税庁㏋「№4214相続税の物納」)
その物納劣後財産の範囲に、配偶者居住権が設定された建物及びその敷地が加えられました。
(3)適用関係
令和2年4月1日以後に開始する相続により取得する財産に係る相続税について適用されます(改正法附則1七ロ、改正相令附則➀二)。
3 特別寄与料の創設に伴う改正
相続法の改正により、相続人以外の者の貢献を考慮するための方策として特別寄与料が創設されました。これに伴って、相続税法が以下のように改正されました。
➀特別寄与者が支払を受けるべき特別寄与料の額が確定した場合には、当該特別寄与者が、当該特別寄与料の額に相当する金額を被相続人から遺贈により取得したものとみなして、相続税を課税することとされました。
➁上記➀の事由が生じたため新たに相続税の申告義務が生じた者は、当該事由が生じたことを知った日から10月以内に相続税の申告書を提出しなければならないこととされました。
➂相続人が支払うべき特別寄与料の額は、当該相続人に係る相続税の課税価格から控除することとされました。
➃相続税における更正の請求の特則等の対象に上記➀の事由が加えられました。
《適用関係》
令和元年7月1日以後に開始する相続に係る相続税について適用されます(改正法附則1三ロ)。
4 遺留分減殺請求の改正に伴う所要の整備
相続法の改正により遺留分制度の見直しが行われ、遺留分に関する権利の行使によって遺留分侵害額に相当する金銭債権が生じることする等の改正が行われました。これに伴って、相続税法が改正され、更正の請求の特則等について所要の措置を講ずることとされました。
《適用関係》
令和元年7月1日以後に開始する相続に係る相続税又は贈与税について適用され、同日前に開始した相続に係る返還すべき、又は弁償すべき額に係る相続税又は贈与税については、従前どおりとされています(改正法附則23④)。
5 民法の成年年齢の改正に伴う見直し
民法の成年年齢が20歳から18歳に改正されたことに伴い、相続税法においても、以下のような改正が行われました。
(1)未成年控除の改正
相続税の未成年者控除の対象となる相続人の年齢が「20歳未満」から「18歳未満」に引き下げられました。
(2)相続時精算課税の改正
相続時精算課税制度における受贈者の年齢要件が「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げられました。
(3)その他
租税特別措置法における以下の措置についても、受贈者の年齢要件が「20歳」から「18歳」に引き下げられました。
➀直系尊属から贈与を受けた場合の贈与税の税率の特例(租税特別措置法70の2の5)
➁相続時精算課税適用者の特例(租税特別措置法70の2の6)
➂非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除(租税特別措置法70の7)
④非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例(租税特別措置法70の7の5)
《適用関係》
上記(1)の改正は、令和4年4月1日以後に相続又は遺贈により取得する財産に係る相続税について適用され、同日前に相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税については、従前どおりとされています(改正法附則23➀)。
なお、すでにこの控除を受けたことがある場合には、次の相続の際に控除できる額は、前回の控除不足額の範囲内に限定されますが、この特例として経過措置が設けられています(改正法附則23➁)。
上記(2)の改正は、令和4年4月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税について適用され、同日前に贈与により取得した財産に係る贈与税については従前どおりとされています(改正法附則23➂)。
6 添付書類の見直し
以下の書類については、住民票の写し等の添付を要しないこととされました。
➀障害者非課税信託申告書(旧相規2二)
➁相続時精算課税選択届出書(旧相規11➀二、➁三)
《適用関係》
上記➀の改正は、平成31年4月1日から適用されます(改正相規附則1)。
上記➁の改正は、令和2年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税について適用され、同日前に贈与により取得した財産に係る贈与税については、従前どおりとされています(改正相規附則2)。
7 個人の事業用資産について贈与税の納税猶予制度の創設
特例事業受贈者(18歳《令和4年3月31日までの贈与については20歳》以上である者に限る。)が、平成31年1月1日から令和10年12月31日までの間に、贈与により特定事業用資産を取得し、事業を継続していく場合には、担保の提供を条件に、その特例事業受贈者が納付すべき贈与税額のうち、贈与により取得した特定事業用資産の課税価格に対応する贈与税の納税が猶予されることとなりました。
《適用関係》
平成31年1月1日以後に贈与又は相続若しくは遺贈により取得する特定事業用資産に係る贈与税又は相続税について適用されます(改正法附則79⑪⑬)。
8 個人の事業用資産について相続税の納税猶予制度の創設
特定事業相続人等が、平成31年1月1日から令和10年12月31日までの間に、相続等により特定事業用資産を取得し、事業を継続していく場合には、担保の提供を条件に、その特例事業相続人等が納付すべき相続税額のうち、相続等により取得した特定事業用資産の課税価格に対応する相続税の納税が猶予されることとなりました。
《適用関係》
平成31年1月1日以後に贈与又は相続若しくは遺贈により取得する特定事業用資産に係る贈与税又は相続税について適用されます(改正法附則79⑪⑬)。
9 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の見直し
相続開始前の駆け込み的な事業供用による特例の不正利用を防止すべく、特定事業用宅地等の範囲から、相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地等(その宅地等の上で事業の用に供されている減価償却資産の価額が、その宅地等の相続時の価額の15%以上である場合を除きます。)が除外されました。
《適用関係》
平成31年4月1日以後に相続又は遺贈により取得する財産に係る相続税について適用され、同日前に相続又は遺贈により取得した財産に係る相続税については、従前どおりとされています。ただし、同日前から事業の用に供されている宅地等については、適用されません(改正法附則79➀➁)。
10 直系尊属から教育資金及び結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の改正
直系尊属から教育資金及び結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置については、適用年限が2年延長されました(令和3年(2021年)3月31日まで)。その一方で、以下のような縮減措置がとられています。
(1)教育資金の一括贈与に関する縮減措置
①信託等をする日の属する年の前年の受贈者の合計所得金額が1,000万円を超える場合には、当該信託等により取得した信託受益権等については、本措置の適用を受けることができないこととされました。
➁教育資金の範囲から、学校等以外の者に支払われる金銭で受贈者が23歳に達した日の翌日以後に支払われるもののうち、教育に関する役務提供の対価、スポーツ・文化芸術に関する活動等に係る指導の対価、これらの役務提供又は指導に係る物品の購入費及び施設の利用料が除外されます。ただし、教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講するための費用は除外しません。
➂信託等をした日から教育資金管理契約の終了の日までの間に贈与者が死亡した場合(その死亡の日において次のいずれかに該当する場合を除きます。)において、受贈者が贈与者からその死亡前3年以内に信託等により取得した信託受益権等について本措置の適用を受けたことがあるときは、その死亡の日における管理残額を、受贈者が贈与者から相続又は遺贈により取得したものとみなされます。
ⅰ)受贈者が23歳未満である場合
ⅱ)受贈者が学校等に在学している場合
ⅲ)受贈者が教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講している場合
④教育資金管理契約の終了事由について、受贈者が30歳に達した場合においても、その達した日において、上記➂のⅱ又はⅲのいずれかに該当するときは教育資金管理契約は終了しないものとされ、その達した日の翌日以後については、その年12月31日又は受贈者が40歳に達する日のいずれか早い日に教育資金管理契約が終了するものとされました。
《適用関係》
上記➀及び➂の改正は、平成31年4月1日以後に取得する信託受益権等に係る贈与税について適用され、同日前に取得した信託受益権等に係る贈与税については、従前どおりとされています(改正法附則79➂)。
なお、上記➂の改正について、平成31年4月1日前に贈与者から取得した信託受益権等については、管理残額の計算上、贈与者の相続開始前3年以内に取得したものには含まれません(改正措令附則38➁)。
上記➁の改正は、令和元年7月1日以後の教育資金の支出について、上記④の改正は同日以後30歳に達する受贈者について適用されます(改正法附則1三)。
(2)結婚・子育て資金の一括贈与に関する縮減措置
➀信託等をする日の年の前年の受贈者の合計所得金額が1,000万円を超える場合には、当該信託等により取得した信託受益権等については、本措置の適用を受けることができないこととされました。
《適用関係》
平成31年4月1日以後に取得する信託受益権等について適用され、同日前に取得した信託受益権等については、従前どおりとされています(改正法附則79➄)。
11 非上場株式等に係る納税猶予制度の見直し
➀贈与税の納税猶予における受贈者の年齢要件が20歳から18歳に引き下げられました。
➁一定のやむを得ない事情により認定承継会社等が資産保有型会社・資産運用型会社に該当した場合でも、その該当した日から6ケ月以内にこれらの会社に該当しなくなったときは、納税猶予の取消事由に該当しないものとされました。
➂非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予の適用を受ける場合には贈与税の納税猶予の免除届出の添付書類を不要とする等、手続きが簡素化されました。
《適用関係》
上記➀の改正は、令和4年4月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税について適用されます。上記➁の改正は、平成31年4月1日以後に上記➁の事由が生じる場合について適用されます。上記➂の改正は、平成31年4月1日以後に提出する贈与税の免除届出書について適用されます。
※本記事は記事投稿時点(2019年9月20日)の法令・情報に基づき作成されたものです。
現在の状況とは異なる可能性があることを予めご了承ください。
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