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相続税の総則6項適用事件(非上場株式)において国側逆転勝訴(東京高裁)

東京高裁は、令和7年6月19日、原処分庁が、国税庁長官の指示(財産評価基本通達 総則6項適用)を受けた価額で本件法人(資産管理会社)の株式(非上場)を評価し、課税処分を行ったことの適否が争われた事件において、本件課税処分を適法とする判決を下した模様です(納税者側敗訴)。
以下、参考として、本件の一審(国側敗訴)である東京地裁令和7年1月17日判決(以下「本件地裁判決」といいます。)の内容を確認することとします。
1.本件地裁判決における前提事実(概要)
(1) 本件被相続人は、平成25年4月18日から同年5月9日までの間、それまで保有していた上場株式を売却し、その売却代金相当額から源泉所得税等を控除した残額合計37億5,529万円を、本件被相続人名義の普通預金口座に入金した。
(2) イ 本件法人は、平成25年8月9日、臨時株主総会を開催して、①本件法人の目的のうち損害保険代理業及び生命保険の募集に関する業務を投資業及び有価証券の保有等に変更するなどの定款変更を行う旨、②本件法人の普通株式1株当たり40円を配当する旨、③本件法人が、第三者割当てによる募集株式の発行を行う旨、④募集株式の種類及び数を普通株式90万5,440株、払込金額を36億0002万円(1株当たり3,976円)と募集事項を決定し、本件被相続人に募集株式を全て割り当てる旨を決議した。
ロ これを受け、本件被相続人は、平成25年8月9日、上記の本件被相続人名義の口座から当該払込金額に相当する金銭を本件法人に払い込み、募集株式を引き受けた(以下、この払込みに係る募集株式の発行を「本件新株発行」という。)。
ハ 本件法人は、平成25年8月12日付で、発行済株式の総数を147万6,856株に更正する登記をした。
ニ 本件法人は、平成25年9月30日、株式配当を行った。
(3) 本件被相続人は、平成25年10月14日、死亡した。
(出典:東京地裁令和7年1月17日判決)
2.本件地裁判決の判断(概要)
(1) 前提事実の事実関係の下において、本件株式の価額を評価通達の定める方法(併用方式)により評価することを前提とすると、本件新株発行等をしたことにより、相続税の総額等は相当程度減少する。しかしこの減少は、原告及び本件被相続人が本件新株発行等をしたことにより、相続税の総額等は相当程度減少するものの、この減少は、原告及び本件被相続人が本件新株発行等をしたことにより直ちに生ずるものではなく、評価通達179(3)が、小会社の株式の価額の評価方法について、納税義務者による純資産価額方式と併用方式の選択を認めていることに起因するものといえる。
なお、客観的な交換価値としての時価は一義的なものではなく、その評価方法も複数あり得る。そのため評価方法が異なれば、それぞれの方法が合理的であっても評価額に違いが生ずるのは当然であるから、本件株式の価額を評価通達の定める方法(併用方式)により評価した額と、本件各更正処分価額(純資産価額方式により評価した額)や本件報告書(原告が証拠として提出した平成28年7月7日付株式価値算定報告書(本件株式を1株当たり3,488円として評価したもの)を指します。)における評価額との間に大きなかい離があることをもって、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があるということはできない(令和4年最判参照)。
もとより、評価通達が、純資産価額方式と併用方式のそれぞれを合理的な評価方法とし、いずれによるかは専ら納税義務者の選択に委ねることとしている以上、仮に原告及び本件被相続人が本件新株発行等をしたとしても、そのことを上記の事情の有無の判断に当たり重視することは相当でない。
(2) 以上によれば、本件において本件株式の価額を評価通達の定める方法により評価することが、本件新株発行等のような行為をせず、又はすることのできない他の納税者と原告らとの間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するということはできない。
したがって、本件株式の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、租税法上の一般原則としての平等原則に違反するといわざるを得ない。
(出典:東京地裁令和7年1月17日判決)
◎ チェスターの視点
本件地裁判決では、前提事実のみに基づき判断が行われています。
認定事実に基づき、最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決において示された「相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合」に該当するか否かの当てはめを行った形跡が見当たりませんでした。
(参考:最高裁 令和4年4月19日 第三小法廷判決)
本件事案に係る令和3年8月27日裁決では、以下の事実認定とその事実に基づき生じた結果を踏まえた判断が行われたように思えます。
- 本件法人が、本件被相続人の死亡直前に第三者割当(募集発行)を行うこととし、募集株式を、株主均等ではなく、本件被相続人にのみに割り当てたこと
- この株式取得によって、被相続人の保有資産が、預金(そのものの価額)から株式(相続税評価額)に変わったこと
- 本件被相続人、請求人(相続人)及び本件法人が行った行為(上記下線部分)により、本件法人の株式評価に当たっての評価通達の適用要件事実(本件法人の比準要素、株式等保有割合等)が変更されたこと
(参考:令和3年8月27日裁決・TAINS コードF0-3-765)
東京高裁令和7年6月19日判決の判決文は未確認ですが、裁判所は、新たに事実認定を行った上で、本件が、最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決において示された「相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合」に該当するか否かの当てはめを行い、その上で課税処分を適法とする判決を下したのではないかと推察いたします。
参考
令和3年8月27日裁決における認定事実とその事実に基づき生じた結果

(参考:令和3年8月27日裁決・TAINS コードF0-3-765)
※本記事は記事投稿時点(2025年6月20日)の法令・情報に基づき作成されたものです。
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