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新型コロナの影響による役員給与減額~定期同額給与への該当性

2020/06/15

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1 はじめに

 新型コロナウィルス感染症が影響して売り上げが減少する法人は、色々な対策を打つことになりますが、その中の一つとして、役員給与を減額する動きが広がっています。
 もっとも、役員にも生活があることから、新型コロナ感染症の影響が止んだのであれば、すぐにでも役員給与額を元に戻したいところです。
 そこで、このような役員給与の減額改定や、減額改定後の増額改定などのケースについて、「定期同額給与」に該当するのかが問題となっています。というのも、定期同額給与に該当すれば損金算入できますが、該当しないということであれば損金不算入となるからです。

 では、まず、定期同額給与について簡単に説明します。

2 定期同額給与とは

(国税庁HP「№5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」)

法人が支給する役員給与のうち、「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」のいずれにも該当しないものの額は損金に算入されません。もっとも、これらに該当する場合であっても、不相当に高額な部分の金額については損金に算入されません。

ここで、「定期同額給与」とは、以下のような内容の給与を指します。

➀支給時期が1か月以下の一定の期間ごとである給与(定期給与)で、その事業年度の各支給時期における支給額又は支給額から源泉税等の額を控除した金額が同額であるもの
➁定期給与の額について、次のような改定(給与改定)がされた場合におけるその事業年度開始の日又は給与改定前の最後の支給時期の翌日から給与改定後の最初の支給時期の前日又はその事業年度終了の日までの間の各支給時期における支給額又は支給額から源泉税等の額を控除した金額が同額であるもの

イ)その事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月(確定申告書の提出期限の特例に係る税務署長の指定を受けた場合にはその指定に係る月数に2を加えた月数)を経過する日(3月経過日等)まで(継続して毎年所定の時期にされる定期給与の額の改定で、その改訂が3月経過日等後にされることについて特別の事情があると認められる場合にはその改訂の時期まで)にされる定期給与の額の改定

ロ)その事業年度においてその法人の役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情(臨時改定事由)によりされたこれらの役員に係る定期給与の額の改定(イの改定を除く)

ハ)その事業年度においてその法人の経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由(業績悪化改定事由)によりされた定期給与の額の改定(その定期給与の額を減額した改定に限られ、イ及びロの改定を除く)

➂継続的に供与される経済的利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの

定期同額給与について簡単に説明しましたが、新型コロナ感染症の影響を受けた場合について、国税庁では、上記➁ハの「業績悪化改定事由」に該当する2つの事例を挙げており、基本的には、弾力的に対応するものと思われます。

それでは、以下では、業績悪化改定事由に該当する事例などを挙げながら、簡単に説明いたします。

3 業績が悪化した場合に行う役員給与の減額の場合

《事例》

A社は、各種イベント開催を請け負う事業を行っています。新型コロナウィルス感染症の感染拡大防止のため、各種イベント等の開催中止が要請され、A社が請け負っていたイベントの全ての契約がキャンセルとなってしまいました。これによって、A社の売上は激減し、毎月の家賃の他、従業員の給与などの支払も困難な状況に陥りました。そこで、A社としては、役員給与の減額を検討しています。

〇上記のような事情でA社の役員給与を減額した場合、この役員給与は定期同額給与に該当し、損金算入できるでしょうか。それとも、年度の中途での役員給与の減額は定期同額給与に該当せず損金不算入となるのでしょうか。

この場合、A社の役員給与の減額改定は、「業績悪化改定事由」による改定に該当し、改定前に定額で支給していた役員給与と改定後に定額で支給する給与は、それぞれ定期同額給与に該当し、損金算入されることになります。

ここで、「業績悪化改定事由」とは、経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があることを指します。
よって、A社のように、請け負っていた契約が全てキャンセルになり業績が急激に悪化し、家賃や給与などの支払も困難となり、役員給与を減額せざるを得ない状況にある場合は、「業績悪化改定事由」に該当することになります。

4 業績の悪化が見込まれるために行う役員給与の減額の場合

《事例》

B社は、旅館業と土産物販売業を行っています。新型コロナウィルス感染症の影響により外国からの入国制限や外出自粛要請が行われ、現在観光客が激減しており、今後、観光客の数が元通りに回復する見込みも立たない状態です。B社としては、現在、営業時間短縮、従業員の出勤調整などにより事業活動を縮小しており、今後、さらに売り上げが減少する可能性もあることから、更なる経費削減等の経営改善を図る必要が生じています。従業員の雇用を維持するためにも、B社としては、まず、役員給与の減額を行うことを検討しています。

〇B社のように、まだ経営が著しく悪化していないが、今後、業績の悪化が見込まれるような場合に行う役員給与の減額改定については、業績悪化改定事由による改定に該当するのでしょうか。

B社の現状としては、売上などの数値的指標が著しく悪化していないとしても、新型コロナウィルス感染症の影響による入国制限や外出自粛要請により、人や物の動きが停滞し、B社が営業を行う地域では観光需要の著しい減少が見受けられます。また、感染拡大が防止されない限り、減少した観光客等が回復する見通しも立たない状況です。これらの事情を併せ考えると、現時点において、B社の経営環境は著しく悪化していると考えられます。
それゆえ、現時点で、何らかの経営改善策を講じなければ、客観的状況から判断して、B社の財務状況は急激に悪化する可能性が高く、今後の経営状況が著しく悪化することは不可避といえます。
とすれば、B社のような事情がある場合における役員給与の減額改定は、「業績悪化改定事由」に該当するといえます。

5 業績悪化改定事由による減額改定後、同一事業年度中に元の水準に戻す増額改定の場合

《事例》

C社は飲食業を行っています。新型コロナウィルス感染症の影響により休業要請を受け、売上が激減したため、役員給与を月額100万円から月額60万円に減額改定しました(改定1)。ただ、その後、新型コロナウィルス感染症の影響も止んだことで客足が戻り売上も回復し始めたため、同一事業年度中に役員給与を月額100万円に戻しました(改定2)。

〇まず、上記の改定1については、A社・B社と同様の理由から「業績悪化改定事由」に該当するものと考えられます。他方、改定2は増額改定であり、売上が回復していることから「業績悪化改定事由」には該当しないと考えらえます。

また、「臨時改定事由」に該当する改定であれば、定期同額給与となるところ、改定2については、「臨時改定事由」にも該当しません。というのも、上記の事例の場合は、臨時改定事由の「役員の職制上の地位の変更」「役員の職務の内容の重大な変更」のような事情はないからです。

よって、C社の役員給与改定は、定期同額給与に該当せず、増額改定後の金額のうち、改定前の金額を超える部分の金額は損金不算入となります。

(ただし、「通常改定」に基づく改定の場合は、取り扱いが異なります。本コラムの7をご参照下さい。)

《具体例》
1月から3月まで役員給与が月額100万円だったとします。この給与額が改定されて、4月から9月までの6ケ月間は月額60万円となりましたが、その後、増額改定されて、10月から12月の3ケ月は月額100万円となったとします。
この場合、増額改定後の100万円のうち、改定前の金額である60万円を超える部分の金額(40万円)については、損金不算入となります。
→10月から12月までの毎月40万円分については損金不算入(40万円×3ケ月=120万円の損金不算入)
→1月から3月までの毎月100万円分と4月から12月までの毎月60万円については損金算入(100万円×3ケ月+60万円×9ケ月=840万円の損金算入)

6 減額改定後、同一事業年度中に2度目の減額改定をした場合

《事例》

D社は建設業を行っています。新型コロナウィルス感染症の影響による建築資材が入手困難となり、売上が激減しました。そこで、経営改善の一環として役員給与を減額しました。その後、新型コロナウィルス感染症の第二波が来たため、再び、緊急事態宣言が発令され、さらに売上が激減する結果となりました。

〇上記のD社のように同一事業年度中に、2度目の減額改定をすることも考えられます。この場合も「更なる環境の悪化」が生じたといえるのであれば、業績悪化改定事由に該当する余地もあります。ただ、役員給与の改定は、通常、同一事業年度中に一度であることから、みだりに定期給与額を改訂することは望ましくありません。

7 「通常改定」に基づく役員給与改定の場合

以上は、業績悪化事由による役員給与の改定についての取り扱いです。

一方、役員給与の改定方法としては、「通常改定」に基づく改定もあります。これは、「事業年度開始日の属する会計期間開始の日から3カ月経過日等」までに行う増額・減額改定であり、一定の期間内に行われるものであれば、「通常改定」として定期同額給与に該当することとされています。

今回の新型コロナウィルス感染症拡大の時期は2月中旬から5月末頃にかけての期間ですので、ちょうど、2月又は3月決算法人の「通常改定」の時期とおおむね一致することになります。 そのため、例えば3月決算法人が、新型コロナウィルス感染症拡大の影響を鑑み、4月に行われた取締役会で4・5月分の役員給与について減額改定を行った場合は、「通常改定」として取り扱うことができ、定期同額給与に該当することになります。さらにその上で、緊急事態宣言解除後の6月に定期株主総会を開催し、増額改定を行った場合でも、「通常改定」として認められる期間内であれば、増額部分が発生する場合であってもその前後の役員給与について「定期同額給与」に該当することとなります。つまり、「通常改定」の期間内であれば、複数回の改定を行っても問題ではないということです。通常このような短期間で役員給与の改定が行われることは想定されていないため、例外的なケースにはなりますが、税務上の取り扱いは上記のようになります。

8 終わりに

新型コロナウィルス感染症の影響は今後も長引くことが考えられます。役員給与の減額については、以上のような取扱いを踏まえた上で、検討していくことになります。

※本記事は記事投稿時点(2020年6月15日)の法令・情報に基づき作成されたものです。
現在の状況とは異なる可能性があることを予めご了承ください。

※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。

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