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仮想通貨を相続した時の課税関係が判明!
(1)はじめに
昨今、社会的に大きな関心を集めいている仮想通貨ですが、その取引が広がる一方で、法整備が追い付いていないというのが現状です。とりわけ税制上の取扱いについては、その整備が急がれるところです。
そんな中、国税庁では、平成29年12月に、「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」を公表するとともに、その内容について仮想通貨関連団体に対して顧客等への周知・広報を依頼するなど、関係者の協力も得ながら、仮想通貨取引等の適正な申告と納税に向けた環境整備に努めているところです。ただ、平成29年分の確定申告では、大きな混乱が生じることがなかったにしても、納税者から確定申告を行う際の不便さについての声が挙がっていました。というのも、仮想通貨取引について確定申告をするためには、取引を行った仮想通貨交換業者から売買履歴のデータを入手したりする必要があり、面倒なところがあるからです。
そこで、国税庁としては、平成30年分の納税者自身による適正な確定申告に向けて、「仮想通貨取引等に係る申告等の環境整備に関する研究会」を設置し、平成30年4月27日に第1回目の会合が行われました。研究会での当面の協議事項例としては「仮想通貨取引所利用者に対する所得計算上必要な情報の提供といった申告利便向上策」があります。
(2)仮想通貨を相続したら、相続税が課税されるのでしょうか?
ⅰ)相続税とは、人の死亡によって財産が移転する機会にその財産に対して課される租税であるところ(金子宏著「租税法第12版」433頁)、そもそも、仮想通貨に財産的価値があるのか、仮想通貨に財産的価値がなければ相続税が課されないことになることから問題となります。
仮想通貨については、資金決済に関する法律(以下「資金決済法」とする)第2条5項により定義づけられており、これにより、仮想通貨に財産的価値があることが分かります。
資金決済に関する法律第2条5項
第5項この法律において「仮想通貨」とは、次に掲げるものをいう。
一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
また、資金決済法の改正により、仮想通貨が支払いの手段として位置づけられることとなりました。さらに、諸外国における課税関係等を踏まえ、消費税が非課税とされる支払手段に仮想通貨が追加されました。(平成29年税制改正、平成29年7月1日施行)
このようなことから、仮想通貨に財産的価値があることが法律上認められていると言えます。
ⅱ)では、仮想通貨を相続した場合に、相続税が課されるのでしょうか。
これについては、国税庁の藤井健志氏(国税庁次長兼国税庁長官心得)が平成30年3月23日に行われた参議院の財政金融委員会において、以下のような答弁を行ったことから、仮想通貨にも相続税が課されることが明らかとなりました。
「相続税法では、個人が金銭に見積もることができる経済的価値のある財産を相続又は遺贈により取得した場合には、相続税の課税対象になるとされている」とした上で、「仮想通貨については資金決済法上、代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値と規定されておりますので、相続税が課税される」という答弁があり、仮想通貨にも相続税が課税されることが明らかとなりました。
(3)相続人が仮想通貨のパスワードを知らなくても課税されるのでしょうか?
仮想通貨を相続したとしても、そのパスワードを知らなければ、取引をすることができず、結局のところ、相続人は仮想通貨を相続したとしても、実際には仮想通貨を取得することができないことになります。にもかかわらず、相続税は課されるのでしょうか。
これについても、国税庁の藤井健志氏(国税庁次長兼国税庁長官心得)が平成30年3月23日に行われた参議院の財政金融委員会において、以下のような答弁を行ったことから、相続人が相続した仮想通貨のパスワードを知らない場合でも相続税が課されるという解釈を課税当局がしていることが明らかとなりました。
藤井氏は、パスワードとの関係について、一般論とした上で「相続人が被相続人の設定したパスワードを知らない場合であっても、相続人は被相続人の保有していた仮想通貨を承継することになりますので、その仮想通貨は相続税の課税対象となる」という解釈をしていることを答弁しました。
また、「仮想通貨に関連するビジネスがまだ初期段階で、仮想通貨に関する制度整備が途上ではないかと考えられるため、現状において、確たることを申し上げるのが難しい」と答弁した上で、「パスワードを知っている、知っていないというような、パスワードの把握の有無というのは、当事者にしか分からない、いわば主観の問題ということになってしまう」ため、「課税当局としては、本当のことをおっしゃっているのかどうか、その真偽を判定することは困難」であることから、「現時点において、相続人の方からパスワードを知らないという主張があった場合でも、相続税の課税対象となる財産に該当しないと解することは課税の公平の観点から問題があり、適当ではない」と考えている旨の答弁がありました。
課税当局が言うように、仮想通貨を相続した人が、その仮想通貨のパスワードを知っているかどうかは、当事者にしか分からないことであり、仮に、その相続人が「パスワードを知らない」と嘘の申告をした場合に相続税の課税を免れるというのであれば、脱税を用意に認めてしまうことになります。
他方、仮に、多額の仮想通貨を有する者が不慮の事故で突然亡くなったが、パスワードを相続人に伝えることができていなかった場合、相続人は、相続した仮想通貨を実際に取得できないばかりか、多額の相続税まで課税されるという不都合が生じてしまいます。また、自身の仮想通貨取引所への不正ログインを防止するために、二段階認証など様々なセキュリティを施すことで複数のパスワードが必要となっている仮想通貨については、全てのパスワードを相続人となるべき人に伝えておくのも難しいという現状もあります。
よって、このような現状も踏まえた今後の法整備が望まれるところです。
(4)仮想通貨の取引による所得について、相続税の取得費加算の特例が適用されるのでしょうか?
ここで、相続税の取得費加算の特例とは、相続した土地、建物、株式などを申告期限から3年以内に譲渡する際には、相続税額を当該資産の取得費に加算することができる制度のことを言います。
これについては、財務省の星野次彦氏(財務省主税局長)が平成30年3月23日に行われた参議院の財政金融委員会において、以下のような答弁を行い、慎重な検討が必要との見解を示しました。
相続税の取得費加算の特例についての説明の後、「譲渡所得の計算におきましては、相続税の課税対象となった資産を相続税の申告期限後3年以内に譲渡した場合には、資産にかかる相続税額を当該資産の取得費に加算して、譲渡所得の計算上控除することができるという特例が設けられております。」とした上で、「仮想通貨の取引による所得について、こういった特例を設けるかどうか」という点については、「土地や株式の譲渡による所得は原則として譲渡所得に区分されるわけでございますけれども、仮想通貨の譲渡による所得は、原則として雑所得に区分される」もので「性質が異なっているということ」、そして、「雑所得は他のいずれにも該当しない所得ということで、様々な内容の所得が含まれうることになりますので、どういった考え方に基づいて雑所得の計算上相続税額を控除するのか、そこの筋道だった整理がなかなか難しいこと」という観点から、「慎重な検討が必要であると考えております」との答弁をした。
(5)マイニングにより仮想通貨を取得した場合の課税はどうなるのか?
ここで、マイニングとは、仮想通貨の生成のことを指します。
(国税庁「仮想通貨の税務上の税務上の取扱いー現状と課題―」2(3)イ(ロ))
このマイニングにより仮想通貨を取得した場合、いつの時点で課税されるのでしょうか。
この点について、平成30年3月23日に行われた参議院の財政金融委員会において、藤巻健史議員から「マイニングをするときに、マイニングの時点で課税になっているが、これは担税力の観点からすると、おかしいのではないか。マイニングだけではなく、売却して初めて実現益が出ると考えるべきではないか」という質問がありました。
これに対して、国税庁の藤井健志氏(国税庁次長兼国税庁長官心得)は「いわゆるマイニングによって仮想通貨を取得する」ということになるので、課税当局の取り扱いとしては、「その取得時点での仮想通貨の…時価が所得税法上の収入金額又は法人税法上の益金になると考えております。その際、担税力という観点からしますと、この場合の課税標準となる所得金額については、取得時点での時価からマイニングに要した費用、例えば、パソコンの減価償却費や電気代等を費用として控除して担税力のある所得金額を計算するということになります。」との答弁をしました。
このように、課税当局としては、マイニングにより仮想通貨を取得した場合については、取得時の時価が所得税法上の収入金額又は法人税法上の益金として取り扱われることが明らかとなりました。
(6)仮想通貨取引は、今後、FX(外国為替証拠金取引)のように申告分離課税となるのか?
現在、仮想通貨を使用することによって利益が生じた場合、雑所得として総合課税されます。そして、雑所得の範囲内での損益通算はできますが、他の各種所得金額との損益通算はできないこととなっています。
このような取り扱いは、平成23年税制改正が施行される前のFXと同様となっています。これに関連して、参議院議員藤巻健史氏が平成30年3月23日に行われた参議院の財政金融委員会において、次のような質問をしました。
「国内FX取引というのは、雑所得でありながら租税特別措置法によって申告分離課税20%が採用されていますが、同じ雑所得であっても仮想通貨は今のところ総合課税とされています。仮想通貨についても、将来的にはFXと同じように申告分離課税になる可能性もあるのでしょうか」
これに対して、財務省の星野次郎氏(財務省主税局長)は次のような答弁をしました。
「仮想通貨を売却又は使用することによる損益は、原則として雑所得に区分され、総合課税の対象」となりますが、「この取り扱いは、日本円と外貨を交換した場合の為替差益が雑所得として総合課税の対象となることとのバランスを考えれば適当なものと考えています。」「一定のFXを含む先物取引による所得については、先物取引が価格変動リスクの回避、公正かつ透明な価格指標の提供等重要な役割を担っていることを踏まえて、幅広い投資家の市場参加を促すことが重要であるとの観点から分離課税が適用されている」とし、「仮想通貨をこれと同列に論ずることはなかなか難しいのではないか」との見解を示しました。
このように、課税当局としては、仮想通貨がFXと同様に申告分離課税になるのは難しいとの見解を示していますが、今後、それが変わっていく可能性もあります。ですので、仮想通貨の取引で利益が生じている方は、確定申告をしておいた上で、今後の情勢にも注意を向けておく必要があります。
(7)終わりに
以上のように、仮想通貨の税制については、相続税が課税されることが明らかになったものの、まだまだ問題は山積みの状態です。今後も、仮想通貨に関する政府の動きに注目していくことが必要となるでしょう。
※本記事は記事投稿時点(2018年6月26日)の法令・情報に基づき作成されたものです。
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