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2025年問題が相続税申告に与える影響

「2025年問題」とは、人口のボリュームゾーンである団塊世代が、全員75歳以上の「後期高齢者」となり(日本の人口の5人に1人が「後期高齢者」となります。)、雇用、医療、福祉といった日本経済や社会の広い領域に深刻な影響を及ぼすことを指します。
また、その背景にあるのは、急速に進む少子高齢化と言われています。
そして、「2025年問題」は、相続税申告にも大きな影響を与え得ると考えられます。
そのことを、相続税の特例の一つである小規模宅地等の特例(措法69の4)(以下「本件特例」といいます。)を例に、ご説明したいと思います。
1.本件特例の概要
本件特例は、個人が、相続や遺贈によって取得した財産のうち、その相続開始の直前において被相続人または被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族(「被相続人等」といいます。)の事業の用または居住の用に供されていた宅地等で、一定の要件を満たす場合には、その宅地等のうち一定の面積までの部分については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、次表に掲げる区分ごとにそれぞれに掲げる割合が減額される制度です。

出典:国税庁HP「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
2.特定居住用宅地等の概要
本件特例の適用を受けられる宅地等のうちの特定居住用宅地等(上記1.の表の⑥)とは、相続開始の直前において被相続人等の居住の用に供されていた宅地等をいい、一定の要件に該当する相続人が特定居住用宅地等を相続等により取得した場合は、本件特例の適用を受けられることになります。
(国税庁HP「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」)
なお、この一定の要件には、被相続人との「同居」や「生計を一にする」という要件が課されており、その理由は、被相続人と共通の生活基盤を築いていた相続人の生活基盤維持への配慮と説明されています(DHCコンメンタール相続税法Digitalより)。
3.「2025年問題」が本件特例に与える影響
日本の人口の5人に1人が「後期高齢者」となり、更に少子化が進むとなりますと、親と子で共通の生活基盤を築くという日本の「家制度」的な家族形態は一層失われ、かつ、親から子への相続は、高齢者どうしでの「老老相続」となることが確実です。
そのような中、「老老相続」の当事者(親と子)は、それぞれが既に生活基盤を築いている可能性が高く、相続に際し、被相続人との「同居」や「生計を一にする」という特定居住用宅地等の要件を満たせない可能性が高まりますので、結果、親から子への相続に際しては、本件特例が適用できないケースが増加していくように思えます。
※被相続人の配偶者がご存命で、配偶者がご自宅を相続した場合は、一旦、本件特例(特定居住用宅地等)の適用を受けることが可能ですが、二次相続が発生した際に同様の問題が生じ得ます。
4.本件特例のうち有効活用を検討すべきは貸付事業用宅地等
昔は、子に住まいの心配をさせないよう、親から子に自宅を引き継ぐことが美徳とされてきました。
しかし、最近は、子は既に自宅を所有していて、親から老朽戸建住宅を引き継いでも、維持費やリフォーム費用の負担が大きく、そのまま貸すにも貸せず、処分しようにも高くは売れず、場合によっては買い手もつかないといったケースが多く見受けられます。
その上、親の相続が開始し、相続税の申告をする際に本件特例が適用できないとなれば、相続税の負担感から、老朽戸建住宅が、負の遺産のように感じられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
同様に、本件特例のうちの事業用宅地等(個人の自営業者の方の店舗の敷地のイメージです)についても、高齢化でお店がシャッター化し、又は後継者がいなければ、特例を適用できなくなるのは特定居住用宅地等と同様です。
そういう意味で、利便性の高いエリアの賃貸マンションなどは、収益性や処分性の面で優れており、相続税申告においても本件特例(貸付事業用宅地等(※1))の要件を満たす可能性が高く、土地の面積も少ないことから、リスク(マンション通達(※2)の適用、3年以内貸付宅地等(※1)や財産評価基本通達総則6項(※3)の適用リスク)はあるものの、普通に考えれば、相続税の課税上、有利な資産ということができます。
したがって、今後、相続税の生前対策をご検討する上では、換価しやすい金融資産で納税資金を確保しつつ、相続税の申告面で有利な貸付事業用宅地等の適用を受けられる不動産を中心とした資産構成を目指すことが、得策ではないでしょうか。
なお、相続開始直前にこの対策を講じますと、3年以内貸付宅地等(※1)や財産評価基本通達総則6項(※3)の適用リスクが急激に高まりますので、相続税の生前対策は、無理なく早めに講じることが肝要でしょう。
(※1)貸付事業用宅地等とは、相続開始の直前において被相続人等の事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業および準事業(注1)に限ります。以下「貸付事業」といいます。)の用に供されていた宅地等(その相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(「3年以内貸付宅地等」といいます。以下同じです。)(注2)を除きます。)で、次の表の区分に応じ、それぞれに掲げる要件のすべてに該当する被相続人の親族が相続または遺贈により取得したものをいいます(次の表の区分に応じ、それぞれに掲げる要件のすべてに該当する部分で、それぞれの要件に該当する被相続人の親族が相続または遺贈により取得した持分の割合に応ずる部分に限られます。)。

(注1)「準事業」とは、事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うものをいいます。
(注2)相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等であっても、相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業(貸付事業のうち準事業以外のものをいいます。以下同じです。)を行っていた被相続人等のその特定貸付事業の用に供された宅地等については、3年以内貸付宅地等に該当しません。
(国税庁:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例))
(※2)令5課評2-74「居住用の区分所有財産の評価について」(法令解釈通達)
(※3)財産評価基本通達(抜粋)
(この通達の定めにより難い場合の評価)
6 この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。
◎ チェスターの視点
本件特例は、昭和50年の通達(旧昭50直資5-17)における取扱いが、昭和58年度税制改正において制度化されたものです。
当時は、親と子で共通の生活基盤を築くという「家制度」的な家族形態が色濃く残っていた時代でしたが、時代の変化とともに、家族形態は、大きく変わっております。
そういう意味で、今後、本件特例(特定居住用宅地等)の要件見直し等が行われなければ、この特例の一部形骸化が懸念されますので、今後の税制改正要望において、是非、この点をご検討いただければ幸いです。
また、税理士法人チェスターは、生前対策へのアドバイスも行っておりますので、これから相続税の生前対策をご検討しようという方は、是非ご相談ください。
※本記事は記事投稿時点(2025年3月3日)の法令・情報に基づき作成されたものです。
現在の状況とは異なる可能性があることを予めご了承ください。
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