チェスターNEWS
遺言無効訴訟における和解解決金に対する相続税の更正処分は違法(裁決)

相続人の1人(以下「請求人」といいます。)が、被相続人が有する一切の財産を兄に相続させる旨の公正証書遺言の無効を求める訴えを提起しました。
訴訟上の和解により兄から請求人に対して支払われることとなった解決金(本件解決金)について、原処分庁が、本件解決金は遺留分減殺請求(注)に基づく価額弁償金であって、その全額が請求人の相続税の課税価格に算入されるとして行った相続税法35条3項1号に基づく課税処分の適否が争われた事件において、国税不服審判所は、令和6年7月3日、当該課税処分を取り消す旨の裁決を下しました。
(出典:国税不服審判所HP)
(注)遺留分減殺請求は旧民法の制度で、現行民法では「遺留分侵害額請求」と改められています。令和元年6月30日以前に被相続人が死亡した場合は遺留分減殺請求、令和元年7月1日以降に被相続人が死亡した場合は遺留分侵害額請求を行うことができます。
1.時系列

2.争点
本件解決金は、請求人の兄に対する遺留分減殺請求に基づく価額弁償金に該当するか否か。
3.審判所の判断
国税不服審判所HPより、裁決要旨を抜粋します。
(1) 裁決のポイント
本事例は、請求人が、訴訟上の和解に基づき受領した解決金は、その全額が遺留分減殺請求に基づく価額弁償金であると認めるに足りる客観的な証拠はなく、価額弁償金以外の法的性質を有する金員が含まれていることを否定できず、遺留分減殺請求に基づく価額弁償金に該当すると断定することはできないことから、更正の特則である相続税法第35条《更正及び決定の特則》第3項第1号の要件は満たさないと判断したものである。
引用:国税不服審判所HP
(2) 裁決要旨
原処分庁は、請求人が被相続人が有する一切の財産を請求人の兄に相続させる旨の公正証書遺言の無効を求める訴えを提起したところ、訴訟上の和解により請求人の兄から請求人に対して支払われることとなった解決金(本件解決金)について、①当該訴訟における双方の代理人弁護士の認識、②当該訴訟において請求人が予備的主張として遺留分減殺請求に基づく価額弁償を請求していたこと及び③当該和解後に請求人の兄が本件解決金の全額が請求人の個別的遺留分であることを前提として行動していたことからすると、本件解決金は遺留分減殺請求に基づく価額弁償金であって、その全額が請求人の相続税の課税価格に算入される旨主張する。
しかしながら、①和解調書には、本件解決金が遺留分減殺請求に基づく価額弁償金であることを示す記載はないこと、②当該訴訟における双方の代理人弁護士のいずれの申述内容も、本件解決金の全額が遺留分減殺請求に基づく価額弁償金であるとするものではなく、担当裁判官の心証も不明であること、③当該訴訟においては、主位的には公正証書遺言の無効を主張しているのであって、予備的な主張を根拠にして本件解決金の性質を判断することはできないこと及び④請求人の兄も、和解当時、本件解決金には遅延利息が含まれていると認識していたと考えられること等からすると、本件解決金は、その全額が遺留分減殺請求に基づく価額弁償金であると認めるに足りる客観的な証拠はなく、価額弁償金以外の法的性質を有する金が含まれていたことを否定できない。したがって、原処分庁の主張には理由がない。
引用:国税不服審判所HP
4.チェスターの視点
国税不服審判所は、裁決の中で、以下のように判断しています。
本件解決金の中に、請求人の遺留分減殺請求に基づく価額弁償金が含まれていること自体は認められるものの、上記の各申述等の内容に相当程度の齟齬がみられることに鑑みると、本件訴訟の担当裁判官が、本件解決金のうち、どの部分を遺留分減殺請求に基づく価額弁償金とし、どの部分をそれ以外の性質のものと考えていたのかは定かではないといわざるを得ない。そうすると、少なくとも本件解決金の全額が遺留分減殺請求に基づく価額弁償金であると認めることはできない。
(出典:国税庁「国税不服審判所 裁決事例集」 > (令和6年7月3日裁決) > 4 当審判所の判断 > (4)のハ)
そのため、本件解決金の中に遺留分減殺請求に基づく価額弁償金が含まれていると判断したことは明らかと考えます。
しかしながら、国税不服審判所は、以下のように断じました。
本件金員は、遺留分減殺請求に基づく価額弁償金であると断定することはできないのであるから、本件金員について、遺留分による減殺の請求に基づき弁償すべき額が確定したとはいえず、請求人の兄の更正の請求については相続税法第32条第1項第3号の事由があるとは認められない。
したがって、原処分は、相続税法第35条第3項第1号の要件を満たさないから、違法であり、その全部を取り消すべきである。
(出典:国税庁「国税不服審判所 裁決事例集」 > (令和6年7月3日裁決) > 4 当審判所の判断 > (6))
つまり、結論において、本件解決金の全部が、遺留分減殺請求に基づく価額弁償金であると断定することはできないから、全部アウトと判断したことになります。
国税不服審判所が、本件裁決を公表裁決とされた以上、この裁決は、先例性がある、又は世の中の参考になると判断したものと推測いたします。
そうすると、国税不服審判所は、原処分庁が、今後、本件のような内容が不明確な和解に係る解決金を支払った側からの更正の請求(相法32①三)を認めないとの選択肢を与えてしまったような気がいたします。
国税不服審判所が、果たしてそこまで考えて本件裁決を出されたのか、少し疑問が残る裁決でした。
参考
相続税法(抄)
(更正の請求の特則)
第三十二条 相続税又は贈与税について申告書を提出した者又は決定を受けた者は、次の各号のいずれかに該当する事由により当該申告又は決定に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額(当該申告書を提出した後又は当該決定を受けた後修正申告書の提出又は更正があつた場合には、当該修正申告又は更正に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額)が過大となつたときは、当該各号に規定する事由が生じたことを知つた日の翌日から四月以内に限り、納税地の所轄税務署長に対し、その課税価格及び相続税額又は贈与税額につき更正の請求(国税通則法第二十三条第一項(更正の請求)の規定による更正の請求をいう。第三十三条の二において同じ。)をすることができる。一~二(省略)
三 遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したこと。
(以下省略)(更正及び決定の特則)
第三十五条 1~2(省略)3 税務署長は、第三十二条第一項第一号から第六号までの規定による更正の請求に基づき更正をした場合において、当該請求をした者の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した他の者(当該被相続人から第二十一条の九第三項の規定の適用を受ける財産を贈与により取得した者を含む。以下この項において同じ。)につき次に掲げる事由があるときは、当該事由に基づき、その者に係る課税価格又は相続税額の更正又は決定をする。ただし、当該請求があつた日から一年を経過した日と国税通則法第七十条(国税の更正、決定等の期間制限)の規定により更正又は決定をすることができないこととなる日とのいずれか遅い日以後においては、この限りでない。
一 当該他の者が第二十七条若しくは第二十九条の規定による申告書(これらの申告書に係る期限後申告書及び修正申告書を含む。)を提出し、又は相続税について決定を受けた者である場合において、当該申告又は決定に係る課税価格又は相続税額(当該申告又は決定があつた後修正申告書の提出又は更正があつた場合には、当該修正申告又は更正に係る課税価格又は相続税額)が当該請求に基づく更正の基因となつた事実を基礎として計算した場合におけるその者に係る課税価格又は相続税額と異なることとなること。
(以下省略)
※本記事は記事投稿時点(2025年6月16日)の法令・情報に基づき作成されたものです。
現在の状況とは異なる可能性があることを予めご了承ください。
※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。
「相続対策」も「相続税申告」もチェスターにおまかせ。
「相続税の納税額が大きくなりそう」・「将来相続することになる配偶者や子どもたちが困ることが出てきたらどうしよう」という不安な思いを抱えていませんか?
相続専門の税理士法人だからこそできる相続税の対策があります。
そしてすでに相続が起きてしまい、何から始めていいか分からない方もどうぞご安心ください。
様々な状況をご納得いく形で提案してきた相続のプロフェッショナル集団がお客様にとっての最善策をご提案致します。
DVDとガイドブックの無料資料請求はこちらへ
各種サービスをチェック!
\ご相談をされたい方はこちら!/
【次の記事】:相続税の総則6項適用事件(非上場株式)において国側逆転勝訴(東京高裁)