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相続法改正!自筆証書遺言制度見直し、配偶者保護の制度など

2018/04/26

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1.はじめに

 平成30年3月13日、相続に関する民法の改正法案(「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案」)等が国会に提出されました。これにより、原則として、法律の公布から1年以内の政令で定める日から施行されることが明らかになりました。
 今回の改正法案の主な内容としては、①自筆証書遺言制度の見直し②配偶者居住権の創設③夫婦間での自宅の贈与等を保護する制度の創設④預貯金債権の仮払制度の創設⑤相続人以外の者の貢献を考慮する制度の創設があります。
 以下、各々について、具体的に説明していきます。

2.自筆証書遺言制度の見直し(自署性に関して)

(1)現行制度

自筆証書遺言は、その全文を自署(手書き)する必要があります(民法968条1項)。手書きの必要があるのは、遺言の本文だけでなく、財産目録も全てになります。

遺言本文、財産目録の全てを手書きするとなると、書くだけでも大変ですが、書き間違ったりした場合には、決まった要式で訂正する必要があり、これができていないと、自筆証書遺言は無効となってしまうことから(民法968条2項)、とても面倒な制度ともいえました。

(2)改正案

改正案では、自筆証書遺言のうち、財産目録の部分については自署する必要がなく、ワープロで作成してもよいこととされました(改正民法968条2項)。
本改正により、財産目録だけでも手書きの面倒臭さが減り、記載内容の不備により無効となる危険も減ることから、今後、自筆証書遺言の利用の増加が見込まれます。

(3)施行時期(経過措置)

公布日から起算して6か月を経過した日
(施行日前にされた自筆証書遺言には現行制度を適用します)。

3.自筆証書遺言の見直し(保管制度、検認手続に関して)

(1)現行制度

自筆証書は自宅で保管されることが多く、紛失、破棄などのおそれがあり、また、遺言者が死亡し、自筆証書遺言が発見された場合に、裁判所による検認の手続きを経なければならず、その手続きの煩雑さから、自筆証書遺言の利用が促進されないという現状がありました。

(2)改正案

改正案では、法務局において遺言書を保管する制度(「法務局における遺言書の保管等に関する法律案」)が創設されることとなりました。
具体的には、遺言者は、自ら作成した自筆証書遺言について、遺言書保管所として指定された(住所地、本籍地、所有不動産の所在地を管轄する)法務局に対して、当該遺言の保管申請を行うことができることになりました(改正案4条2項)。

なお、代理申請は、できません(改正案4条6項)。そして、申請が許可された遺言書については、遺言書の画像等の情報が磁気ディスク等に保存されることになります(改正案7条2項)。

また、遺言者の死亡後、その「関係相続人等」(相続人、当該遺言書に記載された者など)は遺言書保管官に対して、「遺言書情報証明書(遺言書保管ファイルに記載された事項を証明するもの)」の交付を請求することができる(改正案9条1項2項)他、遺言書原本の閲覧を申請・請求することもできることになりました(改正案9条3項)。

さらに、当該法務局に保管された自筆証書遺言については、検認手続を要しないこととされています(改正案11条)。
本改正により、自筆証書遺言の保管場所が確保され、検認手続きも不要となることから、今後、自筆証書遺言の利用促進が大きく期待されることとなります。

(3)施行時期(経過措置)

公布日から起算して6か月を経過した日(施行日前にされた自筆証書遺言には現行制度を適用します)。

4.配偶者居住権の創設

(1)現行制度

被相続人(亡くなった人)の資産に金融資産(現金、預貯金、有価証券など)が乏しく、主な資産が自宅不動産である場合に、被相続人の配偶者とその他の相続人(被相続人の子供や兄弟姉妹など)との関係が良好でないとすると、遺産分割の過程において、自宅を売却することになり、配偶者が自宅から退去を迫られるケースがあります。

また、配偶者が自宅の所有権を相続し、住み続けることができたとしても、仮に自宅の不動産評価額が高額であれば、現金や預貯金などの金融資産の取り分が少なくなり、結果的に、生活が不安定となることもあります。

(2)改正案

改正案では、被相続人の死後、残された高齢な配偶者の生活を安定させるため、配偶者が自宅に住み続けることができる法定権利としての「配偶者居住権」というものが創設されることとなりました。

具体的には、自宅不動産の権利を「所有権」と「配偶者居住権」に分け、配偶者が遺産分割等の際に、配偶者居住権を選択できることとし、配偶者以外の相続人や第三者が自宅不動産の所有権を取得する場合は、負担付の所有権を取得することになります。

ですので、配偶者は、自宅不動産で住み続けることができますし、自宅所有権自体を取得するよりも、他の財産をより多く取得することができるようになり、結果、高齢配偶者の生活の安定に資するものになります。

(3)具体例

 では、上記の改正案が施行されることによって、具体的にどのように変わるかについて具体的に説明してみたいと思います。
 例えば、夫が死亡し、相続人が、その妻と長男の二人のみの場合を考えます(法定相続分は1:1)。

遺産は、自宅(2000万円)と預貯金債権(1000万円)のみとします。

妻にとっては、残された自宅が居住不動産のため、妻が自宅を相続することとします。

妻と長男の法定相続分が1:1のため、妻:長男=1500万円:1500万

というように、妻と長男は、各々1500万円ずつ亡夫の遺産を相続することになります。

ただ、上記のように、妻としては、自宅不動産を相続して、住み続けたいことから、自宅を相続することを考えます。とすれば、自宅不動産の評価額が2000万円であることから、自宅不動産の評価額2000万円のうち500万円分については、長男の持ち分ということになり、500万円を現金で長男に渡す必要が出てくることになります。

ただ、これでは、妻は、夫の残した預貯金債権1000万円を相続できないばかりか、自宅不動産についての長男の持ち分とされる500万円の出費が必要となり、妻の今後の生活が不安定になりかねません。

では、改正案によると、どうなるのでしょうか?

妻が自宅不動産について配偶者居住権(1000万円)を取得する場合、長男は自宅不動産について負担付所有権(1000万円)を取得することになり、預貯金債権については、妻、長男、各々が500万円ずつ相続するということになります。

このように改正案によれば、妻は自宅不動産に住み続けることができる上に、現行制度のように自宅不動産についての長男の持ち分について現金を持ち出す必要がなく、さらには、預貯金債権の一部について相続することができ、妻の今後の生活の安定に資することになります。

(4)施行時期(経過措置)

公布日から起算して2年を超えない範囲内で政令で定める日(施行日以降に開始した相続に新制度を適用し、施行日前に開始した相続には現行制度を適用する等)。

5.夫婦間での自宅の贈与等を保護する制度の創設

(1)現行制度

被相続人が、その資産を生前に配偶者に贈与等したとしても、原則として、被相続人の死後に遺産として相続するはずのものを、配偶者は先に渡されたと考えられます(遺産の先渡し=特別受益)。

すなわち、生前に贈与等された財産についても、被相続人の死後、その遺産の中に含まれるものとして考えられるため(贈与財産の持ち戻し)、生前贈与を受けた財産も遺産分割の対象となります。それゆえ、結局、被相続人がせっかく生前に配偶者に資産を贈与等しても、それがなかったのと同じような結果になってしまいます。

ただ、それでは、被相続人が、残された配偶者の生活の安定を考えて資産を贈与等した意図が実現できずじまいになってしまうという弊害がありました。

(2)改正案

改正案においては、婚姻期間が20年以上の夫婦が、配偶者に居住用不動産を遺贈又は贈与した場合、贈与又は遺贈をした一方配偶者の死亡により相続人間で遺産分割をする際に、他方配偶者が遺贈又は贈与を受けた居住用不動産については、「遺産とみなさない」という意思表示があったものと推定して、遺産分割協議の対象から除外することとしました(改正民法903条4項)。

この改正案は、相続税法の「贈与税の配偶者控除」の考え方を民法にも連動させたものと考えられます。

すなわち、相続税法には、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で住宅や住宅取得資金の贈与がされた場合には、2000万円まで非課税とする「贈与税の配偶者控除」という規定があります。

ですが、この特例を適用した贈与した財産であったとしても、現行制度によれば、贈与者した一方配偶者の死亡後には、特別受益として、遺産分割協議の対象となってしまいます。

これを改正案では、遺産分割協議の対象から除外することによって、民法と相続税法を連動させたものと考えられます。

これにより、残された配偶者が住宅を確保しやすくなり、さらには、住宅以外の遺産についても取り分が得やすくなり、生活の安定につながることが期待されます。

(3)具体例

では、上記の改正案が施行されることによって、具体的にどのように変わるかについて具体的に説明してみたいと思います。

例えば、夫が死亡し、相続人が、その妻と長男の二人のみの場合を考えます(法定相続分は1:1)。

遺産は、自宅(2000万円)と預貯金債権(4000万円)のみとします。

夫は、生前、妻に自宅不動産を贈与していましたが、遺産分割において、現行制度によれば、生前贈与された自宅不動産についても遺産の中に含めて考えられるため、夫の遺産は自宅不動産(2000万円)と預貯金債権(4000万円)の合計6000万円になります。

これを法定相続分1:1で相続しますので、妻:長男=3000万円:3000万円となり、妻としては、自宅不動産に住み続けるために自宅不動産の取得を希望した場合、内訳としては、

妻;自宅不動産(2000万円)+預貯金債権(1000万円)=3000万円
長男:預貯金債権(3000万円)

となりますが、これは生前贈与がない場合でも同じ相続額であり、これでは、夫が妻のためにわざわざ自宅不動産を生前贈与した趣旨が没却されてしまいます。

では、改正案によると、どうなるのでしょうか。

改正案によると、婚姻期間が20年以上の夫婦であれば、夫が生前、妻に贈与した自宅不動産について、遺産分割する際に遺産に含めて考えなくてもよいので、夫の遺産は預貯金債権(4000万円)として法定相続分に応じて相続することになります。

妻:預貯金債権(2000万円)
長男:預貯金債権(2000万円)

妻に関しては、上記の預貯金債権と生前に贈与された自宅不動産(2000万円)が取り分となりますので、最終的な取得分は、自宅不動産(2000万円)+預貯金債権(2000万円)=4000万円となり、現行制度よりも、より多くの財産を取得できるようになります。

(4)施行時期(経過措置)

公布日から起算して1年を超えない範囲内で政令で定める日(施行日前にされた遺贈又は贈与には新制度を適用しません)。

6.預貯金債権の仮払制度の創設

(1)現行制度

従来、相続された預貯金債権は、遺産分割の対象とならず、共同相続人はそれぞれの持ち分に応じて(法定相続分)、銀行に対して払戻を請求することができましたが、平成28年12月19日、最高裁において従来の判例を変更し、預貯金債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象になると判断されました。

これにより、遺産分割が終わるまで共同相続人が持ち分に応じて単独で銀行に対して払戻を請求することができなくなりました。

ただ、遺産分割協議が終わるまでに、生活費や葬儀費用などで被相続人の預貯金債権の払い戻しが必要となる場合があるにもかかわらず、共同相続人が持ち分に応じた単独の払い戻し請求ができないことから、共同相続人間で一部分割の合意などをする必要があり、容易に合意が得られない場合に不都合でした。

(2)改正案

預貯金債権について仮払の必要性があると認められる場合は、家庭裁判所の判断で預貯金債権の一定金額について、単独での払戻が認められるようになります(改正民法909条の2)。

具体的には、遺産である預貯金債権のうち、相続開始時の債権額の「法定相続分×1/3(※)」については、現行制度のように他の相続人等の合意がなくても単独で権利行使できると改正案で定められています。これにより、相続人の生活費や葬儀費用を賄うために、相続人が遺産である預貯金債権について一定額については単独で払い戻すことも可能となり、残された相続人の生活の安定に資することになります。

※金融機関ごとに払い戻しを認める上限額については、標準的な必要生計費や平均的な葬式の費用の額その他の事情(高齢者世帯の貯蓄状況など)を勘案して法務省令で定められます。

(3)施行時期(経過措置)

公布日から起算して1年を超えない範囲内で政令で定める日(施行日前に開始した相続について、施行日以後に預貯金債権が行使される場合にも新制度を適用する等)。

7.相続人以外の者の貢献を考慮する制度の創設

(1)現行制度

相続人以外の者は、被相続人に対して無償で介護などで尽くしたとしても、相続財産を取得することができません。

例えば、長男の嫁が、義父の介護を尽くしたとして、その後、義父が死亡し、その時の相続人が義母と長男と次男だったとします(長男の嫁は、義母と長男とは同居と仮定)。

この場合、長男の嫁が義母と長男との関係が劣悪であるなどの事情がなければ、義父の遺産の相続を受けないとしても、その恩恵を受けることが考えられます。

ですが、もし義父の介護をしていた時点で、すでに義母も長男も死亡していた場合、相続人は次男のみとなります。

これでは、義父の介護で尽くした長男の嫁は、義父の遺産を相続することはなく、全ての遺産が次男に相続され、結果、何らの恩恵も受けることができないといった事態になりかねません。

(2)改正案

改正案では、上記のように相続人以外の者の貢献を考慮するために、そのような貢献をした者を「特別寄与者」として、その者は、相続開始後、相続人に対して特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払いを請求することができるようにしました。

(3)施行時期(経過措置)

公布日から起算して1年を超えない範囲内で政令で定める日(施行日前に開始した相続には現行制度を適用します)。

※本記事は記事投稿時点(2018年4月26日)の法令・情報に基づき作成されたものです。
現在の状況とは異なる可能性があることを予めご了承ください。

※この記事は専門家監修のもと慎重に執筆を行っておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。なお、ご指摘がある場合にはお手数おかけ致しますが、「お問合せフォーム→掲載記事に関するご指摘等」よりお問合せ下さい。但し、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。

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